14少女の奮闘、彼等の困惑

「お前らなんちゅー顔しとんねん…」

午後の練習に合わせて皆の元に戻ったあたしと白石の顔を見た謙也くんにそう言われた。隣に居た財前もこちらを見ては顔を顰める。そんな酷い顔してんのかなうちら…

「いや……うんちょっと………何でもない…」
「何でもないわけないやろ!?ものすっごい顔色悪いで!?具合悪いんか!?」
「違う違う……違うんだけど…後で話すわ……ねえ白石」
「……せやな…」

白石とお互い目を合わせることなく気まずそうに乾いた笑いを溢す。

「え、何なん、破局の危機か?」
「それはない」
「白石元気やんけ」

謙也の言葉に白石は即座に反応した。キリッとした表情で断言する白石にツッコむ気力はない。

「なんじゃ、白石と別れるんか猫宮」

話を聞きつけた仁王が背後から急に現れる。やめてほしい普通にびっくりするから。びっくりした時の顔ってすごいブサイクだから見ないでほしい。

「別れるんなら俺とどうじゃ?」
「超モテ期じゃんあたし」
「こら仁王クン!別れへんわ!理久も何喜んでんねん否定せぇや!」
「ていうか仁王クンあたしのこと好きなの?」
「いや別に」
「何なの??????」
「付き合ったら面白そうじゃなって」
「ただの照れ隠し?素直になれって仁王くん」
「猫宮面倒くさいのぅ…」
「はいそれブーメラン〜〜〜〜〜〜〜」

そんなやり取りをしていると突然首根っこを掴まれた。反射的に後ろを見えば不機嫌そうな白石である。ていうか首絞まるんですけど

「聖書と言われとるあの白石が焦っとるのぅ」
「あんたこれが見たかっただけかよ趣味悪〜!」
「写真撮ってええか?」
「いいわけねーだろ!」

仁王は至極面白そうに笑って手をひらひら振りながら居なくなった。めんどくせえなあいつ!

「理久〜」

怒りが含んだ声色であたしの名前を呼ぶ白石をちらりと見ればすぐ目を逸らす。こええ。

「いたずらした猫叱っとるみたいっすね、部長」

そう言いながらパシャリと写真を撮る財前を蹴飛ばそうとするも足が届かない。「理久先輩足みじかッ」って言った財前本当許さない。短いわけじゃねえ距離があるんだよ距離が!!

「理久ちゃん何してるの?叱られた猫の真似?」

あたしを呼びに来たであろう愛梨ちゃんに笑われた。ウケる、とか言いながら財前と同じように写真を撮る。え、ちょっと……愛梨ちゃんちょっと…

「違うよ…全然違うよ……」
「これ待ち受けにしていい?」
「愛梨ちゃん何で半笑いなの?」
「そんなことよりさ」
「そんなことより」

愛梨ちゃんの向日化に待ったをかけたい。確実に悪影響を受けているぞ愛梨ちゃん、ちょっと向日やめてよねマジで。

「午後の練習始まるから行こー」
「へーい」

****

これはこれは、困ったことになった。
目の前で繰り広げられる出来事に、あたしは腕を組んで唸った。
奮起でもしたのだろうか。芽衣子ちゃんが実にアクティブだ。白石だけじゃない、立海氷帝に対して大変積極的だ。
可愛らしい笑顔を振りまいて、人懐っこく話しかける様子は、知らない人から見たら大変微笑ましいだろう。
だが実際は違う。
見てみろ皆の引き攣った顔を。『何で話しかけてくるんだコイツ』みたいな顔をしている。ほぼほぼ全員が、だ。最初は彼らも少し丸くなって、女の子に対する態度を変えたのかとも思った。
けれども多分違っていて、きっぱりと芽衣子ちゃんを突っぱねない彼らは確実に困惑している。多分意味が分からなさ過ぎて突っぱねることができないんだ。あの赤也でさえ幽霊でも見たような顔をして戸惑っている。

「おい」

ふと、横から声をかけられた。
顔を向けると跡部が不機嫌そうにこちらを見ていた。

「あの女どうした、おかしなモンでも食ったのか?」
「いや知らないよ…」
「何がどうなったらあんだけ馴れ馴れしくなるんだ」

キングらしからぬ重い溜息を吐き、あたしと同じように目の前の光景に目をやる。
ちなみに、芽衣子ちゃんは今幸村に媚びを売っている。命知らずかよ。

「猫宮」

今度は反対側から名前を呼ばれる。顔を向ければ柳だ。珍しいな。

「何すか」
「彼女……照井芽衣子は学校でもああなのか?」
「ええ?いやー……学年違うから何とも言えないけど、クラスだと財前くらいしか関り無いらいしよ。財前以外の同級生のことは殆ど無視なんだって」
「かと言って、財前に熱があるわけではない。白石にも随分入れ込んでいるようだな」
「あと千歳にも割とね。あいつすぐ逃げるけど」
「何がしたいんだろうな」
「柳くんにも分からんか」
「分かったら苦労はしない」
「データ取らなくていいの?」
「……ここまでデータを取りたくないと思った人間は初めてだよ」
「……マジすか」

分かりづらい表情のせいで今柳がどんな気持ちかは分からない。でもまあ雰囲気的に、気分は良くないんだろう。お疲れ様です。
ていうか今絵面凄いんじゃないか?跡部と柳の間に挟まれるってなかなかないし、そもそもこの二人が揃うってレアじゃない?
写真撮りて〜〜〜〜
ソワソワしていたらきめぇと跡部に叩かれた。思ったんだけど皆暴力振るい過ぎじゃないかな…

「ん?……おい猫宮」

トントン、と柳に肩を叩かれる。どうしたと上半身だけ少し寄ってみれば、コートの方を指さされた。

「ヘルプ要請じゃないのか、あれは」

柳が指さした先には、謙也くんが必死の形相で『タイム』のジェスチャーをしていた。何タイムって。どうぞ勝手にタイムってくださいよ。誰も止めはしないよ。
聡い柳はあれが馬鹿なりのヘルプ要請だとすぐ理解したようで、全く気付いていなかったあたしに声をかけたようだった。
というかあたしに何を助けてほしいんだ。今芽衣子ちゃんは隣のコートへ行っていて別に今現在謙也くんが被害を受けている様子はない。

「跡部くんにヘルプじゃないの?」
「何でだよ」
「歩くのめんっどくせー」
「抱えて行ってやろうか?俺様が」
「結構でござる」

ちら、と柳を見ると「後で相談がある。例の件だ」と小声で言われた。
真田と咲良のことですね合点承知の助。
ピシッと柳に敬礼をして、あたしは謙也くんの元へ走った。