夕食を食べ終わってさっさと部屋へ戻ろうとしたところを日吉に捕まりロビーで怪談話を聞かされた。いやまあ約束したけど、したけど!今それどころじゃなくて!ていうかめっちゃくちゃ怖かったしよ!!舐めてた!日吉舐めてた!!でも面白かった!!
怖いけどオチが気になるもんだから最後まで聞いちゃう。鳥肌立ちっぱなしだった。
「日吉くん、心霊スポットとか行っちゃだめだよ…」
「行きませんよ。……多分」
「だめだからね!?面白半分で行くのが一番危ないんだからね!!?!?」
「じゃあその時は猫宮さん誘いますね」
「どうして!!!?!?」
満足した日吉はほっこりした顔をして部屋に帰ってしまった。ちくしょう。
若干一人は怖いのであたしも部屋へ帰ろうとすると急に名前を呼ばれた。吃驚しすぎてその場で跳ねた。
「驚かせたか、すまないな」
「柳くんかい〜さっきまで日吉くんの怪談話聞いてたんだよびっくりした…」
「そうか。では俺もとっておきの怪談話を…」
「違うでしょ!別の話でしょ!」
「いいのか?」
「別にいいよ!!?」
とりあえずここだと人目につくということで、柳くんの部屋に行くことになった。今回は丁度良く真田と一緒の部屋らしく、真田も部屋で待っているらしい。
ハチャメチャに緊張するんですけど……まだ丸井とかうるさい奴の部屋ならいいんだけど柳と真田って…クソ緊張する……
彼の後ろをついて部屋に入ると、部屋着の真田が居た。これ写メって咲良に送っちゃだめかなぁ
「失礼します」
「ああ、猫宮か」
「ごめんね練習で疲れてる時に」
「別に構わん」
彼らは各々のベッドに座り、あたしは椅子に座らせてもらった。二人を前にするとやはり緊張する。妙な威圧感があるんですよ、分かりますかね。
「来てもらったのはまあ分かっている通り、成瀬さんのことだ」
柳が発した成瀬、という単語に真田がぴくりと反応する。
「……彼女は、その……今現在意中の相手は居るのだろうか」
はああああああああああああああ?????
もじもじと真田らしからぬ様子でそう聞いてくるもんだから、声には出さずともはあ?という顔をして真田を凝視してしまった。開いた口が塞がらないとはこのことである。
え待って待って?失礼ながら君達のLINEのやり取り見てましたけど、咲良めっちゃ好き好きオーラだしてるじゃん?ちょっと待って?ん?伝わってなかったの?は?
もうわけ分かんなくて、口を開けたまま柳を見やると気まずそうに目を逸らされた。目開いてないけど。
「待って……待って真田くん…気付いてないの…」
「何がだ?」
「咲良…成瀬咲良の好きな人……」
「……やはり居るのか。俺なんかとやり取りをしていてもいいものだろうか…」
カーッ!!!マジか!!そうか鈍感男かお前!!めんどくせえな!!!
今すぐ言ってしまいたい咲良の好きな人はお前だよと。でもこれはな、第三者が勝手に言っていいことではないからな、我慢する。
「真田くんは……その、咲良のこと…」
「………最初は少し鬱陶しくてな、会ったこともない女子と連絡を取るなど…と思っていたんだがな。とても内面の美しい子だった」
内 面 の 美 し い 子 。
まあな、あのLINEの内容だと明らか咲良猫被ってるからな。ちょっとな。まあ確かに今の咲良はいい子だと思う。けど前の世界の咲良は酷かった。
今現在の咲良というのは、あたしにとって『オタクに目覚める前』の咲良なので、一応咲良ではあるが少しの違和感はずっと残っていた。
あたしが最後に見た咲良というのは『オタクに目覚めた後』の咲良で、その言動はなかなかに破天荒だった。
出会って仲良くなった頃のお前はどこ行ったと何度か言ったことがある。その度に「そんなものは死んだ」と返されていた。
……良かったまだ大人しい時の咲良で。オタクに目覚めた後の咲良だったら絶対真田引いてるって。
「真田くん、君は何も心配することはないから大丈夫」
「だが、彼女には意中の相手が居るのだろう」
「大丈夫ったら大丈夫。マジで。真田くんは、咲良が好きなんでしょ?」
ストレートにそう聞いてしまえば、真田は意表を突かれたような顔をして視線を泳がせながらも小さく頷いた。
毎回毎回キエエエエとかうるさいくせに大人しくなりやがって。そんな彼の表情はだいぶレアなのですかさず写真を撮った。
「猫宮!?」
「これ咲良に送るねー真田くんの写真ちょうだいって言われてたから」
「な!?」
「よし!まあ大丈夫だから!真田くんの悩み多分すぐ解決するから!」
あたしは椅子から立ち上がり力強く拳を握った。そんなあたしの勢いに押され、真田はただ「そうか」と頷いていた。
ちらと柳を見ればよくやったと言わんばかりにサムズアップをしている。あたぼーよ。
とりあえずここに居ても解決はしないので早々に部屋を出て、すぐさま咲良に電話をした。
『真田くんの写メくれ』
「開口一番がそれかよそんなことより大事件だぞ」
『何?』
「咲良の好意全然伝わってない」
『はああああああああああああああああああ!!?!?』
咲良の叫び声に耳がキーンとなった。思わずスマホを耳から遠ざけると、電話口で何か騒いでいる。
「落ち着きたまえ」
『どういうこと!!?』
「咲良に好きな人居るのかって聞かれた」
『お前じゃボケェエエエエエエエエエ』
「うん、だからね、もうストレートに言ったほうがいいと思う……めっちゃ悩んでたよ」
『はーあ!鈍感な彼も素敵!』
「うんうんそういうことだからあとは咲良次第だから、用件それだけ」
『ありがと〜!頑張る!』
「どういたしまして。じゃあねー」
『はーい!』
………。
なんかなぁ……ちょっと…あんな真田見たくなかったわ………恋に悩む真田ってイメージなかったからちょっと………いや!青春してるってことだから!いいことなんだけど!うんいいことだ!
さー!部屋帰ってお風呂入ろ!!
****
ゆったりお風呂に入り、髪を乾かして後は寝るだけだとベッドの上に寝そべってゲームをしていると、不意にドアがノックされた。
恐る恐る開けてみると白石だった。
「もう寝るとこやった?」
「いやまだだったから大丈夫」
「中入ってもええ?」
「いいよー」
白石は部屋に入るなり人のベッドに倒れこむ。どこ行ってもそれやるんだね
「ここで寝ないでよ」
「んー」
「……白石、あの時はありがとうね、助かった」
あの時とは芽衣子ちゃんとの件である。
そう言うと、白石は起き上がってあたしの隣に座ると何か真剣な表情でこちらを窺う。
白石が何を言いたいのか分からなくて、首を傾げた。
「理久、照井さんに何かされたら必ず俺に言え。絶対や」
「何かって、何…」
「それは分からん。けど、あの子は危険や。何してくるかわからへんで」
あまりに真面目にそう言うので、よく分からなかったがとりあえず頷いておいた。
すると白石は少し表情を緩めあたしを抱き締める。
「まあ理久は誰かに守られるような奴ちゃうけどな」
「そうですね出来る限りは自分で打破したいですね」
「それでこそ理久や。それは分かっとるけど、でもたまには俺らのこと頼ってほしい。これだけは覚えといてや」
「分かった」
少し体を離し、白石はすぐ目の前でこちらをじっと見つめる。その表情はどこか甘くて、あたしの目を見つめながらも時折唇へと視線を動かしていた。………白石がキスを強請る時の仕草だ。
未だに、自分からするのは恥ずかしい。だってあたしそういうキャラじゃないし………けどこうなると、どれだけあたしが粘っても白石は折れない。折れてくれないのだ。ちくしょう。
きゅっと目を瞑り触れるだけのキスをしてすぐ顔を離した。そっと目を開けると、片手で顔を覆う白石が居て。
……あれ、想像してた反応と違う。
「……何なの!?」
「いや……いや………すまんちょっと…何か照れた…」
「白石が!?何で白石が照れる!?」
「……予想以上に可愛かった」
「やめてあたしは今恥ずかしい!!」
何故か白石までもが顔を赤くして視線を泳がせている。それあたしの反応だからな!!何でお前だよ!!そして白石のあの言葉である。くそ顔が熱い!!!
と思っていたら視界がぐるりと回って何故かあたしはベッドに寝転んでいて。
「あーくっそ我慢しとったのに……アカン無理そう…」
「白石、何がだ、ちょっと」
ぼす、と白石は真横に顔を埋め「あーあー」と一人でぶつぶつ言っている。気味が悪い。
何?と聞けば本当に小さな小さな掠れたような声で「したい」と呟いた。
「………。合宿!!今合宿!!」
「なー、せやんなー。でも無理やねん全ッ然我慢できる気せぇへん」
「頑張って白石の理性、マジ頑張って」
「……理久、声抑えられん?」
途端に首筋に白石の唇があてがわれる。思わず身震いすれば、それが合図と言わんばかりにTシャツの裾から大きな手が入り込んできた。
「おま……ッ!」
「ホンマすまん、やっぱり無理やねん」
申し訳なさそうにへらりと笑うも明らかに余裕が無さげな顔をしていて、これも彼は折れる気がないのだと悟った。
いつまで抵抗したとて彼は諦めないだろう。
あたしは小さく溜息をついて、どうか誰にも気付かれませんようにと願うばかりだ。