ようやく理久の視線に真田が折れ、ゆっくり近づいてくる。
彼が切原の肩に手を置くと「そこまでにしておけ」と一言呟いた。
「副部長!!だって!!」
まだ諦めきれない切原は、親に縋るような目で真田に訴えかける。
「つーか何でそんなに冷たいワケ!?去年まであんなに世話焼いてくれたのに!!」
「世話焼かれてた自覚あんならもう少し自立心を持てよ」
そりゃ世話焼いたさ。方々を鉄格子で覆われ逃げられない状況だったからなと理久は思う。
「宿題忘れないようにちゃんと連絡くれたし!」
「先生に頼まれたからね」
「授業で当てられそうなとこ教えてくれたし!」
「あんたが答えられないと次進めないって先生に頼まれたからね」
「テスト勉強の範囲各科目ごとにまとめてすんげー丁寧に教えてくれたし!」
「先生方及びテニス部先輩らにどうにかこうにかと懇願されたからね」
「お前の意思は!?」
「んなもんないわ!!!!!!」
こいつは今の今まで私のボランティア精神で世話を焼かれていたと思っていたのだろうかと理久は眩暈がした。
お前が見ていないところでどれだけしつこく「切原を頼む」と言われたと思っている。一時期そのせいでテニス部ファンにいじめられもした。だが理久はそれを千載一遇の好機とばかりに利用しようとしたのだ。
自分が今こんな状況になっているのは切原の世話を任されているせいだ、もしよければ皆さんが代わってくれないだろうか、と。
最初彼女達は大賛成で、今日から自分達が面倒を見るから一切手を出すなと念押しされた。理久は涙を流して感謝を伝え、切原及びテニス部から解放されたのだ───一時的に。
彼女達の限界は割と早かった。
同じように呼び出され、彼女達は言った。
『自分達が悪かった。前と同じように彼の面倒を見てほしい』と。
ただの絶望である。
思い出したら腹立ってきた。
「そもそも」
理久は切原の背後に視線を移す。
彼らはぎくりと肩を揺らして、それぞれ視線を逸らした。
「幸村先輩達が!責任持って面倒見てくれてれば良かった話じゃないですか!それを私に投げるから!!どれだけ私が苦労したと思ってんですか!!先輩達がいらなく私に細々と頼んでくるから先生達がワケ分らん勘違いして全部私に押し付けてきたんですよ!!上河と田島巻き込んでなきゃ私病んでたわ!!」
それでも彼らは目を合わせない。腹立つ。
「さすがに俺泣くぞ!?」
「上等だ泣かせたるわお前なんぞ!!」
先程とは打って変わって理久が切原に飛び掛かろうとする。それを寸でのところで日吉に押さえられてしまった。ええい止めるな。
「とにかく、もう切原の面倒は距離的に見れないので、さよなら」
「東京と神奈川じゃん!そこまで遠くねえし俺来れるし!」
「物理的な距離以上に心の距離があるから無理ですね」
「心の距離!?」
「地球100周分はある」
とりあえず切原達は早々に帰ってほしい。