20夢はいつか覚めるって言いましたよね

「理久ー!」

自分を呼ぶ声に振り向けば、卒業証書の入った筒をブンブン振り回している咲良が居た。やめなさいよはしたない!

「咲良それ飛ばさないでね!」
「大丈夫大丈夫!さっき一回飛ばしたから!」
「飛ばしちゃったかー」
「担任にぶつけたwww」
「本当気を付けて!そういうとこあるから!気を付けて!」

当初から目指していた、咲良は短大であたしは専門学校。お互い無事に受かり、四月からは別々の学校生活を送る。
もう二度と受験なんてしたくない。思い出すだけでもげんなりする。咲良もだいぶ苦労していたが、元々そこまで頭は悪くなかったので合格はするだろうと思っていた。だが本人は相当きつかったらしく、途中で投げ出しそうになってたなぁ。

「いやー卒業だね、早いね」
「あっという間だったねー。勉強辛かったけどこれはこれで寂しいな」

二人で校舎を見ながらしみじみとする。まだ周りはガヤガヤしていて、友人との別れに泣く者、先生との別れに泣く者、春休みだと浮かれる者、様々だ。

「猫宮」

ふと誰かに呼ばれた。声の方を見ると、そこには同じクラスだった男子が居た。

「河内だ。何?」
「ちょっと話あるんだけど、いいか?」
「???」

ちょっと、と校舎の隅へ連れて行かれる。その際咲良を見ると至極面白そうな顔をしていた。いやむしろ咲良の顔が面白かった。なんだあいつ。

****

「俺さ、猫宮のこと好きなんだけど。…試しでいいから、付き合ってくれねえかな」

マ ジ カ
えっ…えええ〜〜〜〜河内そんな…好きだったの?え?嘘でしょそんな雰囲気無かった……いや確かに男子の中ではよく喋るほうではあったけど…頻繁に話しかけられてたし……ああ〜〜〜〜〜そういうことかだからよく話しかけられてたのか〜理解したけど今更〜〜

あ、また。
左手の、あの感触。これ本当に何なんだろう、白石が恋しすぎて幻覚ならぬ幻触?なんだそりゃ
でもまあ、それがなくたって、答えは決まってるんだけどさ。

「ごめん。あたし好きな人居る」
「……え、誰。同じクラス?」
「いや、この学校には居ないよ。けどその人以外、好きになれないんだよねぇ」
「付き合ってねーの?」
「うん」
「………それでも、俺じゃだめなのか?」
「うん、ごめん。試しでも何でも、その人以外意味ないからさ」
「…わかった。わりーな呼び出して」
「いやいや、ありがとね河内」

じゃあ、と咲良の元へ戻った。河内は仲の良い男友達の元へ。
咲良はにやついた顔をしていて、死ぬほどむかついた。

「青春だね!!」
「すげえ顔うるさいな咲良」
「やっぱりねー河内って理久のこと好きだと思ったんだよねー」
「マジかよ…」

咲良は人の気持ちに鋭い。芽衣子ちゃんの時もそうだったっけ。
あ、白石達も卒業したかな。皆進路どうしたんだろう。まあ何だかんだ言って頭は良かったからな、大丈夫だろうな。
一緒に、卒業したかった。大人になっていく彼らを、ずっと見ていきたかった。できるなら、白石の隣でずっと。
あー考えたらまた涙出そう。
いやでも待てよ、あたしが白石と出会ったのは…白石が中学の時だから……卒業したとしてもあれか、中学校卒業か。くそ、年齢が違うせいでわけわからんくなってきた。でも一回卒業したしなぁ……それも無くなったのかな。あれ?てことはまだ芽衣子ちゃん出てきてない?んん?こんがらがってきた…

一人で頭を抱えていると、何やってんだと咲良にど突かれた。
これが、あたしの本当の日常。これが本来あるべき形。……良いんだ、これで。そもそもあっちの世界にとってあたしも咲良も異物でしかなかったんだ。それが元に戻っただけ、そうだよ。
この気持ちは一生抱えていくし、一生忘れない。彼らと過ごした日々は自分の中に確かに在るんだ。誰が何と言おうと在ったんだよ。


咲良と思い出話に花を咲かせながら、もう歩くことのない学校からの帰り道をゆっくり歩く。惜しむように、いつもの倍時間をかけて。

「ねえ咲良」
「んー?」
「学校別だけど、またたくさん遊ぼうね」
「当たり前でしょー!!!?!?ていうかさあのアニメのさ映画やるじゃん何回観に行く?」
「もう観に行く前提」
「行かない理由なくない?」
「ない!」
「知ってる!!あとあのゲームのさ!ライブ!絶対行きたい!あとあと〜服買いに行きたいし〜何か四月に始まるパンケーキ屋さん行きたい」
「あー!知ってる!駅近くでしょ!?めっちゃ美味しそうだったよね!?」

尽きることのない話題に、結局家についてもまだ足りないと言って近くのファミレスに二人で出かけた。

****

散々喋りつくして、自分の部屋へ戻ればベッドに倒れこむ。あー喉ガラガラだわ、咲良元気だったなー。
同じ大学に行けば良かったかな、そうすれば学校でも話できたのに。ちょっと後悔。まあそんなこと言ってらんないよな。春休みが明ければまた新しい生活。緊張するけど、楽しみでもある。友達できるかなぁ……勉強ついていけるかな…はは……咲良居ないと助けてくれる人居ないじゃんつれぇ。
眠い……やばい制服のままだ………でもすごく眠い…いいよねもう学校行くことないんだし…このまま寝てしまおう…
睡魔に抗うことなく、眠りについた。

****

眠りから覚め、ゆっくり瞼を上げると、視線の先には真っ白な天井があった。
えっ、えっ?部屋の天井こんな白かったっけ?ていうか周り明かるっ……すげえ眩しいんだけど……

「猫宮さん!?分かりますか!?」

え…全然知らん人の声するんだけど………分かりますかってあなたのことは知りません………っていうか何!?酸素マスクしてる!?あたし酸素マスク!!してる!!

「先生呼んできて!あと母親に連絡!」

えええええええええええナニコレナニコレナニコレ
よくよく見てみればあたしに声をかけてきたのは若い女の看護師さんだった。ちょっと待ってかわいーーーーーじゃなくて何ここ病院?何で?あのまま寝て何かあったの?
酸素マスクを外され、体を起こす。……ちょっと待ってめっちゃくちゃ体だる……何…物凄い体力の消耗を感じる。

「体おっも…だる……」
「二週間近く意識ありませんでしたからね…」
「あー…二週間……………二週間!!!?!???!?え!!?!?あたしの身に何が!!?!?」
「覚えてませんか?橋から川へ落ちて……」
「………」

待って。
待って待って待って。本当に待って。は?何?橋?川?うん知ってる知ってる、一応知ってる。それはあれでしょ?夢でしょ?夢……え?

「に、しゅうかん……にしゅう…かん……」

目の前がぐるぐるした。超ぐるぐるした。大混乱である。
なんか……段々気持ち悪くなってきた………うえ…
人が気持ち悪くなっている最中、入口から慌ただしく母親と弟が駆け込んできた。もう何が何だか分からず、よっ!と二人に挨拶をしたら二人から叩かれた。
一応ついさっきまであたし意識不明だったらしいんだけどな??