白石達の部活終わりに、近くのハンバーガー店で待ち合わせをした。メンバーは白石謙也くん財前に、あたしと咲良だ。
あたし達は先に帰宅して着替えをしてから集まった。これから話すことは、言わずもがな咲良のことである。
「なるほどなるほど。なるほどね〜」
腕を組んでうんうんと唸る咲良を心配する。口ではなるほどねとか言ってるけど絶対内心パニックだと思う。咲良はパニックな時程現実逃避をしがちだからだ。
学校に居る間はとりあえずいつも通りに過ごしてもらい、咲良の記憶が移されたというのは今白石達に話したのだが…
「つまり大学受験やり直しってわけね!」
「それはそうなんだけど違う。大事なのはそこじゃないんだよ咲良」
「あーあーあーあーあーあーあーーーーーーーもういやだーーーーまた受験勉強とかいやだーーーーーせっかく頑張ったのにーーーーー試験とか受けたくねーーーーー」
テーブルに突っ伏しぶつぶつと呪文のような愚痴を吐き続ける咲良をちらりと見ては視線を逸らした。すまん、マジすまん。
「成瀬さん別人やな」
目の前の光景が信じられないと、白石達は目を見開いていた。少し前までの咲良はもう少し大人な感じだったからな。こんなだらけた子ではなかったのは確かだ。
「つーか何?何これ?すごいね目の前に白石達居るよやばくない?」
「人のポテト食べんのやめろ」
「いやマジ待って待ってー理久はもう中学校の時から理久だったわけだ?」
「あたしはずっと理久なんですけど」
「ていうか何でこの三人は知ってるの?」
「あたしが話したから」
「そういうのアリ?」
「アリアリ」
「あーーーーーー大学受験ーーーーーーー」
「話続かねえなオイ…」
全く会話にならない咲良に溜息をついて、自分で頼んだドリンクを啜った。
「ちゅーかやっぱり照井さん関わっとったんか」
白石は咲良に苦笑いをしながら、芽衣子ちゃんのことを口にする。咲良のこともだったが本題は芽衣子ちゃんのことだ。
「らしいんだよね。危うく殺されるとこだったわ」
「理久は殺しても死ななそうだけどね」
「咲良ちょっと黙ってて」
「成瀬さん俺のポテトもあげるわ」
「ラッキー!!!!」
「頼むから白石は咲良を甘やかさないでくれ」
白石からポテトを受け取った咲良は女子らしからぬ速度でポテトを貪っている。あたしが言うのもなんだけど、少しは女子力を養ったほうがいいと思う。
「あの二年の子でしょ?財前がめっちゃくちゃ嫌ってる子」
ねえ?と咲良は財前に声をかける。未だに前の咲良とのギャップに戸惑っているのか、財前は微妙な顔をしながら頷いた。
「よし!ぶちのめすか!」
「この単細胞女子め」
「最終的には拳と拳のぶつかり合いでしょ?肉弾戦でしょ?」
「脳筋テストだったら百点満点の回答だね」
「絶対話し合いとか無理じゃない?話し合い無理ならもう物理攻撃しかないじゃんね」
「まずそんなことしたら大問題だからね」
「俺はええと思いますよやったりますか」
「絶対財前は乗ってくれると思った!」
咲良は財前に向けて力強くサムズアップをする。このアホみたいな会話に懐かしさを感じながらも、同時に不安になった。何か思ってた以上に咲良ハチャメチャにやばい。大学受験やり直しというのが大きな要因だろうな。勉強してる時何度も壊れかけたもんな。
「理久が寝てる間、白石アタックされまくりやったな」
「マジかよ」
「理久が意識不明やて知っとるはずなんに、その隙をついて取り入ろうとしてきとるんはよう分かった。心配もせんっちゅーことは、照井さんが何か関係しとるんやないかとも感じたな」
「さすが白石だな」
「ちゅーか告られたしな」
は?
謙也くんも財前も初耳だったようで、目を見開いて白石を見つめている。きっとあたしも同じような顔をしているだろう。
隣の咲良は爆笑していた。机を叩くなやかましい。
「何て?何て告られたの?シチュエーションは?」
「私が言うのもなんだけど、気にするとこはそこじゃないと思うよ理久」
「咲良に正論言われるの死ぬほど腹立つ……!」
「何でだよ」
おかしなものでも見るかのような顔の咲良に肘鉄をかます。痛みに唸っている咲良を放っておいて、白石に続きを催促した。
「普通に、部活終わりに待ち伏せされとって。理久の代わりにはなれへんけど、自分が側に居たらだめですか?って」
「うわ……無理…それ理久死んだことにされてるくない?ウケるんだけど」
「wwwwwwwっひ、亡き者にされたwwwww無理wwwww」
「なんやろ、今まで成瀬さんが理久のストッパーやと思っとったけどこれ完全に理久がもう一人増えた感あるな。手に負えへん気がする」
「俺も同じこと思っとったわ白石。理久が二倍や」
「二倍というか、二人揃うと質の悪さが際立つというか。厄介すぎますね」
ひとしきり笑って落ち着くと、再びドリンクを啜る。違う違う、話が逸れましたすいません。
「まあとりあえず、もう芽衣子ちゃんには後ろ盾が無いわけだから、一安心なわけで。あとは彼女が自力でどう行動するかだね」
「自力で理久のこと消しに来そう」
「怖いこと言うな!!」
「いやでも、あるかもしれへんな。用心したほうがええよ」
真剣な表情で白石が言う。いややめろよ……怖すぎだろ…謙也くんも財前も同調すんな……「そんなことないって!」って誰か言ってよ真剣に考えるなよ…
「私が居るから!大丈夫!」
物凄く自信満々な咲良が力強く拳を握り、ね!といい笑顔を向けてくるが全然安心できない。むしろ不安しかない。お前が何をしでかすのか不安でしかない。
……でもまあ、そんな咲良が大好きなわけで。自信たっぷりの笑顔に、あたしも笑った。
「ていうか千昭どうする。急に咲良こんなになっちゃって…」
「こんなって」
「何て言い訳しよう…」
「実は私らは前世が友人同士で昨日記憶が戻って別人になりましたでいいんじゃない?」
「そんな嘘くさい話信じると思うのか!?」
「押し通そう」
「いやいやいや無理があるって!!」
あたしと咲良のやり取りを白石達は笑いながら見ている。申し訳ないんだけど一緒に理由考えてほしい。どう考えてもあたしらよりは頭いいでしょ頼むよ。咲良に任せたら大変なことになってしまうよ。
助けを求めるように白石を見れば優しく微笑まれる。違うよおおおおおお今そんなイケメンスマイル望んでないよおおおおおおおお前の完璧な頭脳貸してほしいんだよおおおおおおおお
「あ!ちょっと待って!!私真田と付き合ったなそういえば!?真田と!!!!わー!!!でも大阪と神奈川って!!遠い!!!」
「付き合ったのか良かったな。次会う時ちゃんと擬態しなさいよ引かれるよ」
「ていうか理久さ、卒業式に河内に告られたじゃん?あの後さー」
「待って。今それ言わなくてもいいでしょちょっと」
「理久何の話や」
「ほら白石の目光ってるって怖いって」
「河内だいぶ理久のこと好きだったみたいですげえ落ち込んでたらしいよ」
「いいから、咲良マジ黙って」
「理久…?」
腕を組んだ白石に鋭く睨まれる。普段怒られる時の何倍もの圧がかかっている気がした。怖くて思わず目を逸らしてしまう。違う違うあれは結局夢だったからノーカンノーカン……
もういい時間ということでお開きになった。大目玉を食らう前にと、素知らぬふりをして帰ろうとしたが、見事に白石に捕まってしまった。終わったわ。