「で、さっきの話なんやねん誰や河内」
きつく握られた手から伝わってくる白石の不機嫌っぷりに溜息をつく。いいじゃねーか今はあんたと付き合ってるんだから……なんて言ったら絶対怒るよなぁ…さすがにな…
「元クラスメイト……?」
「告られたってどういうことや」
「いや……ほらあたし二週間寝てたでしょ?その間元の世界の夢だったんだけど、高校の卒業式まで過ごしてたんだよね。その卒業式の日に……まあその………告られた」
「へえ」
「痛い痛い痛いー白石お前自分の握力考えろーーーー」
ぎりぎりと締め付けられる手は悲鳴を上げている。あたし女の子なんだよなーーー手加減がねえ
「ちゃんと好きな人居るからって断ったってば」
「誰や!」
「お前だよ!!!!!!!!!!」
「えっ」
こっちがえっなんだけど。え?違うの?付き合ってるのこれ夢???
「元の世界に俺居らんやんな」
「そりゃね」
「でもあっちでも好きな人は俺なん?」
「当たり前じゃない?」
「でも俺居らんやんな?」
「うん」
「それはそれでヤバない?別な恋せな一生独身になるやん」
「うるせえ白石居ないからってそんな簡単に切り替えれっかよ」
もしあのまま元の世界に居たとしたら、きっと一生恋愛できなかっただろう。それくらい白石が好きだったから。どの世界に行ったって、白石以上に好きになれる人なんて居ないんだ。
「それならそれでよかったんだよ、あたしは」
「えー…」
「誰かを好きになったって、結局白石が一番だからなぁ」
手を繋いでいるせいでピタリと白石が止まったためあたしまで足を止めてしまうハメになった。いや何急に……
そう思って振り返ると、片手で顔を覆い俯く白石がいて。
「おいどうした。眠いの?」
「やかましい」
「心配してやってんのに」
「理久は、」
「うん?」
「ちゃんと俺のこと好きやったんやなぁ」
「そうですよ、好きですよ。顔真っ赤にして照れてるそんな白石が好きですよ」
「うるっさいわ」
ちらりと指の間から覗いた目に睨まれるも全然怖くない。そんな顔赤くして睨まれたって何も怖くないぞ。思わず笑うと、白石は溜息をついて再び横に並んだ。
「夢に居た時ね、すごい後悔したわけよ。もっと白石に好きだって言っとけばよかったなーって。だからこれからは良きところで言います」
「なんやろ、全然ムードがない」
「ごめんそういう空気無理だから先に謝っとく、ごめん」
「まあ知っとったけど。しゃーない理久やから許したるわ」
白石は残念がるわけでもなく、いつもの優しい笑顔を向けてくれた。そんな笑顔を見て、あーやっぱり好きだなぁなんて無意識に思ってしまうくらいには白石が大事で、彼以外にはあり得なくて。まんまとやられたぜ
「不思議だよねぇ、お互い出会わなかったらまた別々の恋愛してただろうに」
「やめろやめろ、理久が俺以外の男の嫁になるなんて考えたくもないわ」
「白石たまに気持ち悪いよなぁ」
「失礼過ぎん???」
「白石ならもっと美人な人捕まえれたろうに…」
「美人は三日で飽きる言うやんか」
「ヒデェ」
悪びれるわけでもなくしれっと言いやがった白石が憎い。そんなこと言えるのは顔がいいやつに限られると思うんだよねあたし。いいな、白石みたいに顔がいい男に生まれてみたかった。モテモテ男の人生歩んでみたかったわ。
「俺は理久がええの」
「そうですか…」
そんな話をしている間に、家に到着してしまった。空は既に暗くて、街灯の明かりが少し眩しい。家に入ろうと玄関へ向かうが、白石が手を離してくれない。
「白石、手」
「まだだめ」
「まだって何」
繋がれた手を、白石が引っ張る。それに逆らうことなくふらりと近寄れば、覆いかぶさるように抱き締められた。
「…もう、居なくならへんよな?」
「大丈夫大丈夫」
「ずっと俺と居ってくれるか」
「任せて」
「好きやで」
「知ってる!」
「オイさっきの良きところでっていつやねん普通今やろが」
「それは世間一般のタイミングであってあたしのタイミングではない」
「ちょっと殴ってええやろか」
「良くはないな」
殴られたくはないので思わずのけ反った。見上げた白石は青筋を浮かべていて若干ご立腹のようだった。ごめーん
どうどうと白石を宥めれば、今度は自分から白石に抱き着く。あーちくしょう安心感あるわー
「こんな感じでこれからも白石を苛立たせるけどいいの?」
「仕返しするから大丈夫や」
「嫌なもん聞いちまったわ…」
「よし理久、ちょっと目ぇ瞑りや」
「ちゅーですか!?こんな家の前で!?」
「ホンマうっさいなお前は!」
ズバンと頭を叩かれたので自分で自分の頭を慰めた。痛い。白石容赦ないんだよなーまあそういうとこが安心するんだけどさぁ
「ええからはよ」
「はいはい」
なんだろうなと思いながら目を瞑る。立ったまま目瞑るのって結構きつくない?体グラグラしちゃうんだよ
すると、首元が何かヒヤリとした。ついついびくっと体を揺らしてしまう。
「目開けてもええよ」
そう言われて目を開けると、まあ白石が居ますよね。そして先程の首元の違和感を確認すべく自分の首元に手を当てると、そこにはつけた覚えのないネックレスがあった。
チャリ、と音を立てそのネックレスをつまんでみると、シルバーのチェーンにはペンダントトップではなくシンプルなシルバーの指輪が通っていた。
「………白石」
「ずっと一緒に居てくれるんやろ?」
「…うん」
「約束やで」
「お前ー……」
「それちゃんと理久の薬指のサイズやから」
「何で知ってんの!?」
「測った」
「いつ!!?」
いつ測った!?そう聞くも白石はフイと顔を背けてしまう。何だよ、顔背ける程何か後ろめたいことがあるっていうのか。何でそっぽ向くんだよ
「それとな」
「?」
「俺もやねん」
白石はにやりと笑って、自分の首にかけられたネックレスを指で引っ張る。そこにはあたしのと同じように指輪が通されていた。
「理久」
「…何」
「俺と結婚してくれるか?」
それは、今聞くことなのか。普通本気で結婚する時に聞くもんじゃないのか。フライングプロポーズなんて聞いたことないぞ。
なんて思ってても、やっぱり、嬉しいもんで。込み上げる感情をぐっと抑えつけ、何とか平常心を保つ。
「早過ぎじゃない?」
「今のうちに約束しとかへんと、どっか行かれたらかなわんからな」
「行きませんけどー!」
「ほな、返事は?」
目を細め、低く甘い声が耳を掠める。
逃がす気はないと、背中に回る白石の腕がそう言っている気がした。逃げる気なんてさらさらないんですけどね。
「一生よろしくね」
あたしの言葉に、白石は嬉しそうに笑った。
「当たり前や」
お互い、少し照れながらも小さく笑って、額をくっつける。視線を交えれば目が離せなくて、思わず顔を赤らめてしまった。
きょどきょどと目を泳がせるあたしに白石は噴き出して、あたしの頭を撫でながら静かにキスをした。