「理久、そんなのつけてたっけ」
次の日学校へ行けば、咲良は自分の首元を指しながら尋ねてくる。お前のその首のは何なのだと。
「………エンゲージネックレス…?」
「はぁ?」
まあ気付かれたのは昼になってからだ。いつものように咲良と千昭と三人で昼食を取ろうと机をセッティングしている時に見られたようで、お弁当を広げながらそう言われた。
……見られるのは大変恥ずかしいので、今日はワイシャツのボタンをいつもより多く留めていたためバレなかったのだ。多分今屈んだ時にでも見えたんだろうな…
「あーそれ隠すために今日ボタンきっちり留めてんだ。変だと思った」
「やめろ言うな」
「白石くんやりよるなぁ」
咲良も千昭もにまにまとした表情を浮かべこちらを見てくる。目潰ししてやりたくなるくらいむかつく顔だ。こっち見んな。
千昭は今の咲良を受け入れている。朝一、結局咲良が考えた理由を伝えた。どんな反応が返ってくるか恐ろしくて、堂々として心を無心にした咲良の隣でただ俯いていた。
とりあえず今言えることは、千昭もアホだったということだ。
真顔で伝える咲良に、千昭は一言「…そっか!」と言った。何がそっかなのか。信じてしまうのかお前は。将来が死ぬほど不安である。
「いいなああああああああああ私も真田にもらいてええええええええええ」
もはや呼び捨てである。
「いやあ…あの人はこういうのするようなタイプじゃないからな…」
「何か…この遠距離恋愛を耐え凌げれるような何かが欲しい……」
「褌もらってきたら」
「それいいな」
「冗談だから本当やめてね」
そんなくだらない会話をしながら、もうバレたなら仕方ないよなと窮屈に感じていたボタンを緩めた。
****
お昼を食べ終えあたしは一人トイレに向かった。帰りに何かジュース買ってきてーとの咲良の声を無視……はしたもののまあ何か買ってってやるかと自販機に向かう。
咲良にはオレンジジュース、千昭にはリンゴジュース、あたしは……
「これがええと思いますわ」
お金を入れて自分の分を買おうとボタンを押そうとした時、背後から伸びてきた手によって先にボタンを押されてしまった。
「ッあー!!!!!!!」
一瞬思考停止してしまったものの、ガコン、と飲み物が落ちてきた音で我に返り大声を上げて振り返ればやってやったぜといった顔の財前が居た。殴らせろ???
「何してくれちゃってんの!!?」
「悩んでるようやったから」
「悩んでねーよ普通にボタン押そうとしてたじゃんかよ!!」
「せやったっけ」
「普通に飲みだすな!!」
取り出し口から財前が取ったのはおしるこで。おま……人の金でおしるこって……
「あんたの血液甘そうだよね」
「舐めてみますか?」
「結構ですー」
改めて自分の分の飲み物を買い、ぬるくならないうちにと教室へ向かおうとする。
しかしそれは、突然襟を掴まれたことによって阻止された。
「ぐえッ!なにざいぜん……!」
「それ何すか?」
ぐるりと回転させられ財前と対面する。
財前は顔を近づけまじまじと人の首元を見ていた。
「見ればわかるでしょうよ」
「部長から?」
「………」
「お熱いようで何よりやわ」
「うるせー!!にやにやすんな!!」
首元のネックレスの意味を瞬時に理解した天才は、わざとらしく溜息をつくもにやにやとした顔で笑った。その顔さっきもされましたわ。咲良と千昭にな!!
うぜーうぜーと財前を威嚇していれば後ろから誰かがぶつかってきた。吃驚して思わず振り返れば白石だった。
「何二人で騒いどんねん」
「財前がいじめてくるぅ」
「仲ええなぁ」
「その返しはおかしくない?」
はははと笑いながら頭を撫でてくる白石の足を踏んでやった。笑うとこじゃねえんだよな今は。
「あ」
あたし達を見ていた財前が声を上げる。何だ、と財前を見やればまたしてもにやついた顔をした。
「部長それ、首のやつ」
「ああこれか。見えてしもたか」
「それって理久先輩とお揃い?」
「せやでー三度目のプロポーズにしてようやくオッケー貰えたわ」
「へぇー良かったっすねー」
財前がにやつくのは分かる。お前のそれは茶化すための表情だよな、うん分かる。第三者としていじってやろうという表情だ。財前はまだ分かるとして、何で白石まで同じ顔してこっちを見てくるのか。
「なー理久、せやんな」
「忘れた」
「照れとる理久もごっつかわええな」
「白石うるさいあっち行って」
ちくしょー!!!!!むかつく!!!!!あの顔!!!!往復ビンタしてやりてえ!!!!!
白石なんか、人がジュース持ってるせいで手が塞がってるのをいいことに横から抱き着いて人の頭に擦り付いてくる。心底鬱陶しい。かわええかわええと言ってスリスリスリスリしてくる白石から少しでも離れようと体を反らすも、白石の腕力に敵うはずもなく。
「もーうざいよー白石うざいよーーーーー」
「ホンマにうざそうな顔しとるのがウケる」
「財前こいつ離してくれーーーー」
「無理無理」
無理無理と言いながら写真撮るのやめてほしい。後で送りますねとか、いらないし。
ていうか咲良達が待ってるからと、教室へ行くことを促した。しゃーないなあと離れてくれた白石に感謝はない。何がしゃーないんだ。もう一回言っていい?鬱陶しい。
それでも、表情こそいつもと変わらない優しい笑顔だが、とても嬉しそうで。
言葉にせずとも白石のそんな気持ちが伝わってきてしまって呆れ半分に溜息をついた。呆れ半分、もう半分はあたしも同じ気持ちだから。恋愛になると自分は少し天邪鬼になるようだと、最近になって分かった。
まあ白石がうざいのも本音だけどな!!!!!!やめろプロポーズのくだりを財前に嬉々として話すな!!!!!