たからばこ


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花乃旅館は昭和初期創業の老舗旅館だ。木造二階建てで客室はすべてで10室と小ぢんまりとした純日本家屋の建物は細かいメンテナンスの甲斐あってか現代に至るまで大掛かりな修復に至った事はない。湯田は豊富でこんこんと湧き出る温泉は乳白色で少しとろみがあり、昔から美肌の湯と言われていた。しかし1番の目玉は小さな庭にある古い大きな桜の木があり、どうゆう理屈なのかは全く不明だが、夏の暑い日も枯葉舞う秋も淡雪が積もる寒い冬もその木は一年中薄桃色の桜の花が咲き誇っている。それが「花乃旅館」言われる所以なのだ。趣深い旅館の側で立派な桜の木が鎮座し、小さな花びらが舞うその情景は神秘的でどこか浮世離れしている。常春の宿として古客にも長く親しまれていた。

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