七月某日
さらり、さらり
さらりと揺れる笹の葉を、鈴の代わりにしてやって来た七月。
お昼に万屋へ買い物に行くと、あの大きな鯉のぼりを泳がせることができたのなら。と、店主から渡されたのは大きな笹。
「とぉーちゃーく!」
跳ねるように玄関へ向かう今剣を見送り、大きな笹と共に中庭へと向かう。
鯉のぼり同様、笹も随分と立派な物だったため、今回も本丸総出で持ち帰ることになると思っていたが…
「これだけ立派な笹であれば、どんな願い事も天に届きましょうぞ!」
今回は違った。
一緒に万屋へ行った今剣の保護者として付いてきた岩融が一人で軽々と運んでくれたのだ。
そんな岩融に、お礼と笹を置いたら一度休憩をとる様に伝え、私も縁側に座り休憩をとる事にした。
「皆で運ぶのも楽しかったけど、やっぱり助かったなぁ。」
ぽつり、ぽつりと独り言。シュッと素早くマッチを擦り、煙草へ火を繋げる。
「わ、随分と大きな笹だね。おかえり、主」
「光忠…ただいま戻りました。」
「加州君が 主が帰ってこない! って騒いでいたよ」
くしゃっと苦笑いしながら光忠がお茶を傍に置いてくれる。
休憩前に一度挨拶をするべきだったなと、少し反省。
「また万屋で?」
「ええ、そうなの。すっかりお世話になってしまって。」
「主の人柄の良さに感謝しなきゃ」
さらりと爽やかに微笑む光忠に褒められると、なんだか母親に褒められている様な…そんなこと伝えたら怒られるだろうから口には出さないのだけど。心地良いなと思う。
「後で短冊を用意しなければなりませんね。」
「あ、さっき短刀達が紙を探していたからもう時期…」
光忠がそう言いかけると、パタパタと廊下を走る音が伝わる。準備が終わったのだろう。
私は吸い終えた煙草を灰皿に押し付け、音の主を待つ。
ぱたぱた、ぱたぱた。
「あーるーじーさーまー!」
ぱた。
音が一度大きくなり止まったと思うと、細長く切られた紙を握り締めた今剣が抱き着く。ふわっとあたたかい。
「今剣、それは短冊ですね。」
「はい!そうなんです!ぼくがあるじのぶんもきりましたよ!」
えっへん!と誇らしげな今剣の頭を撫で、灰皿を避ける。
「ありがとうございます。早速お願い事を綴りましょうか」
「はい!」
筆は…と、呟きながら抱き着いた今剣を横に置き、座り直す。すると、新しい影がひとつ。
「あーるーじー」
「き、清光…!」
訂正。恐ろしい赤鬼ひとつ。
「もー。次からはちゃんと帰ったら ただいま って言って!」
「…ごめんなさい」
もーもー。と言う清光は牛の様だ。
心の中でひっそり、くすくす。
「みんなお願い事は決まっているのですか?」
「ぼくはきまってます!」
「僕もだよ」
今剣と光忠はスラスラと筆を滑らせながら答える。
「清光はどうですか?」
「俺も決まってるよー。て言うか、もう書いちゃった」
ひらり。清光が短冊をつまみ、笹の方へ歩く。
「お願い事、叶うといいですね。」
「主次第かなー!」
私次第…?
その夜、疑問に思って眠れず夜中こっそり盗み見してみた。
少々難しいかな…と頭を抱えたが、この願いを叶えることで皆が笑顔になるのならば。
よし。灰皿を片付け、布団の海へ。
―翌朝。
「あーるーじーおーきーてー!朝餉の用意ができたって!」
「清光…おはよう。起こしに来てくれてありがとう」
そんな朝から花弁が舞う本丸も、例年より一足早く蝉が鳴き始めていた。
(主が敬語を辞めて、もっと近くで愛されますように。)
さらり、さらり。
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