八月某日
しゃり、しゃり。
ジリジリと、六月のそれとはまた違った重さを持つ風が八月を運んでやって来た。
「あーつーいー」
ジリジリ、ジリジリ。
珍しく縁側に誰もいない本丸は、誰もいない静けさよりも蝉の鳴き声が大きいおかげで、いつもより賑やかだ。
「かしゅー!あついっていったら、よけいにあつくなります!」
「痛いっ」
外からは畑当番を任せた今剣と清光の声が微かに聞こえる。
しかし、次第に聞こえなくなる清光の声。
「しんとーめっきゃく!」と何度も繰り返す今剣の声のみが響く。
心頭滅却、か。
少し気になり襖を開け、外の様子をちらり、ちらり。
清光は無事だが、喋ると余計に暑くなると思ったのだろう。黙々と野菜の世話をしている。
「あついなぁ…」
ちらり、ちらり、ぴしゃん。
すぐに襖を閉める。
皆が戻った際に涼める様、大広間を冷房で冷やす。ピッピッピ、と音立てれば先程よりも強い冷たい風が流れた。
どうせ電気代は経費で落ちるのだから、暑い時は迷わず冷房を付ける。
外からは相変わらず、暑さを紛らわす魔法の呪文と煩いくらい賑やかな蝉の声が響く。
そんな中、こんなに暑いのに外仕事を任せてしまって申し訳ない気持ちが覆い被さった。
何か良いご褒美を用意しなければ。冷房のコントローラーをテーブルに置き、私は厨へ向かった。
「おや?どうしたの、主」
厨に着くと、光忠が冷蔵庫と戦っていた。
「今日は一段と暑いから…」
何か良い物はないかと彷徨っているのだと伝えると、光忠はちょうど良かった!と何か良い案がある様だ。
「主、これ。」
「これ…大きい氷…?」
「あと…これ!」
「これは…!」
光忠から差し出されたのは、我が本丸の冷凍庫には到底入り切らないであろう大きさの氷と、それを削り、氷菓子を楽しむ為の機械。勿論、一家に一台あるような小さいものではなく、大きい業務用サイズだ。
「かき氷!」
「そう、よく分かったね。」
イチゴしか無いけどね、とシロップも添えて。
「これはみんな喜ぶね。でもこれ、どうしたの…?」
当然、政府から支給されたものではないだろう。少々年季が入っている様子を見ると、やはり…
「うん、主の想像通りだよ。」
「万屋様…」
「新しい機械を購入したから、と譲ってくれたんだ…」
しかも、「氷が欲しい時はおいで」と言う伝言付き。万屋の店主さんも神様だったのか。暑さのせいで余計輝いて感じる。
「ふふ。みんなの可愛さに万屋様はやられたのかな。」
以前、私の人柄が云々で色々と譲っていただけると光忠は言っていたが、私は皆の人柄のおかげではないかと思う。
現に、お使い組はよく金平糖や玩具やらをいただいて帰ってくる。
「早速みんなを呼んで…」
「あるじー!」
「あるじさまー!」
「あ、お疲れ様!」
疲れたーとなだれ込んで来た清光と今剣を支え、手を洗ったら大広間へ向かうように伝える。
「他のみんなも呼んでくるので、かき氷の準備をお願いね。」
「うん、いいよ。帽子かぶって行っておいで」
「はーい」
お母さん…と言い出す前に厨を飛び出し帽子をかぶる。怒られる、怒られる。否、怒らないだろうけど、苦笑いしながら複雑な心境になる光忠を容易に想像できる。
「急ごう。」
外は襖の隙間から感じた空気よりも熱く重たい。
しゃり、しゃり。
キーンと響く頭を手で押さえながら、ひとくち、ふたくち。
しゃり、しゃり。
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