九月某日





ぐしゃ、ぐしゃ。

残暑が続く中、飛び散る汗と共に夏の終わりを告げにやって来た九月。


「まだ暑いなぁ。」


滲む汗を額に感じ、茶と団子を縁側へ運ぶ。そろそろ休憩の時間だ。


「首落ちて死ねブス!」

「はぁ?ブスって言った方がブスなんですけどー?」


何やら物騒な声が響く縁側に到着すると、安定と清光が言い争っていた。
厨へ向かった数分前までは、二人とも真剣に手合わせをしていたのに。ぽつりと、ため息ひとつ。


「休憩にしましょう。」


そこまで!と制止すれば、案外簡単にピタリと止まってくれた。良くも悪くも素直な二人は、どちらも可愛い。


「団子だー!」

「主、ありがとう」


腰を掛ける私の両隣へ、それぞれ腰を掛ける。暑いから本当はもう少し離れて欲しいのだけど、可愛いさが勝ってしまい叶わない。
私は現在、三色団子の真ん中の様。赤色と青色に挟まれている。

手に持つ三色の団子を眺め、「そう言えば…」と、先日万屋の店主から聞いた話を始める。


「この三色の団子、ちゃんとそれぞれ色の意味があるみたいなの。」

「意味?」


二人は口をもぐとぐと動かし、耳を傾ける。


「赤は春を、白は冬を、緑は夏を表しているのだとか。」

「ああ。桜、雪、新緑…だっけ?」

「ふーん」


よく知ってるね。安定の答えに頷く。
清光の方が詳しいかと思っていたが、彼は意外にも「美味しいし、色が可愛いから俺はなんでもいいかなー」なんて、もぐもぐ。


「秋がないのは飽きがない≠チて。食べ飽きないと言う意味だとか。」

「そう言うの、好きだよねー。」

「駄洒落?おやじぎゃく?って言うんだっけ?偶に三日月さんが言うやつ。あれみたいだよね」


ふと、先日三日月の口より得意げに披露された渾身の駄洒落が脳内で再生される。思わず吹き出してしまった。
お行儀が悪いと焦ったが、両隣の二人も同じ様に笑っていた。


「でも、この三色で春のみを表しているのだとか、諸説あるみたい。」


腹筋の痙攣が収まったところで、私は万屋で聞いた話を続ける。
すると、急に団子を食べ終えた清光の顔から笑みが消えた。


「ねぇ、主…」

「どうしたの、清光」

「主ってさ、どちらかと言えば花より団子派の人間だったよね」

「まぁ、そうだね…」


否定出来ない指摘に、苦笑い。
万屋で教えて貰ったのだと教えると、清光の眉間の皺が深くなる。


「ふーん…またあのおじさんと…」


明らかに先程とは正反対の、不機嫌そうな空気が放たれている。
安定に助けてもらおうと、清光の座る反対側の空間へ視線を運ぶが…


「あ、あれ、安定が居ない、ね」

「話を逸らさないで!」


安定は既に逃亡済みだった。


「次から主が万屋行く時、絶対俺が一緒に行く!」

「えっ」

「あいつ絶対主のこと狙ってるもん」


万屋へ同行してくれるのは有り難いが、予想だにしなかった理由に驚く。


「で、でも!万屋様は奥様が…」

「不倫は文化だって言う奴かもしれないじゃん!」


ああ、私の雑誌をまた¥沁閧ノ読んだな、と悟る。
先日も、現世から取り寄せた私の雑誌を勝手に捲ったようで、恋のお悩み相談コーナーを指差した清光に詰め寄られた事があったのを思い出す。


「あれ≠ヘ特殊なパターン!万屋様は奥様を大変大事されているから!」

「…でも、奥さんの事も不倫相手の事も大事にして愛してるって書いてた!=v


ああ、やっぱり。
今後、現世から雑誌を取り寄せるのは控えた方が良いかもしれない。

ひとつ、少し深い息を吐いた後、むくれる清光をふわっと抱く。
一瞬目を大きく開いた清光は、すぐに頭を預けてくれる。


「清光…」

「…なに。」

清光の温かさを胸で確かめつつ、頭をひと撫で。


「嫉妬は嬉しいけれど、もう少し、私を信じてくれない?」

「…っ」

「私は、あなたを置いて何処かへ消えてしまうなんて事は絶対にない。」


背中へ回された腕に、ぎゅっと力がこもる。


「絶対…」

「そう、絶対。」


私が赤子をあやす様に清光の背中をさすると、「子供扱いしないでよ」と消えそうな声が溢れてきた。
どうやら少しは落ち着いたようだ。
手を止めず、綺麗な黒髪を眺めていると…


「いつまで主にくっ付いてんだよ、ブス!」

「安定!」


突如降ってきた影と乱暴な言葉に顔を上げる。そこには、手を拭きながら顔をしかめて居る安定の姿。


「僕が厠行ってた間に何が起きたのさ…」

「…うるさい」


「さっさと離れろ!」と安定は清光を引っ張るが、清光は私にがっちりとしがみ付き、離れない。
すると…


ばたばた

ばたばた…

嵐の音が聞こえる。


「あー!かしゅーがあるじさまをひとりじめしてますよ!」

「ほ、ほんとうだ…僕も主様と遊びたいです!」


嵐の主は今剣と五虎退だった。
今剣は安定の腰を、五虎退は今剣の腰を持ち、清光を引き剥がそうと加勢する。


「五虎退!うんとこしょ、どっこいしょ!≠ナすよ!」

「は、はい!」


ああ、昨日読み聞かせたばかりのおおきなかぶ≠ェ頭に浮かぶ。
もしお話通りなら…


「おや、何をしておるのだ?」

「三日月!うんとこしょ、どっこいしょ!です!」

「うんとこしょ…?ああ。」

「僕の後ろでお願いします!」

「…あいわかった。」


三日月は五虎退の腰を掴むと、掛け声と共に引っ張る。


うんとこしょ、どっこいしょ。


「わ!」


岩融程ではないにしろ、大きい身体に強い力。あっという間に清光に抱き着かれたまま、私ごと縁側から崩れ落ち、今度は私が清光の胸の中へ。
ちらりと顔を上げ様子を伺うと、倒れたドミノの様に皆が尻餅をついていた。


安定は手が痛かったのか、両手をぶらぶらと解し、今剣は「また、ひとりじめです!」と清光を指差しふくれっ面。

五虎退は心配して駆け寄ってきた虎を撫で、三日月は「はっはっは。」と楽しそうに笑い…



「よきかな、よきかな。」



そろそろ夏は本格的に終わりを迎え、徐々に肌寒い風を運んでやって来るだろう。

ふと見上げた清光の顔は、涙と汗で濡れていた。


ぐしゃ、ぐしゃ。




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