十月某日





りんりん、りんりん。



「はろ、はろうい…?はろうぃん?」


りんりんと高い音を奏でる鈴虫が知らせに来た十月。
すっかり夏は気配を消し、秋になっていた。


「うん。海の向こうの文化だけど、私のいた時代では日本でもすっかり恒例のイベントなの。」

「あー、そう言えばこの前見た本に書いてあった!」


今日は甘味処で清光と二人、餡蜜を口に運びながら作戦会議をしている。


「みんな張り切って居るから…」

「今剣と乱は好きそうだよねー。」

「そうなんだよね…」


清光も見たと言う本…私の雑誌では、ハロウィン特集が組まれていた。それは乱も愛読して居る為、乱が発見し興味を持ち、今剣に教え、やがて本丸中に…


「乱は衣装探し」

「今剣は呪文の練習」


張り切ってるもんなぁ…と二人のため息が混ざる。


「しかも、鯰尾に至ってはお菓子よりも悪戯を楽しみにしてたよね…」

「私…この前、鯰尾が馬小屋にスキップしながら入っていくの見ちゃった…いつも以上に輝いてた…」


やっぱりそう言うことだったのかぁ…また二人のため息が混ざり合う。


「ま、まぁ!お菓子用意しておけばいいんでしょ?」

「そ、そうそう!食べたら万屋でお菓子を買い込もうね…」


二人はため息が出る前に餡蜜を口に押し込んだ。





甘味処を出た二人は、万屋で和菓子から洋菓子まで、様々なお菓子を買い漁った。
これで呪文対策は完璧。同じく万屋にて購入したカボチャのバケツへお菓子を入れ、蛍丸を除いた打刀〜の大人組へ配る。

どうやら大人組でも仮装を楽しんでいるグループがあり、中でも山姥切がミイラの仮装をいたく気に入っていたので、個人的に「内緒だよ」とお菓子をひとつあげてしまった。

鶴丸は変な鶴の着ぐるみ(お手製)を着用していたので、カボチャのバケツを持つことができず困っていたが大丈夫だろうか。大丈夫だろう。


「あ、安定ー!いいもの買ってきたよ。どうぞ!」

「主!おかえり。わー!ありがとう!」


安定が新撰組の衣装が着たいな、と呟いていたのを清光が拾い、何故か万屋に特設されていたハロウィンコーナーにて新撰組セットを購入した。


「私と清光も真似しちゃったから、一緒に着ようね!」

「そうなの!?」

「兼さんと堀川くんの分は、堀川くんが用意してくれるみたい!」

「和泉守のサイズは売ってないし手作りかな」


取り寄せたミシンを早くも使い熟し、カタカタと鳴らす堀川くんは容易に想像できる。

本来の趣旨とは違う仮装だが、皆が喜んでくれるならどんな仮装でも構わないと、各々好きな仮装を用意していた。


「そろそろ着替えて準備しようか」

「そうだね。また後で!」


安定は私が新撰組の格好をするのが楽しみだと喜んでいたが、それ以上に清光が新撰組の衣装を身に纏う姿が楽しみで嬉しいのだろう。安定の周りに大量の花弁が舞って見えた。


「とりっく、おあ、とりーと!ですよ!」


廊下には早速、今剣の大きな声が響き渡る。たくさん練習したんだなぁ。私はゆるむ口元を軽く手で抑えながら、着替えの為に自室へ向かった。


「とりっく、おあ、とりーと!」





そんな小さなお祭りが終わり、私は静まり返った頃。スヤスヤと寝息が聞こえる中、大人組はお疲れ様会≠ニ称して酒盛りを始めていた。私は少し顔を出した後、縁側でひとり、腰をかけていた。

傍に置いたカボチャのバケツには、溢れるくらい詰められていたお菓子が、見事に一つも残っていなかった。


今剣は大量のお菓子を手に入れ、最終的にバケツが三つでも足りない程に。

乱はお人形さんの様な、とても可愛らしい衣装を見に纏い満足げ。

鶴丸はお菓子を持ち歩く事ができず、鯰尾を筆頭に様々な面々の犠牲に。

新撰組+私はと言うと、いつの間にか何でもありの誰が一番お菓子を回収できるか戦争≠ェ勃発し、短刀や脇差達に負けず、はしゃいでいた。


「楽しかったなぁ。」


鈴虫の鳴き声を感じながら、今日一日で出来たばかりの思い出を振り返ると、私は気持ちよく目を細めた。


「主ー?起きてる?」


りんりん、りんりん。


「清光、お疲れ様」

「おつかれー。…ん。」


顔を上げると、清光はお菓子が大量に入ったカボチャのバケツを差し出した。


りんりん、


「そう言えば俺、主からお菓子貰ってないんだよねー」

「えっ」


りんりん。


「とりっく、おあ、とりーと」


清光が妖しく笑うと、鈴虫の鳴き声よりも早く、どきどきと胸が鳴く。

浅葱色を纏った清光が新鮮だったから、だけでは無さそうだ。


りんりん、りんりん。



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