10. きぼう



日が沈み、清光の背を見送る。
手入れ道具を片付ける為に手を動かすが、頭の中は別の事でいっぱいだった。


「梨乃、大丈夫かい?」


襖を軽く叩いた音の後、楼主の声が聞こえた。
返事をし、重たく濡れたハンカチで涙を拭ってから襖を開けると、心配そうに顔を歪めた楼主が立っていた。


「清光から、話を聞きました」

「…そうかい。」


楼主は眉を下げ私の頭をひと撫ですると、正面に敷いた座布団へ腰を下ろした。


「どうしたもんかねぇ。」

「政府へ報告したら…」

「…政府も疑っちゃあいるんだが、な」


難しいんだ。悔しそうに顔をを顰める楼主の表情に、絶望を感じた。


「政府も審神者不足で焦ってる様でな。代わりの審神者でもいたら違うんだろうが…」


代わりの審神者…
今日あった出来事を楼主に話すと、楼主は目を丸くして驚いた。


「梨乃、本当にお前が手入れをしたのかい?」

「はい。此処へ来る前に教わっていたので…」


手入れ道具に特別な力があったのでは無いかと伝えるも、楼主の耳には入っていない様だ。代わりに、心なしか表情が明るく変化していた。


「そうか、そうか。政府が借金を肩代わりするなんて、妙だとは思っていたが…そうか。」


政府が借金を肩代わりするのは、珍しい事なのだろうか?
首を傾げていると、楼主は柔らかな笑顔を浮かべながら立ち上がる。


「梨乃、心配するな。梨乃も加州様も大和守様も、救えるかもしれん」

「それは本当ですか!」

「ああ。ただ、かもしれない≠セから、話半分で聞いてくれ。」


今の絶望的な状況下では、どんな曖昧な希望でも、大きく強い光を感じる。今の私には十分すぎる光だった。


「ひとまず私は政府へ報告してみる。加州様はまた明後日いらっしゃるとの事だから、また傷付いていたら手入れを頼んだよ」

「はい!ありがとうございます」


楼主はお日様の様な笑顔を見せ、部屋から去って行った。
それを見送る私の顔も、今はお日様の様に光っているのだろう。心が温かくなり、私は明後日≠明るく待つ事にした。





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