09. 審神者
正直、えらく驚いた。
人生に驚きが必要だと、万年驚き不足な彼が聞けば、それはそれは喜ぶだろう。
そんなことを考えながら、先程綺麗に手入れしてもらった、刃こぼれひとつない自身を見つめた。
「ちゃんと出来て良かったぁ。」
審神者でもない彼女が手入れを施してくれた事実に、ただただ驚くしかなかった。
梨乃は此処に来る前、政府の人間から教わったと言う。人間ならば誰でも出来るんじゃないかな?なんて笑っていたけど…手入れ中に感じた霊力が否定する。
あの、時の政府がいくら遊女屋設立の為とは言え、ただの人間≠フ借金を肩代わりするなんて少し疑問を抱いていたが、もしかして…
「梨乃、審神者の才能あるんじゃない?」
「え?」
私に?と、目を丸くして驚く彼女には自覚が無いのだろう。
いくら刀剣の手入れとは言え、ただの人間≠ェ容易に出来る事ではない。そして、手入れ中に感じた霊力を指摘すると、彼女は本当に心当たりが無いと、頭を横に振った。
「梨乃が審神者だったら良かったのに」
「清光…」
梨乃が審神者だったら、きっと自分も、本丸にいる安定も、大事にして貰えただろう。考えると目頭がまた、熱くなる。
「俺さ…二振目、なんだ。」
もしかすると、彼女は既に知っていたのかもしれない。えらく真剣な表情で、真っ直ぐ目を見て話の続きを待っている。
今居る本丸は、俺にとって二つ目の本丸で、二人目の主に仕えてる。
一つ目の本丸は、所謂ブラック本丸≠チてやつで、其処が無くなってからは安定と一緒に、今の主に引き取られた。
「でも、今の本丸には既に加州清光も大和守安定も、既に存在したんだ。」
「引き取られたから、異例の二振目≠ネんだね」
「そう。本来なら一振りずつしか存在しない筈なんだけど、ね。」
一つ目の本丸には、審神者たちの言うレア4≠フ刀剣も揃って居たし、三日月や小狐丸も居た。
今の主は、それらの珍しい刀剣を目当てに、引き取る事を政府へ提案したのだ。珍しい刀剣が手に入る上に、ブラック本丸から傷付いた刀剣を引き取った優しい審神者≠ニして自身の株も上がる。今の主はそう言う奴だ。
…しかし、その珍しい刀剣達は争いの種になるからと、自ら刀解を申し出た。
此処まで話した所で、察しの良い彼女は全てが繋がったのだろう。ぽろぽろと大きな涙を落として居た。
「…それで、言葉は悪いけど、代わりに清光と安定さんが引き取られたのね。」
「今更引き取る件を投げたら、自分の株を上げるどころか下げてしまうから、ね。」
梨乃は、そんなの酷い、汚い、と泣き*る。涙はもう、拭っても拭っても止められない。
「結局、今居る本丸も前の本丸も変わらないんだね…」
「そーね。給与は支給されて居るけど、手入れは気分次第。今日は見た目だけ治して此処に来たんだ」
何故か謝る梨乃の着物に、水溜りが出来る。
もうこんな話辞めようかな、なんて思うのに、涙を流しながらも真剣に聞いてくれる梨乃に甘えてしまう。
「給与はしっかり支給されているし、目に見えて手入れされて居ない状態では絶対に外出させない。だから、政府はまんまと騙され続けているみたいだね」
「そんな…」
「俺も安定もお手上げ状態。だから…」
梨乃が俺たちの主だったら良かったのに。そう、強く思ってしまう。
梨乃は、いつの間にか濡れていた俺の顔を綺麗な布で拭い、大丈夫、大丈夫と溢しながら、両腕を背中へ回して撫でてくれた。
「私が、審神者だったら良かったのに」
彼女の優しい呟きが、耳を通して頭に響いた。
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