12. きつねがはこぶ




気がつくと、見慣れない天井が目に入る。
折れなかったのか。喜びよりも絶望に襲われる。ゆっくり瞬きをすると、見慣れた顔が覗き込んで居た。


「清光…!梨乃さん、清光が!」


見慣れた顔が起き上がると、聞き覚えのある声が響く。


「清光!良かった…本当に、良かった…」

「…梨乃?」


そうか。此処は遊女屋で、梨乃の部屋。
先程覗き込んで居た安定が運んでくれたんだ…

いろいろと思い出し、飛び起きる…が、安定に押されて再び寝転ぶ。


「こら、清光!安静にしてないと」

「安定…ありがと」

「…うん。梨乃さんが治してくれたんだ。」

「梨乃が…」


俺と安定は二人で出陣させられ、検非違使に襲われた。俺はなんとか安定だけでも守ろうと、折れる覚悟で飛び込んだ。…そこから記憶がない。


「折れるギリギリ、否、折れかけてたんだ…でも、梨乃さんのお陰で」

「そっか…」


静かに泣いている梨乃の顔は、これでもかと言う程にぐちゃぐちゃで、如何に自分が心配をかけたかを物語っている。


「梨乃、ありがとう」

「清光…っ」


駄目だって!と押さえつけようとする安定を止め、起き上がる。
良かった、良かったと泣き*る梨乃を抱き締め、俺は梨乃の真似をして、大丈夫、大丈夫と背中を撫でた。

安定から依り代を受け取ると、襖の先から声が掛かった。


「梨乃、いいかい?」


梨乃が襖を開けに行くと、見慣れた管狐を連れた楼主が立って居た。


「こんの、すけ?」

「はい。こんのすけで御座います!」


何故、政府の狐が此処に?まさか、今の主から連れ戻しを要請されたのだろうか。
そんな心配をしていると、こんのすけは申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を開いた。


「先に申しておきますと、加州様と大和守様の主さまは、あなた方二振の事に関しては何も…」

「そっか…」


安堵と悔しさで、ぐちゃぐちゃする心を鎮める。
あんなに嬲っておいて…本当に、自分達はただの人形だったのだと再認識させられる。


「まあ、いいじゃないか。加州様、この管狐が此処にやって来たんだ。意味は解るかい?」

「え…?」


全然解らない。目を開いて楼主を見ると、楼主は梨乃の肩を抱いて、明るく笑った。


「梨乃が審神者になるんだ!」

「えっ、…え?」


頭が付いていかない。人間は何でいつも、こうも突然なのだろうか。肩を抱かれた梨乃も、目を丸くして驚いている。
俺と梨乃が慌てる様子を見た楼主はまた声を上げて笑うと、話を続けた。


「今回、折れかけた加州様を手入れした際、梨乃の霊力が審神者に相応しいと判断されたんだ」

「私はその為に、此処へ足を運んだ訳です!」


梨乃様の霊力は素晴らしいのですよ!と、こんのすけが飛び跳ねる。

更に話を聞けば、俺と安定の事を気に掛けた楼主が、政府へ報告、そして相談して掛け合ってくれたらしい。


「え、私、審神者になるの…?」

「なんだ梨乃、嫌かい?」

「いいえ、とんでもない!」


優しく笑う梨乃の目には、また大きな涙が溜まっていた。
梨乃に近付き、その涙を掬ってやると、こんのすけが楼主の肩へ飛び乗った。


「ただし、条件があります。」






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