08. なりたい




盆にお茶と茶菓子を並べ、私は待つ。
もう直ぐだろう。階段の鳴き声が響く。


「梨乃、」

「清光!いらっしゃい。」


良かった、無事なようだ。
昨日、楼主から聞いた話の所為で、私の頭は清光の無事を祈る事しか出来ずにいた。
しかし、彼はいつも通り綺麗な姿で襖から現れた。本当に良かった。


「昨日は出陣だったんだよね?お疲れ様!」

「…うん、ありがとう」


姿は≠「つも通りだ。しかし何故だろう、違和感がある。


「今日もお茶と茶菓子を用意したの。椿の練り切り、可愛いでしょ?」

「うん、可愛いね」


私はお茶と練り切りを差し出すと、清光は笑顔でお礼を言い、受け取る。…また違和感。


「…ねぇ、清光」

「ん?どうかした?」

「出陣先で怪我した?」

「え、」


清光の猫みたいな目が、まん丸と見開いた。


「何処か痛むんじゃない?」


何処と無く、先程から見える仕草の全てが、身体を庇うような…今日の違和感の原因だろう。


「…もしかして、」


審神者にやられたの?

声を振り絞る。
完全に勘だし、これは当たって欲しくはなかった。否定して欲しかった。なのに、清光の顔は、絶望的だと言わんばかりに暗くなってしまった。


「刀、見せて。」

「え…?」

「依り代である刀を手入れしたら治るんだよね?」


傷がついた自身を見られる事は、いつでも可愛くありたい清光には少々酷だろう。それでも私は無理矢理、彼の依り代である刀を奪った。


「ああ、痛かったでしょ…?」

「…ボロボロだから、あんま見ないでっ」


鞘から抜くと、見事に刃がボロボロになっていた。それは、予想よりも大きな損傷だ。


「梨乃、手入れ出来るの?」

「一応、此処に来る前に習ったよ。」


審神者とは形が違えど、刀剣男士と関わりを持つ立場だ。覚えておいて損はないと、半ば強制的に政府の人間から叩き込まれた。
まさかこの様に、実際に手入れを施す事になるとは思いもしなかったが。あり得ないなんて事は、つくづく無いものだ。


「もし痛んだりしたら言ってね。」


頷く彼を確認し、習った通りに手入れを進める。なるべく痛まない様に、優しく、優しく。

支給された手入れ道具に、特殊な力が備わっているのか、はたまた刀剣男士に備わる能力の一つなのか定かでは無い。それでも、こうして手入れを進めるうちに、傷付いた刃が修正されていくのだから、今はどうでも良い事だった。


「…どうかな?」


淹れたお茶は冷めてしまっているだろう。
ボロボロだった彼の依り代は、すっかり新品の如く綺麗な状態となった。


「もう、痛く無い…」

「良かっ、た」


言い終える前に、身体が重たさを感じ、あたたかさを運ぶ。清光に抱き締められたのだと気付いたのは、えらく時間が経ってからの事の様だ。


「き、清光…?」

「梨乃、…ありがとう。」


私は彼の背を撫で、受け止めた。初めて彼の役に立てた様な気がして、とても心があたたかい。

…私は私のヒーローを救いたい。
私を助けようとしてくれる清光の様に、私も清光を救える存在になりたいと思ったのだ。


私もヒーローになるのだ。





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