騒めき×動揺×昔の記憶
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しばらくクラピカと話していて区切りが付いたのでゴンの様子を見に戻ってきた。流石は博学なクラピカだけあって、この世界の事をだいたい理解できてきた。

「これはこれはロウさんですか」

「サトツさん、ゴンの様子は?」

「あれから眠ったままです。でも、近いうちに目は覚めるでしょう。この様子だと相当疲労が溜まってたんですね」

確かに軍艦島からゴンの様子が妙だったな。理由はゼビル島で言ってたゴンのあの悩みだろうけど、誰かの役に立ちたかったから色々頑張ってたもんな。

「……寝顔も可愛いですよね」

「えぇ眠っていると、いつも以上に子どもらしいですね」

思わず口滑らせてしまったけど流石はサトツさん。別にドン引きする様子もない。肝が座ってるなぁ。

「スー……スー……んっ……ぇ?ガルなの……?」

ゴンの言葉が聞こえたと思い振り返ればそれは寝言だった。しかし、何の夢を見ているのだろうか。

「ガルという知り合いでもいたのですか?」

「いや、俺は知らねぇしゴンから一言もその名前は聞いた事がない」

知らない筈なのに俺の動悸が早くなっている。俺の意識がガルという何に反応している……?記憶が無くなる前に実は会ったことがあるから無意識に反応しているのか?

「どうされました?」

「い、いや……なんでもない。ちょっとシャワー浴びてくる」

俺はすぐに部屋から出ると廊下を走り抜けていった。それは自分の中にある恐怖から逃げる様に。



心の中に俺の知らない自分がいるみたいで怖い。もし、失った記憶が戻った時、俺の人格はどうなるんだ?人が変わってしまった時、俺はゴンを愛し続けられるのか?

「……くそっ!」

壁を蹴れば「ガンッ!」と音が廊下に響き渡る。ただ、俺は胸の騒めきを抑えたかった。

「随分と荒れてるな」

「は、ハンゾーいたのか」

「悩みなら、聞くぜ?」



いつもと違う俺にハンゾーは心配してくれている。軍艦島の時でさえ、平静を保ってた俺が試験合格後のこのタイミングで荒れていては心配もするのだろう。

近くのソファに腰をかければハンゾーと並んで座る。照明が切れかかってるのか電気がチカチカと点滅を繰り返す。

「俺さ、ハンター試験受ける前の1ヶ月以上前の記憶がないんだ」

「……そうだったのか。お前はそれを思い出したいのか?」

答えがわかりきっている様な声で問うハンゾーに俺は首を横に振った。

「思い出すのが怖い……のか?」

コクリと俺は頷く。やっぱりハンゾーは察しが良いよね。こう言うところがあるからいざと言う時に頼りになる。

「もし、その記憶が蘇ったら今の俺が消えてしまう気がして。ゴン達がいるのに今の俺が消えてしまった時のことを考えたら胸が張り裂けそうなんだ」

それに、俺は天狼。人類に滅ぼされた種族で、その時の記憶が蘇れば復讐の渦にのまれて人間であるゴンを殺めてしまうかもしれない。

「でもよ、いつ思い出すかわからないって思ってビクビクして過ごすよりは、思い出しちまって胸を張って接した方がゴンは喜ぶんじゃないのか?」

「……確かに。でも、それを決意するにあたって俺を止められる人物が欲しい」

「どういう事だ?」

ハンゾーにならば俺の素性を明かしても良いだろうか?あまり関わりはないけれど信頼できるんだ。

「ハンゾー、少し良いか?」

「……?」

俺は個室にハンゾーと二人で入ると扉をロックして誰も入れない見れない閉鎖空間を作った。

「俺の正体……ハンゾーなら信頼できる」

俺は自分の姿をオオカミの姿にした。それも四足歩行の天狼の姿に。それを目にしたハンゾーは目を見開いた。それは悪いものを見る目ではなく、信じられないという眼差しで。

「……まさか天狼か?」

「そう、俺の生前は天狼だったらしい」

「せ……生前だと?」

天狼という生き物である事にハンゾーは驚きを隠せてないが、俺の言った言葉が引っかかって聞き返してくれた。

「これは今の姿なんだ」

さらに姿を変えるとコエンマ達にあった時の、記憶が無くなってから1番古い記憶の俺の姿。つまり妖怪の姿。二足歩行に獣人フォルムとでも言えば良いのか。

「生前というのか一度死んだんだ」

「ちょっと待ってくれ頭の整理がつかない。お前の正体は天狼だけど死んだって事で良いのか……?でも、今のお前は……?」

「妖怪だと閻魔から言われた」

コエンマと言おうと思ったが、閻魔といった方が伝わるだろう。たぶん、ハンゾーが抱いてるイメージとはかけ離れてるけども。

「……そういう事か。記憶が戻ったら天狼を滅ぼした人間を……ってことか?つまりは今の自分でいられなくなる」

「あぁ。今の俺は復讐心なんてないけれど、記憶が戻ればそうは限らない」

それにゴンは俺と良く似たオオカミを見た事があるらしい。だとするとゴンの言っていたガルというのは天狼で、そいつと俺は生前に接点があったから胸がざわめいたとも考えられる。

「すまねぇが無責任な事は言えねぇみたいだな」

「いや、あくまで参考程度にハンゾーの意見を聞きたいんだ。それに、ここまで俺の正体を明かしたのはハンゾーが初めてだ。少し俺も安心した」

俺に対する恐怖も感じられないし、むしろ俺を守ろうとする意思を感じ取れる。

「しかし通りで強いわけだな。こんなチビッ子が俺より強いのは中々ショックだったからな」

「あはは、でもハンゾーはこれからまだ、更に腕をあげられると思うな」

「おい、なんで俺が励まされてんだよ」

そういや、俺が励まされる側だったな。でも、ハンゾーに悩みを打ち明けたら割とすっきりしたんだ。それに、ビクビクして生きるより胸を張って生きた方が良いもんな。

「だから、強くなるハンゾーにお願いだ。もし、今後俺が記憶を取り戻し人類に復讐しようと企てたら殺してでも止めてくれ」

「難しい事言うな。まぁ、でもそうなった時はお前を止めには行くぜ」

「あぁ良かった。ちょっと安心してきた、かな?」

人間の姿に戻ってみせると個室から出てソファに座って力を抜く。抜くというよりは力が抜けていった。

「ハンゾーってモテるだろ?」

「っ!?いきなり何を言い出すんだよ!?」

「いや、優しいからさ」

「ったく、俺はもう行くぜ。また、悩み事でも出来たらいつでも俺に相談してもいいぜ。じゃあな」

そういうところが優しいんだよな。最終試験でゴンがハンゾーとあたっても、なんだかんだでハンゾー降参しそうだし。

「さて、本当にシャワー浴びようかな」
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