正体×確信×恐れない
◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらく三人で焚火に当たっていれば、静けさ余る森の方から、その静けさからは似合わない銃声の音が響いた。
「…な、なんだ!?」
「…っ!?」
ゴンはすぐに起き上がると森の方に走っていき、俺とキルアもすぐにゴンの後を追いかけていった。まさか密猟でも起こっているのか?
「どうしたんだゴン!?」
「密猟者だよ!ここは狩りをしちゃいけないんだ!それにコンの声がした!」
俺にも聞こえなかったが……いや、今はそんな事よりもコンというキツネグマの安否を祈らねばな!
円を広げれば密猟者と思われる存在とキツネグマのコンと思われる者の気配を感じ取った。
「ゴン!コンの居場所は、ここから約400m先の場所だ!」
そう伝えれば一層とゴンの足は速まった。すぐに現場に向かえば、大木に一頭のキツネグマが鎖で巻き付けられ身動きが取れない状況にされていた。
そのキツネグマに向けて拳銃を構える密猟者にゴンは飛びかかり阻止した。俺とキルアは他の密猟者をすぐさま気絶させた。
「……ご、ゴン!こいつが」
既に銃で撃たれた子供のキツネグマの事をゴンに教えるとゴンはすぐに子供のキツネグマを確認した。
「まだ……まだ生きてる!」
「すぐに家に戻って治療するんだ!コンの事は俺に任せろ!」
「う、うん!」
ゴンはコンの子供と思われるキツネグマを抱えると家の方に走って行った。キルアも後を追って、ここから立ち去っていった。
「よし、待ってろよコン」
右の手首から先を妖狼のものに変化させると、手を上から下へ振り落し鎖を切り裂いた。
身動きが出来る様になったコンは俺の事をマジマジと見つめていた。まるで、あり得ないものを目にしたかの様に。
「あはは、これは念といってな鎖くらいなら簡単に切れるんだ」
言葉が通じるかはわからないけど、興味本位で何となく言ってみた。やはり、コンの俺に向ける不可思議な視線は変わらなかった。
「……ま、コンは俺やゴン達が助けるから」
コンに一旦別れを告げたが、腕を掴まれ引き止められてしまった。驚いて振り向くとコンはやはり信じられないと言った表情をしている。
「ど、どうしたんだよ。お前は俺の事を知っているのか?」
なぜ俺を止めるのかわからなくてコンに疑問を投げかけたら、その疑問にコンは頷いた。
「……え?」
コンは俺の手を離すとゴン達が走って行った方に手を向けて、もう行っていいと合図してくれた。今のコンとのやり取りに強い困惑を抱いたが、今はそれどころじゃないな。すぐにゴンの家に全速力で向かった。
1分もしない内に着くと、ゴンとキルアも到着した直後だったらしい。ゴンはミトさんを呼ぶと、すぐに怪我の手当てが行われた。
それから暫くするが、コンの子供の容態は悪くなる一方でゴンは心配そうに見ている。まるでその表情は、ガルがボロボロで見つかった時の幼い頃のゴンの表情に似ていた。
頼むから生きてくれ……っ。ゴンに二度仲間を失わせる苦痛は味わってほしく無いんだ。
「そいつはもう駄目だ」
部屋に入ってきたキルアはコンの子供の息遣いを聞くと諦めた顔でゴンにそう言った。俺も気付いてはいたが、可能性を信じている。
「な、何言ってんのキルア……?」
「その息遣いは先が無い証拠だ。だったら苦しませてやらずに死なせてやるべきだ!」
「大丈夫助かるよ!絶対助けてみせる!」
「……っ。もういいどけよ!」
ゴンとキルアが目の前で取っ組み合いを始めるが、俺はどちらの味方をして良いかがわからない。確かに……この息遣いは悪化していく容態をみれば……もう駄目だ。
だからと言って生きる為に必死な奴を楽にするもの間違いな気がしてならない。
「……俺はどうしたら」
どこからか聞こえる足音が近づいてくれば水を入れた洗面器を持ってきたミトさんが部屋に入ってきた。
一瞬、何が起こってるのか理解が追いつかない様子だったが、すぐに洗面器を床に置いてゴンとキルアの取っ組み合いを止めに入っていった。
「やめなさい!二人とも!」
「もうこいつは死ぬ!だから苦しまない様に死なせてやるのさ!」
キルアはミトさんが掴む自分の手に力を入れて凶器と化した手に変形させた。それを目にミトさんは驚いた様子を見せたが、それでも止めさせていた。
「もうこいつは終わりさ!何をやっても無駄さ!」
「バカを言わないの!無駄な事なんて一つも無いわ!」
無駄な事は一つもないか……。だが、キルアの言っていることは確かだ。それでも、殺すというのは間違っている気がする。だけど、このまま苦しませても良いことはない。
「離せ!!」
とうとうキルアはゴンとミトさんの二人を振り切ると、二人は勢いにやられて倒れてしまう。ミトさんの腕はキルアの爪が当たったのか深い切り傷が出来ていた。
「こうなったらおしまいさ。先がない以上……生きている価値もない……」
「キルア!!」
俺が目を瞑った時、パチンと渇いた音が響いた。すぐに目を開いてみれば、ミトさんがキルアの頬を叩いたのだとわかった。
「命を……命を価値なんかで量らないで…。この子は生きる事は諦めてない……。生きる為に戦っているのよ!生き続けたくても出来なかった子も居るんだから……。あなたは……命の大切さを教わって来なかったの……?」
殺し……だけだもんな。今まで…死ぬ気で教え込まれたのが殺しだけだもんな。
殺し屋にとって命の大切さってのは一番覚えちゃいけない物だからな。
キルアはゆっくりとコンの子供から離れていくと壁を背に座り込んでしまった。
「あ……そうだキルア!教わったじゃない。念だよ!念を送ってみたらどうだろう?」
念……確かに念は生命エネルギーのことだ。だけど、いや今はそれしか手がないかもな。
「……そうか!こいつの中に眠っているオーラを高めてやれば!やってみるか!」
キルアは立ち上がるとゴンと二人でコンの子供に近づいていく。俺は様子を伺う事にしよう。妖気という死後の念に近いものを送るのは正しいのかがわからないからな。
「ミトさん見てて。俺たちがハンター試験で何を教わってきたか……!」
「一気じゃなくて、ゆっくりと数回に分けてやるぞ」
「うん」
二人は手をコンの子供にかざすとオーラを集中させていく。その不思議な力にミトさんも気配だけは感じ取れているのは驚嘆とした表情をしていた。
「ミトさん……今回は助かるな」
俺がそう言えばミトさんは別の意味で驚いていた。おれが遠回しにガルの事を言った事に気がついたからだ。
それからというもののコンの子のキツネグマの容態は見る見る回復していき、翌日には歩き回れるまでに回復していた。
今朝、玄関のドアを開けるとコンの姿があり、回復した子供を返してあげた。助かって何よりだった。
「あぁ〜良かった〜……。でも、ゴン。よくそこで念に気がついたな」
「え?俺たちが教わった事を思い出してたら辿り着いたんだ」
なるほどな、でも念を送るというのも一か八かの賭けに近いものだったがな。そこのところはキルアが上手くアシストしてくれたし、二人がいたから成功に導けたのかもしれない。結局、俺は何も出来てねーけどな。
「ねぇ、ロウ君。今ちょっと良いかしら……?」
「え、良いけど」
真剣な顔つきのミトさんに呼ばれると、誰もいない部屋まで連れて行かれた。俺は椅子に座ればミトさんは何かを用意し始めていた。
「あなた……人間じゃないわね?」
唐突に言われたミトさんの言葉に俺は言葉を失う程驚いてしまった。何を根拠に言っているのかがわからないけど、確かにミトさんは俺の正体が人間じゃない事を当てた。
「ごめんなさい、変なこと言ってる自覚はあるわ。でも、昨日、貴方の服に動物の毛が付いていて……コレよ」
白っぽく少し灰色が混ざったような硬質な毛を数本テーブルの上に置いて俺に見せた。これは、昨日コンを縛っていた鎖を切るために片手だけ妖狼のものに戻した時に抜けた毛だろう。
「次にコレを見て欲しいの」
ミトさんは手にしていたケースを開けると、そこから数本の毛を取り出して、先ほどの毛と並べて置いて見せた。
「これは……昔ゴンが連れてきた狼の毛よ。硬さや柄まで同じで……とても関係が無いとは言わせないわ」
「……きっと、昨日は森で探検してたし、その時に同じ種類の狼と触れ合ったから」
「嘘ね。この森には本来狼なんて生息してないもの。ゴンが連れてきた狼がイレギュラーなだけで」
速攻で俺の逃げ場を潰しにくるミトさんの目はとても真剣なものだった。この様子じゃあ嘘は通用しそうにもない。
更に言えば、この何かを訴えかけたそうな表情。言うなればコンが昨晩、俺に向けた視線を似ているんだ。
「それに昨日……貴方は言ったわ。今回は助かるって!まるで前回は駄目だった事を知っていたかのように!」
「……すいません」
一言、俺が謝罪の言葉を口にすればミトさんはハッとした様子を見せた。
「いえ、私の方こそ……急にこんな事……」
「俺……記憶が無いんです。ミトさんの言うように俺は人間じゃありません。狼の妖怪です」
俺は嘘は通じないと思い、ありのままの事を話したが、ミトさんはあまり驚いた様子を見せずに俺をジッと見つめていた。
「ごめんなさい……。私もしかしたら貴方がガルの生まれ変わりなんじゃないかなって思っちゃって……」
「……?」
「今朝……貴方が目がさめる時間……あの時間はガルがいつも決まって目がさめる時間で……最初は偶然かと思ったけれど……昨晩の袖に付いていた毛で……」
俺の目がさめる時間はガルと同じ……?これって、もしかして俺は本当にガルなのだろうか……?だとしたら昨晩、コンが俺に向けた有り得ないという表情にも説明がつく。
「もし……もしも貴方がガルだったなら……まず最初にゴンに……その事を教えてあげて。あの子ったらずっとガルの事が忘れられないみたいで……」
「もし俺がガルだったら……そうします。その後に貴女の元に向かいます」
何だろう……第六感が俺に記憶を取り戻すように暗示している理由が分かった気がする。きっと俺はガルなんだ。
そして、そのガルは多くの者達を悲しませている。コンにミトさんに……ゴン。俺は今無事だと伝える義務があるんだ。俺がガルだという保証はどこにもないけど…今なら何となく分かる。
「もし……もし俺がガルなら……またここに居ても良いのか……?」
「えぇ、もちろん。いつでも歓迎してるわ」
ミトさんはまるで俺がガルだと確信してるかのように俺に返事をした。でも、確かに……ゴンが俺の事を良くガルと似ていると言う理由も納得がいく。
「じゃ、私は朝ごはん作るから、ゴン達を頼むわね?」
「はい!……その、ありがとうございました!」
俺は礼を告げると、この部屋から出てゴン達のいる部屋に向かっていった。もう俺は記憶を取り戻す事に絶対、恐れない。
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