欺く×嵌る×ヌメーレ湿原
◆◇◆◇◆◇◆◇
薄暗い地下から出てみれば、辺り一面に広がる湿原があった。まさか、この湿原を渡ろうとでも言うのか?咄嗟に感覚で感じ取ったが、この湿原には凄い数の動物がいる。
雰囲気もどんよりしていて、この湿原は普通じゃなさそうだな。
「ここはヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒」
そして、サトツの話しによれば二次試験会場までは、ここを通らなければならないらしい。ここには珍獣や狡猾な動物など貪欲な生物が数多く分布しているとの事だ。
「騙されると死にますよ」
こう言う知識と知性が物を言うのは得意じゃないんだよなぁ……。地下のシャッターが完全に閉まるとサトツは続けてヌメーレ湿原について説明を続ける。
「嘘だ!そいつは嘘をついている!!」
なんか妙な息遣いが聞こえると思ったらあいつだったのか。それに、あの手に持ってる奇妙な猿は一体なんだ?
あいつの話を要約するとサトツは偽物の試験官で俺たちを騙しているといったもの。なんだか、胡散臭い野郎だ。サトツの方があからさまにオーラが見えやすい。あの男からは何も感じなかったからな。
それに、そんな獣にやられるハンターの試験官なんてみたくないな。実に頼りないに不測の事態に対応できないなんて試験官失格だ。と考えれば本物の試験官はサトツという男。
一瞬の殺気と共にサトツや試験官を名乗る男のほうにトランプが飛ばされていった。
トランプはオーラで強化されていて、鋭利な刃物のようになっていると思われる。
無論、サトツはそのトランプを見事に取り、試験官を名乗る男は受け取れずにトランプが顔に刺さり悲惨な事になっていた。
でも、あの程度の速度のトランプを交わせないなら試験官な訳がないな。仮にも受験者の命がかかっている以上は試験官も一定水準の戦闘力を持っていると考えられるからな。
「これで決定。そっちが本物だね」
ピエロの様な男が笑って言うと、サトツは受け取ったトランプを指で弾いた。流石は試験官と言ったところか。それに、あのピエロのおかげで周りもサトツが本物の試験官だと認め試験が再開された。
再び走り出すサトツに俺は着いていく。少々、罠が多いがそんな事はどうでもいい。先ほどトランプを使っていた男の禍々しい殺気が実に迷惑だ。
「……この殺気って、さっきの奴か?」
「ロウにも分かるか?あいつ殺したくてウズウズしてるな」
何か言わないと気が済まなくなり、独り言のつもりで呟けばキルアから返事がきた。
驚いたあまりにキルアを思わず二度見してしまった。だって、まさかキルアみたいな小さな子が殺気なんかに気がつくなんて思わなかったからな。
「何でわかるのって顔してるね」
俺たちの会話にゴンがキョトンとしていた様子で慣れた表情でキルアはそう言った。
「同類だからニオイでわかるのさ」
「同類?そんな風に見えないよ?」
キルアが、あのトランプを飛ばした男と同類だと言うがゴンは否定する。確かに、似たようなニオイもするが同類とまではいかない気がする。
「それは俺が猫被ってるからだよ。ロウも気づいてたけどお前も同類なのか?」
「いや、俺の場合は師匠の特殊な訓練の所為で過敏になっただけだな」
全く役に立たない力だと思ってたけど、この世界では案外、役に立つかもな。
俺とキルアで会話をしている中で、ゴンは後方に振り返ると、知り合いと思われる人たちに声を掛けていた。
「レオリオー!クラピカー!キルアが前に来た方がいいってさー!」
返事として「後ろから行けたら行ってる!」と言う必死な声が聞こえてくる。そうだよな、この人だかりを抜けて前に行くのは困難そうだもんな。
「クラピカ達、大丈夫かなぁ」
「仲間……か?」
「うん、ハンター試験で知り合ったんだ」
試験中にこんなに仲間を作っていたとは……。これはゴンの才能なのかな?ゴンが認めた仲間だから、きっと良い人たちだろうな。
今後、会ってみたい気もするし。
しばらく走っていると霧は一層と濃くなってきた。これじゃあ前方の人ですら視覚で捉えきれなくなってきた。それが原因なのか、正規のルートを見失った受験者の悲鳴が耳に入ってくる。
不意にゴンの様子が気になり視線をゴンに移せば、不安そうな顔をしていた。これは、自分に対する心配ではなく、さっきの仲間達に向けたものだろう。
「ボヤッとすんなよ。人の心配してる場合じゃないだろ」
キルアの言うことも最もだ。この試験ではいかに騙されないで進むかだから、他の事に気を取られたら危険だからな。
「ぐぁっ!!」
後方から悲鳴が聞こえてきた。
この声って、さっきゴンの声に返事してた奴じゃねーか!
思わずゴンをみれば、ゴンは助けなきゃといった様子で悲鳴のした方へ走り出して行って。迷いの無い決断に俺は少しだけ動転したが気を持ち直す。
ゴン一人では行かせられない!あのトランプ野郎は何しでかすか分からねぇから助けに行かなきゃな。
「ゴン!……ってロウまで!」
「わりぃ!キルアは先に行っててくれ!」
既にゴンの姿は見えないが匂いと足音を頼りにすれば何とかなるな。どうして、ここまで熱心になってゴンを追ってるのか自分でもよくわかってない。
たぶん、失いたくないって俺の心が騒ついているからなんだろうな。
追いかけていれば、霧の中でゴンの姿が確認できゴンの横に並んで向かう事にした。驚いた様子を見せたが、俺が来た理由を直ぐに理解したのかゴンは何も言わずに走り続けていた。
ゴンの仲間の悲鳴が聞こえてきたのは、ここら辺だろう。俺は気配を消すように、ゴンとアイコンタクトを取ると既に同じ事を思っていたらしい。
「やられっぱなしで我慢できる程、気ぃ長くねーんだよ!!」
仲間の声を聞いたゴンは、すかさず釣竿を構えペースを更に上げて走った。俺はゴンに合図して別の場所に向かいトランプ野郎を狙う事にする。
俺がトランプ野郎の死角となる場所に移動を済ませればゴンは釣竿を振った。
緊張が走ったが釣竿の重しはトランプ野郎のこめかみに見事直撃した。
「やるねキミ。釣竿、か……面白い武器だね。ちょっと見せてよ」
「テメェの相手はオレだ!」
仲間の男がトランプ野郎に殴り込もうとするが、逆にトランプ野郎の左アッパーが男の頬にめり込み男はぶっ飛ぶ。
ヤバイと思ったが、殺意のある攻撃ではなかった。現に顔の骨が砕けた様子はなさそうだった。
刹那、ゴンはトランプ野郎の元に駆け込むが、トランプ野郎が予想通りと言った様子でゴンの死角に入り何かをしようとする。
そろそろ俺の出番だな。正直なこと言えば、あんな奴に関わりたくはねーけど、仲間になれるかもしれない奴を見殺しには出来ない。
それに、トランプ野郎は俺の存在にまでは気がついていない。これは絶好のチャンスだ。
俺は音を置き去りにする勢いで地面を蹴りトランプ野郎の横腹目掛けて蹴りを入れる。
「……させっかよ!!」
よっしゃああ直撃!!あのトランプ野郎も驚いた顔して俺を見てやがる。数メートルも吹っ飛ばしてやったからな!!
ゴンとの距離も十分なほど取れたし、ここからだな。俺の攻撃が、どれくらい通用するかだ。あのトランプ野郎は戦闘慣れしてる様だから見切られたらおしまいだ。
(二人とも絶を使えたのか……。随分とレベルの高い絶だな……。最初の坊やは無意識に絶をやっているみたいだね……。ゾクゾクしてきたよぉ……。抑えなきゃ抑えなくちゃ……)
薄気味悪いトランプ野郎の顔に警戒しながらもゴンの安全を確保する。ゴンも仲間を見捨てられない性分だから、俺を置いて逃げる真似はしないはず。
ならば、俺がここでトランプ野郎を倒すという選択肢しか残ってないわけだ。
勝てる自信?うーん、あんまりなさそうだ。少なからず、人間フォルムのままじゃ遊ばれて終わり。だが……ゴン達の前で人間じゃないと明かすのも何だか嫌だな……。
「……今の蹴りは、やっぱり君だったか。結構効いたよ」
トランプ野郎は、痛めた横腹に手を当てながらも、更に禍々しいオーラを垂れ流しにしながら俺を褒める。
全く嬉しくねーな。ショックを受けた様な表情と言うより楽しんだ表情だ。
ゴンはガタガタと歯を鳴らしながら距離を取る。感覚的にオーラの不気味さに気がついているんだな。あまり、ゴンをここに長居させてはいけない……。
「君からは少し異質な感じがするねぇ……。ほんと、興味深いよ。……たけど、今君とやるのは惜しい。こことは別の場所でやろう」
「……そうか」
戦闘は取り敢えず回避か……?先送りにされた気分だけど、この危機的状況からは脱出出来るという訳だな。
「うんうん、みんな合格だね」
合格……?どういう意味だ?まさか、俺とゴンを品定めでもしてたのだろうか……。確かに、今戦うのは惜しいとまで言っていたくらいだから品定めだったんだな。
ピピピピピピッ
トランプ野郎の体から電子音が鳴って、通信機を手にとって何かを話すと倒れている男を見た。ゴンの仲間の男を担ぐと、俺達を再度見た。
既に禍々しいオーラは消えており、今の彼だけを見たら、ピエロのメイクをした唯の男のようだ。
蔵馬から実力あるものは実力を隠すのも上手いと聞いたから、この男が良い例なんだろう。
「君達だけで戻れるかい?」
「まぁ、大丈夫だと思う。この男はどうするんだ?」
俺はトランプ野郎に大丈夫だと返事した。が、ゴンの仲間を担いで何のつもりだ。
「あぁ、生き残ったみんなは合格だから次の会場まで連れて行くのさ」
トランプ野郎の目をじっくりと見ながら聞いたが嘘は言っていない。含みのある言い方でもなかったし今は信頼しても良いようだ。
トランプ野郎は走り出し、姿が見えなくなると背後から「ゴン!」と叫ぶ声が聞こえてきた。振り返ると、途中から近くまで見ていた金髪の人が駆けて来ていた。
「まさか、ゴンが助けにくるとはな。そちらの君も来てくれて助かった。礼を言う」
「いや、礼には及ばないよ。ゴンだけを行かせるのも心配だったからな」
謙虚に当たり前の事だと伝えたが、ゴンの視線は俺に向けておりキラキラした目で見ていた。
「でも、ロウが、ヒソカに蹴りを入れた時はビックリしたよ」
「まぁ……死ぬ程鍛えられたからかな。というか殺されるかもしれないレベルの修行だったし」
ホッとしたように笑うゴンはそう言うと金髪の人は不思議な顔で俺をマジマジと見る。
「私はクラピカと言う。君の名を聞いていいか?」
「俺はロウ。ゴンの仲間みたいだし、これから縁があったら宜しく」
普通に名を名乗ってはみたが気になることがある。クラピカって男だよな……?自信ないけど随分と中性的な人だ。
ひと段落ついたので、ヒソカと言うトランプ野郎が走って行った方を見る。血液の匂いがプンプン香ってくる。それも一人や二人の臭いだとは思えない。ここも十分に死体がたくさん転がってるけど。
「とりあえず二次試験会場に向かわないか。時間が迫ってる」
時計を見てクラピカは目的地に向かおうと言う。そういや、いつまでに着けば良いんだろうか?間に合えばいいな。
俺とゴンはレオリオと言う男のオーデコロンの匂いを頼りに二次試験会場に向かう。その道には先ほどの血の臭いの原因と思われるモノがたくさん転がっていた。きっと、この湿原の動物たちだ。恐らくヒソカを狙って返り討ちにあったんだろう。
ヒソカなりの道標何だろうけど、気味が悪いな。あんまり、死骸は見慣れてないから頭が痛くなりそうだ。戻る
ページ:
unleash the mind