駆け引き×暗闇×脱走大作戦
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姿を見られてしまったものの戦闘を避けることができて一先ずは安心だ。
とはいえ、奴はジェロニモの名を知っていた。あの名は、あの時を共にしていた者にしか知らない名である。
いや、旧アムリタ王国を知りカーラ王子の護衛を務めていた天狼の名を知る者ならば知っている名だろう。ただし、それでも俺とジェロニモを結び付ける情報はどこにもない。
相手の情報を読み取る能力……?それにしては制約が軽すぎる。彼がやったことと言えば、遠くから俺のことを尾行し続けたことくらい。
だが、彼は俺のことを"一目見に来た"と言っていた。それが自身の能力を発動するための条件の可能性は大いに考えられる。
また、DASの一員であると同時に俺の敵ではないと明言していた。俺の勘だが、あれは嘘をついている目ではなかった。
ましてや、調べ物をする際の注意点まで口にして敵に塩を送っているようなもんだ。本当に俺を敵だと思っているなら……。
そして、彼はこうも言っていた。
"君と戦うためにね"と。
あの時、奴は俺との戦闘を口にしていたのかと思ったが、奴が口にしていたあの言葉の今は……"俺との共闘"!!
ルタと名乗る男の詮索をしている間に、ゴン達がいるホテルに戻ってきた。
「あれ……いない?」
先ほどまでみんながいたところには誰も居なくなっていた。その瞬間、タイミングよく携帯から着信音が鳴った。クラピカからの連絡だ。
「はい、もしもし……ゴ、ゴンとキルアが捕まった!?生きてるのか!?……生きてるんだな!!」
殺されなかっただけでもマシだな。どうやって奪還するべきなのか。
「……ベーチタクルホテルのロビーにいるのか。暗闇に乗じてゴン達の奪還をするのか。7時ちょうどにホテルを停電させる……」
なるほど、ゴンとキルアには事前に目を瞑ってもらい、目を慣らしてもらうのか。
「顔を覚えられていないレオリオが旅団達の気を引き付けて、停電と同時にゴンとキルアは逃げてクラピカは団長を捕まえる……」
そんなに上手く行くだろうか?アクシデントが起こった瞬間に全滅の可能性すらある。
「俺は万が一旅団達との交戦になった時のために備える。獣ゆえに気配達には自信がある。……あぁ、これから向かう」
携帯を切ってベーチタクルホテルに向かう。あと7時まで10分……。両足の形状を天狼に戻して急がないとな。
ベーチタクルホテルの近くまで来た。ここからは気配を絶って接近する。
7時まで、あと……3分……。
確かに旅団の気配。ゴン達もいる。あとは時間を待つだけ……。そして耳を研ぎ澄ませろ……。
「パク、もう一度こいつら調べろ」
なに……?まずい、今のゴン達はクラピカが鎖の能力者であることを知っている。あの時は知らなかったから大丈夫だったが、今時点の記憶を読まれるわけにはいかない。
《「MOON CHILD」をお送りしました。さて、今週も残すところあと1分となってしまいましたね》
________あと1分!!
だが、顔を覚えられているだろう俺では時間が稼げない……いや、あえて旅団達の前に俺が出たら時間を稼ぐことは出来ないか?
記憶を読む能力を持つパクノダは、恐らく俺が天狼であることを過去に記憶を見て知っているはず。ならば、強大な力を持つ俺が現れて呑気に記憶を読む真似はしないだろう。
どのみち7時には逃げ出すんだ。ならば、今この時に記憶を読まれてしまうより、自分の存在を露わにして1分の時間を稼ぐことが最優先。
「てめぇら、俺の仲間に何しやがる!!」
旅団の方々はもちろん、ゴンとキルアも驚いている。俺の記憶を過去に探っているパクノダに関しては、記憶を読むことよりも天狼である俺への危険性を優先して俺を最大限に警戒した。
「その子は天狼よ……みんな警戒して」
「あぁ、俺もやられたぜ」
パクノダに続いてノブナガもみんなに注意するように言う。この2人の言葉に団長は興味深そうに俺を見つめた。
「天狼か……。最近、話題になっていたな。お前が最後の天狼……」
「団長、こいつは相当の手慣れだぜ」
ノブナガは既に抜刀の構えを取っている。俺が怪しい動きをしたら斬るということだろう。だが、それに関しては防げばいいが、ゴンとキルアの安全は保障されない。
だから、俺は1分という時間を稼ぐことだけを考えていればいい。
「ゴンとキルアを解放してくれたら、無闇な戦闘は回避したい」
「へっ、この状況でよく言えるな」
ノブナガが突っかかってくる。一度負かしているだけか、再戦を申し込みたいということなんだろう。
「この状況だから言うんだよ。確かに今のお前達の人数なら俺を仕留められるかもしれないが、お前達もただでは済まない」
「一理あるな」
と団長が俺とノブナガのやり取りに口を挟んだ。このままでは戦闘になるのが分かったからだろう。もちろん、この展開も読んでいた。
「だが、その提案を呑むには、お前達が本当に鎖野郎との繋がりがないかを確認する必要がある」
くっ……こいつ頭いいな。というか、本当は勘付いているんじゃないのか!?だが、遅い!!もう1分経過だ!!
俺はニヤリと口角を上げるとホテル内の電力が途絶えた。約束された停電だ。
ホテル内が暗闇に包まれると同時に俺は一瞬で天狼に形態を変化させた。その間にキルアは関節を外して女の拘束から抜ける。ゴンは目の前に立っていたパクノダの脇腹を後ろから蹴りつけた。
それに続いてキルアは拘束している女に蹴りを入れた。だが、ゴンだけは意地でも離すつもりがない。
また、クロロが鎖に囚われて拐われたことも確認した。不意の暗闇が団長の意識が鎖への反応を送らせてた上、直前まで警戒を俺に向けていた。避けられるわけがなかったのだ。
天狼へと姿を変えた俺はノブナガを薙ぎ払うように横嬲りで殴る。ギリギリのところでノブナガはガードするものの凝の状態の拳。ノブナガの身体は宙に浮き右方向へ5メートルほど吹き飛んだ。
そのタイミングで、ゴンを拘束している女に向かって後方からナイフが飛んできた。
それを難なく避けた女性が声をあげた。
「この子を殺されたくなければ、これ以上の抵抗をやめなぁ!」
俺が2人を助けに来た以上、その対象であるゴンを人質にするのは有効打だろう。むしろ、不利な状況になった以上、こうする他ないと言える。女はゴンの首を腕で締め付け「ぐぐっ」というゴンの呻き声を聞こえた。
「……降参する」
両手を上げて抵抗をやめた。そういうとノブナガが俺の背後から俺の腕を掴んで拘束した。
「へっ、助けに来た仲間を見殺しには出来ねーわな」
「……だって、本末転倒じゃん」
「ったく、あんなことしなくなって記憶を読ませれば解放してやったのによ。な!団長!……団長?」
その瞬間に雷が落ちてホテル内が照らされる。そして、全員が団長がいなくなったことに気付いた。
「シズク、こいつを頼む」
俺をシズクというメガネの女性に預けたノブナガは、先ほど飛んできたナイフを壁から抜いた。そのナイフに括り付けられていた紙を広げた。
「とりあえず、貴方達の記憶を読ませてもらうわ」
パクノダは改めてゴンとキルアに両腕を伸ばして記憶を読もうとした。だが、それは仲間の声で阻止された。
「待て!!」
ノブナガの声でパクノダは手を止める。
「パクノダ、オメーにだ」
広げた紙を受け取ったパクノダは、そこに書かれていたメッセージを読んでいた。
「3人の記憶……読めば殺す……」
とりあえず、俺たちの後ろにいるのがクラピカだってことはバレずに済みそうだな。だが、ここからどうやって抜け出すか……だ。
恐らく、クラピカは団長を人質に取って取引を申し出るはず。その時が来るまでは、大人しく流れに身を任せておくのがベストだろう。戻る
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