部活初参加


葉瀬中に進学した俺は進藤と共に囲碁部に入部した。院生だから、囲碁部の大会には出場できないけど、部内で打つことは出来るからだ。なにより、進藤の驚異的な伸び代を見ていたい。

囲碁部は俺と進藤の他に、部長の筒井先輩。そして部員ではないけど小6のときクラスメイトだった女子の藤崎も様子を見にきてるらしい。

実のところ囲碁部には今日初めて顔を出す。ドアの開く音に、筒井先輩と思われる人が俺に気付いたみたいだ。進藤から聞いた通り穏やかで優しそうな人だな。


「こんにちは、一年の龍神レオンです。」

軽い挨拶を済ませると、筒井先輩が俺の方に向かってきた。


「君が院生の子だね!進藤から聞いてるよ!僕は筒井公宏、これからよろしくね。」

筒井先輩は俺のことを進藤から事前に聞いていたのか勢いが凄かった。一応、俺が年下だから、そんな讃えられるような扱いされても困るんだがな…。

「あぁ、こちらこそよろしくお願いします。」

俺が囲碁部に入った理由は決して言えないな。割と身勝手な理由だかな。一応、教える立場としても立つつもりではいるけど。


「じゃあ、とりあえず打とうか筒井先輩。」
「え!いいの!」

俺は打たなかったら大会にも出られないし、なんで入部する意味がなくなるから打つのが当たり前だと思うけどね。でも、それだけ俺を尊敬するような扱いをされると入部動機が不純すぎて申し訳なくなる。



「やっぱり龍神くんは院生になってるくらいだからプロを目指してるんだよね?」

「ん?あぁ、そうだな。」

俺の碁笥の中から白石を取ればスッと碁盤に打った。それから俺は再び筒井先輩の質問に補足するように答えた。

「目標は今年のプロ試験だ。プロになったら今みたいに頻繁に顔出せなくなるから、今のうちに俺をコキ使ってもいいぞ?」

冗談混じりに言えば、今年プロになるという発言が余程、筒井先輩の心を刺激したのかキラキラした目で俺を見ていた。


「ってことは、龍神って院生の強い方なのかい?」
「まだ、院生になりたてで二組だけど、院生師範からは外来で試験受けても良い線行くって言われたから、それなりに強いぞ。」

まぁ、確実にプロになれる実力はないけど。恐らく、篠田先生のあの言い方だと一組上位には俺に匹敵する奴が居るって事だろう。


「プロ試験までには合格間違いなしまでにレベルアップを図るつもりだ。」
「なんだか僕達とはいる世界が違うよ。」

先輩にそう言われると何て返して良いのかがわからないな…。でも、俺は上を目指したい。そして強いやつと打つ!っていうのが目的だから。

「ありません…。やっぱり龍神くんは流石院生なだけあるね。」
「それでも、俺はもっと強くならないといけないから慢心はできない。」


そう、まだ藤原さん相手に置石を3子置いてるのに勝てる気がしない。慢心など出来るはずがないんだ。

俺は席から立つと体を伸ばす。授業で凝った体で碁を打てば体が痛くてかなわない。でも、まだ打ち足りないしな。


「よし、次は進藤な。」
「俺だって強くなったんだから見てろよ!」

そりゃ、前に俺が二つ折りの碁盤送りつけたせいで進藤は毎日、藤原さんの相手しなくちゃいけなくなったからな。あとは俺と藤原さんの対局も全て目にしてるわけだし。




お、ここを繋いだのは正解だな。うん、確かに強くなっている。稀にだけどドキリと思う手も打つようになってる。筒井先輩には、多分まだ勝てないと思うけど将来が楽しみだ。俺が囲碁部に入った一番の理由は進藤の成長を見たいがためだったりするからね。


「あぁー投了投了〜!」
「さすがは俺だろ?」

ヘラヘラ笑って見せれば、ムスッとした顔で睨まれる。でも、あんな可愛い寝顔見たら、この仏頂面も可愛くみえる。


「でも、お前も確実に強くなってる。悪手が目立つから俺にボロクソにされるが、同じくらい鋭い手も打つようになってるから自信持て。」
「…え?」

一応、褒めれば進藤がキョトンとした表情で俺を見つめていた。進藤のこの表情は初めて見た気がする。こんな、鳩が豆鉄砲を食らったような表情もするんだな。


「お、お前も褒める時あるんだ…。」
「進藤って可愛げないな。」

思わず進藤に可愛げがないと返したけど、むしろ逆だよなって内心思っていた。進藤が俺に言ったことは悪口にも近い意味だけど、そんな照れた顔で毒吐かれても、返って俺まで照れてしまう。
前は藤原さんが俺に取り憑けばいいと思ってたけど、今じゃ進藤に俺が取り憑きたかったとも思ってしまう。まぁ、俺じゃ役不足なのは百も承知なのは理解してるけど。


「藤崎も碁は打つのか?」
「え?私は見てるだけだから!」
「そ、そうか…?」

じゃあ、もっかい進藤と打つか。碁石を碁笥に戻すと再び対局を始める。まだまだ弱いけど、打つたび強くなるような気がして俺は楽しいからな。


「投了〜お前やっぱ強すぎ。」
「棋力をあげる近道は強い者と沢山打つこと。だから、そんなに気を悪くするな。」

遠回しに自分を強い者と称してみる。進藤はそれが気に入らないのか再びムスッとした表情になる。進藤の不機嫌な顔って、何だか愛くるしくて癖になりそうなんだよな。こんなこと口にしたら、二度と俺とは口聞いてくれなくなると思うけど。


それから検討を始めれば隣で筒井先輩もそれをジックリ聞いていた。途中、藤原さんの意見も聞こえて来て、それを補足して検討した。ところどころ囲碁部のレベルから飛躍し過ぎた内容を説明してたのは悪いと思ったけど。でも、それで首を傾げる進藤を見るのも何だか面白くて、つい難しい話をしてしまった。




囲碁部の帰りに進藤と一緒に歩いていた。気がつけば、最も仲の良い友達になっていた。小学の頃から俺や進藤を知る者は本当に意外そうな面を見せていた。

「進藤は俺が好きだから一緒にいてくれるのか?」
「す、好きって、もうちょっと違う言い方あるだろ。」

違う言い方あるだろうけど、わざと好きという言葉をチョイスしたからな。その言葉に進藤は照れた様子で俺をチラチラ見ていた。


「まぁ、お前は特別だからな。」
「と、特別?」

進藤のそこ言葉のチョイスも俺はどうかと思うんだぞ。まぁ、続きを聞いてみようかな。

「だって、お前は佐為の存在にだって気付いたし…。」
「なるほど。」

確かに、秘密を共有するといった意味では進藤にとって俺は特別な存在なのかもしれないな。俺以外の全ての人に藤原さんの存在は隠さなくてはいけない訳だし。


「照れながら言うから俺に惚れたのかと思ったよ。」
「お、お前なぁ…。」

笑いながら言えば、進藤は呆れたように俺を見て馬鹿じゃないのかと言うかのように呆れて物も言えない感じだった。ちょっとは期待してたんだけどな。



ポツ

地面にあたり弾けた音が耳に入った。雨か。予報では晴れだったんだがな。まぁ、先程から雲行きは怪しかったし雨が降ってもおかしくはないか。


「うわ、雨降ってきた。」

慌てる進藤を横目に俺は自分の鞄から折り畳み傘を取り出した。やはり、折り畳みは便利だな。風には弱いけど、やはり便利だ。チラッと進藤を見ると羨ましそうな目で俺を見ていた。

「進藤、お前も入れ。」
「やった!サンキュー龍神!」

そんな顔で見られたら入れない訳にはいかないしな。はじめから、そのつもりだったけど。


暫くすれば雨が本降りになって、折り畳み傘を持ってきてよかったと心から思った。

「進藤、お前の家まで送るよ。」
「お前って案外優しいところあるよな。」

「案外っていうのは余計だ。」
「ははっ、でも助かるぜ。龍神ありがとな。」

本当に純粋な奴だな。俺の不純な感情にも気付かないで…。俺のこの感情は進藤のためにも殺さないといけない。今、それがわかった。





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