院生試験
院生試験当日。保護者として母も同行してくれた。なぜか俺よりも母の方が張り切っているのは何故だろうか。
「失礼します。」
「どうぞ、そっちに座って。」
案内された部屋に一言かけて入れば、院生師範と思われる人に碁盤の前に座るように言われ、指示通りに座布団に正座した。
「院生師範の篠田です。それでは、これから院生試験を開始します。まず、最初に志願者と棋譜を見せてください。」
母親が封筒から出すと、それらを篠田先生に手渡す。棋譜3枚は、碁会所によく来るアマ有段者のもの二枚と、藤原さんと打ったものを三枚目にした。藤原さんとの対局は建前上はネット碁ということにしておいた。ネット碁ならプロも潜り込んでるから実力者と打っていても不自然ではないからな。
渡した棋譜に目を通す篠田先生は感心したように頷いたりしていた。棋譜は俺が絶好調のものをチョイスしたからな。
「この三枚目は…。」
「それはネット碁で打ったものです。負けてしまいましたが、私にとって良い碁が打てたと感じたので選びました。」
やっぱり篠田先生も藤原さんの棋譜に目がいくんだな。プロ高段者に匹敵する力を持ってるしな。タイトルだって取れるレベルだと思う。
「じゃ打とうか。」
篠田先生との対局は置石を3子置いて始まる。こういった場面での対局は緊張するが藤原さんほどの圧力は感じない。
「よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げて対局を始めた。俺の力が院生でどこまで通用するのか。プロを目指すと決めた日から俺は今までで最も碁に対して真面目に向き合ってきた。だからこそ、この試験には落ちるわけにはいかない。
しばらく打ち続けると、篠田先生はニッコリ笑って「ここまでにしましょう。」と言ってくれた。
「棋譜にも目を通したけど実力は申し分ない。君ほどの力があればプロ試験も外来で受けても良い線いくだろう。」
「ほ、本当ですか?」
ま、まさか俺の実力がそこまで付いていただなんて…。院生の一組上位と互角くらいを予想してたんだがな。やはり、藤原さんの教えが良かったからか。
「でも、絶対受かるとは言い切れないから、院生として対局してみるのは君にとって良い経験になるでしょう。」
「で、では…?」
答えはもうわかっているが恐る恐る合否を聞いてみる。
「合格ですよ。来週の手合いから参加しなさい。」
「あ、ありがとうございます!」
これで第1ステップは通過した。ちなみに第2ステップは院生一位になること。そして第3ステップはプロ試験合格。
院生試験は無事に合格に終わり、今日は早速帰ることにした。進藤と藤原さんにも報告したいしな。
「その様子だと合格したのか?」
「え?あぁ、したよ。」
棋院の出口に向かっていれば、院生と思われる子に声をかけられた。年齢は俺と同じか一つ上っていったところか?
「来週から来るからよろしくな。」
「あぁ、俺こそよろしくな。」
こいつとも早く打ちたいな。そんな欲求が強いのか目に見える人が全員強者に見えてくる。そして、その度にワクワクしてきた。碁に対して、こんな感情を再び抱くなんて夢にも思わなかったからな。
「へー合格できたんだ。」
『おめでとうございます!』
そのまま進藤の家に向かった俺は、彼の部屋で試験の結果を報告していた。進藤も藤原さんも院生というものが良く分かっておらずイマイチピンと来ていないみたいだけど。
「でさ、いま対局したくてウズウズしてるんだ。だから、藤原さん今日もお願いします。」
もはや藤原さんと打つのは日課になっている。ただ、来週からは中学もあるから今みたいに打てなくなる。前も思ったが、進藤って部活動どうするんだろう。囲碁部とかあれば入部するのかな。もし、そうなれば俺も入部しようかな。院生になったから大会には出られないけど対局相手にはなれるからね。なにより、進藤の成長をそばで見ていたい。
『…あなたと打っていると、時々あの者を思い出します。』
検討しようとすれば、懐かしむような声で不思議なことを言う藤原さん。それって平安か江戸の誰かのことか?まぁ、俺には関係のないことだ。俺は俺の碁を打つ。
『あ、検討始めましょう!』
なんだか今日の藤原さんは変な様子だったな。その後はいつも通りの藤原さんで特に変わった様子も見受けられなかった。
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