お泊まり1


小学生も卒業式を迎えて、ちょっと寂しいな、なんて俺には似つかない感情も少しは抱いてはいる。三月は去るというのを実感した。

院生試験については両親は「頑張ってね!」と笑顔で俺の背中を押してくれた。俺の両親も昔はプロを夢見てたから、その子供の俺がプロを目指すことは喜ばしいことだったのかもしれない。そんなことを進藤の部屋で二人に話していた。


「んで、その院生試験とか言うのがが不安だから今日は泊まらせてくれって?」
「あぁ!その通りだ!」

俺が大きく頷きながら言えば、進藤は大きく溜め息を吐いて「やだよ、めんどくさい。」とダルそうな顔で却下される。その隣で『良いじゃないですかヒカル!』という声も聞こえる。

「藤原さん、既に先手は打ってあるんだ。もう進藤の両親には事前に泊まると伝えておいたんだ。」
「…ちょっと自分勝手過ぎねーか お前!?」

やっぱり進藤でも怒るよな。でも、彼の扱いなら慣れてるから進藤の怒りを鎮める方法が一つだけあるのを知ってる。

「ふふん、タダとは言ってない。都合の合う日ならラーメン奢るからさ。」
「……ったく、今回だけだぞ。」

とても進藤本人には言えないけど、ラーメンで釣れるのも可愛いよな。

申し訳ないという自覚はあるが、これが藤原さんと沢山打てる最後の時だと思うから。今まで、藤原さんとは百局以上打ってる気がするから満足っちゃ満足だけど。そのおかげで、パソコンで棋譜の管理をするんだが、量が凄い事になってきたからな。


「はじめから変だなとは思ってたんだよなぁ。友達の家に遊びに来るわりには、お前の荷物がやけに多かったし。」
「あぁ、着替えと囲碁関連の本を少々。二人には今まで俺の我儘に付き合ってくれたから、進藤向けに本をチョイスしてきたんだ。」

鞄からチョイスした本を数冊取り出すと進藤に手渡した。初心者向けの本ではなく中級者向けの本だ。詰碁の本もあったりと、今の進藤に役立つものをチョイスしたのだ。

「これはプレゼント。こっちは本は藤原さん向けに用意した。」

俺の部屋も本だらけだから数冊くらいプレゼントしたところで問題ないからな。

『わ、私の分もあるのですね!』

むしろ、藤原さんに一番お世話になったからな。短い間だったけど俺の師匠として努めてくれたし。自分でも驚くくらいに棋力が上がったから、俺もまだまだ強くなれる事を知ることができた。


「全く、お前も世話好きだよな。俺に構わないで佐為だけ見てりゃよかったのに。」

「いや、進藤の才能あるからさ、どうしても気になるんだ。藤原さんもそう思うだろ?」
『えぇ、ヒカルの才能については私も驚いてますよ。でも、まだまだ弱っちいですけどね。』

藤原さんの余計な一言が進藤にカチンときたのか「龍神俺と打て!」と矛先が俺に向いて来た。そりゃ藤原さん相手じゃ歯が立たないからな。だからと言って、俺を相手にするのもどうかと思うが…。

「よし、受けて立つ!」



________案の定、俺の中押し勝ち。俺は藤原さんには遠く及ばないものの、地域レベルの大会なら優勝できる程の棋力はあるからな。というより数年前に出た大会じゃ優勝したんだけども。

「あーあ、俺ってば本当に強くなってんのかなぁ…?」
「そんな悲観するなよ。進藤は間違いなく強くなってる。ただ、相手が悪かったな。」

俺も余計な一言を付け足して言えはギロッと睨まれる。でも、進藤の顔って幼さがあるから怒っても可愛いんだよな。それが見たいがために俺は進藤をおちょくるのかもしれないけど。


「お前ってプロ目指すんだよな。」
「あぁ、俺の両親の夢だからな。プレッシャーのある場所で打ちたいとも考えてるし。あとは、タイトルにも興味あるからな。」

「なんだか実感湧かないなぁ。だって、まだ小学校卒業したばっかりなのにさ。」

まぁ、言われてみりゃそうだけど、囲碁のプロを目指すなら行動は早い方がいいからな。俺の計画じゃ今年にはプロになる予定だし。


「きっと塔矢アキラもそろそろプロ試験に現れる。」
「そういや塔矢もプロになるって言ってたな…。」

正直なところ、今のままじゃ塔矢には勝てない。プロ試験までの期間、いかに実力差を縮めれるか。それが、今年のプロ試験に受かるかの鍵となる。

「藤原さん、お願いします!」
『えぇ、本気で打ちますよ!』



午後7時くらいまで俺は藤原さんと打ち続けた。打っては検討し、また打っては検討。それを繰り返していた。結果3局打つことができた。流石に勝てはしないけど、藤原さんに俺の打った手を褒められると素直に嬉しい。



時間も時間で、検討が終わると同時に下の階から進藤の母から声がかかった。晩御飯が出来たとのこと。実は友達の家に泊まるのは今日が初めてだったから新鮮味があっていいものだ。

晩の食事は楽しく食べた。途中、進藤の母から「ヒカルに囲碁教えたのは龍神君なの?」とか聞かれて困ったな。渋々、「ルールだけ…」と答えてしまったが。俺も進藤も藤原さんを師にしてるんだけど、幽霊が師匠だなんて、とても言えないし。まぁ、俺の場合は両親も師匠みたいなもんだけど。



「さて、ヒカルも龍神君もお風呂入って来なさい。」

な、なに!?進藤と一緒に風呂!?いや、時間も時間だから我儘言えないけど、友達と同じ風呂に入るのは少し抵抗が…。


「ほら、龍神行こうぜ。」

俺の背中を進藤は押して誘導していく。
まぁ、修学旅行とかでも風呂はみんな一緒だったから今更ってのもあるよな。

一度、進藤の部屋に戻ると着替えを手にして脱衣所に向かった。そういや進藤が風呂入ってる時って藤原さんはどうしてるんだろう。姿が見えないから答えは見えないけども。


「わぁ、龍神って結構鍛えてる?」
「…え?」

思わず聞き返してしまった。俺の体をマジマジと見る進藤にドキッとしてしまった自分が少し怖い。

「いやさ、龍神の腹筋割れてるし。」
「鍛えてるってより無駄な脂肪が付かないから腹筋が出てるって感じだろう。」

痩せすぎってわけじゃないけど、平均と比べりゃ多少は痩せ型だと思うし。チラッと進藤を見れば典型的な子供体型だ。きっと、指摘したら怒鳴られるだろうな。それと、目のやり場に困る。


その後は何事もなく入浴を終えた。寝衣を着てドライヤーで髪を乾かした。進藤をチラッと見れば目があってしまう。何だろう今日の進藤は心臓に悪い。

「ん?どした?」
「い、いや、何でもないよ。」

なぜ俺を見つめる。俺が進藤に「どうした?」と尋ねたい。自分の心の中に良くないものが芽生えそうで最近の自分が怖いな。

「龍神ってさ、髪型変わるとイメージ全然ちがうなって。」

あぁ、俺じゃなくて俺の髪を見ていたのか。いや、どっちでも同じか…?

「イメージが変わるって?」
「うん、風呂上がりっていつもそうなの?」

そっか進藤は、いつもの髪型しか知らないもんな。いつも少し逆立ててるから、逆立ってないとイメージもそりゃ変わるか。


「そりゃセットするのも面倒だし。まぁ、ドライヤーで無理やり逆立ててもいいけど。」

サッと髪を乾かし終えると、ドライヤーを進藤に手渡した。俺的には進藤の髪の方が興味深いけどな。特徴的な前髪が特に。あの前髪はメッシュ入れてるのか?


にしても水で滴る進藤って案外色気あるよな。入浴中に、そう思ってしまったから、自分が恐ろしいと思ってるんだけど、やはり色気がある。あまり考えたくなかった…というより、この言葉を当てるのに抵抗が前々からあったが、進藤って可愛いよな。

可愛いだなんて仮にも同級生の男に抱く感情じゃない。それに、今まで女子でも男子でも自分好みに可愛いと思った奴なんて居なかったから動揺が激しいんだが…。

本人に「可愛いね」なんて言ったら十中八九ぶっとばされるだろうな。忘れよう今日のことは。


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