▽ エピローグ

――数日後

エンパス「……………。改めて見ると酷い有り様だ。ここにAASOを再建出来るのか…?」

激戦の跡地にエンパスが訪れていた

エンパス「いや、それよりも…奴はどこに消えた? あの日…晴れた後に奴の姿を見ていない。死んだのか、それとも…、…?」

辺りに濃い霧が立ち込めた

エンパス「…霧? ……っ!!」

城が崩れたときの瓦礫の上に、マルファスが横たわっていた
彼は堕天使の姿のままだった
翼はボロボロで傷も深く、固く目を閉じて動かないが、脈はまだあった

エンパス「…まだ生きてる。だがこの傷ではじきに…」

声「マルファスを知る者。何を目的として此処に来た?」
エンパス「誰だ。気配はする。姿を見せろ」

エンパスの前に女性が姿を現した

「私はフユイ。カラヴィヤスの管理者、ダハ区を守る者」

エンパス「カラヴィヤスの管理者、か…。各学校の校長は姿を持たない存在で、ノームのように依代を持って現世実体化をしていると聞く。私の知る限り、カラヴィヤスの校長は…」
フユイ「設立から長年、依代を持たなかった。そして今まで姿を見せなかった。でも彼と共に貴方のこと、そして世界のことを見ていたわ」
エンパス「共に…?」
フユイ「私はカラヴィヤスが占拠されてから、マルファスに憑依させられていた。精霊としての力を極端に弱められ、全ての自由を奪われていた。人間たちは勿論、他の精霊たちやアマネセル様でさえ、私の存在を認知出来ないほどに」
エンパス「それで、倒されたからその支配から解放されたということか。…こやつと共にあるのは苦痛だったか?」
フユイ「いいえ。私には彼の痛みも、背負ってきた責苦も、使命感の強さもわかる。それは長い時を共に過ごしたから。孤独と戦い、己だけを信じて驀進した彼を私は……完全に悪だとは思えなかった。この依代は、彼を模倣したもの。私の意思で彼を依代とすると決めた。彼の存在は私を、カラヴィヤスを大きく変えた」
エンパス「それが良い意味かどうかは、世間の見方次第だな。それで、どうなっている」
フユイ「彼は今、中の時間を止めていることで生きている状態。このままでは死ぬことはないけど、目を覚ますこともない。貴方が彼に何かを伝えたいのなら時間を動かしてもいい」
エンパス「! 話せるのか!」
フユイ「だけど、どう足掻いても彼は助からない。時間が動き出すと30分…いえ、15分ももたないわ」
エンパス「……それでいい。話がしたい。私はそのために此処に来た」
フユイ「……わかった。手短に、的確に伝えて」

霧が散っていく
マルファスはゆっくりと目を覚ました

エンパス「…! 私がわかるか」
マルファス「……嘲笑いに来たのか。敗北した私を」
エンパス「違う。最期にお前と話をしにきた。その傷ではじきに死ぬ。私はお前を治す術を持っていない」
マルファス「痛みなど、とうに朽ちている。誰が手を施そうが無駄だ。……話とは何だ」
エンパス「積もる話もないが……お前は望みを果たせなかったな。どうだ、あれほど憎んだ世界が勝った。何か思うことはあるか」
マルファス「何もない。私は己の正義を貫いたまでだ。私が敗北したのなら世界は生きる。未練も無い
……強いて言うならば…
あのとき、聞こえなかったあの名を、今なら受け入れられるやもしれん。私には記憶がない。私自身が認知しない私が、そこにいるのだろう」
エンパス「………」
マルファス「教えてくれ。我が真名を。母から授かったこの名を。私の…証を」

エンパス「………ルシアノ。
それがお前の名だ。お前の、確固たる証だ」
マルファス「…………、
……ああ……それが…私の……懐かしい響きだ。…巡る…過る…」

足音が聞こえてきた

アマネセル「……いたのですね。随分と探しましたよ。それに貴方は……フユイ・ダハ」
フユイ「…ご無沙汰しております」
マルファス「アマネセル…。
お前のことは愛していたよ。この世の誰よりもだ。お前からの愛を忘れていた」
アマネセル「え………」
マルファス「その顔を…もっと近くで見せてくれ」

アマネセルはマルファスの前に跪き、手を優しく握った

アマネセル「名を思い出したのですか…? 私のことが分かりますか…? ルシアノ、貴方は…」
マルファス「………、…愛しい人、よ……」

マルファスは満足げに、静かに目を閉じた
冷たい風が吹き抜けた

アマネセル「…」
エンパス「…ルシアノ……。お前を失うことがこんなにも虚無だとは、私は思わなかったぞ。何故逝く者が満たされて、残される者は失わなければならない。どうしてお前はそんなに、満たされて死ねるんだ…!」

アマネセル「……誰にも理解されず、苦しいときを生きましたね。だからせめて、静かな場所でおやすみ…。
………私の思いは、貴方には伝えられないのですね……私も、貴方のことを愛していましたよ……ルシアノ…………」

フユイ「………眠りにつく彼のところに、争いも、災害も、疫病も来させない。ただ静かに、安らかに眠るため…。それが……彼岸の守り神の役目」





陽の恵みを受け、人は世界を歩む
私のいない世界はさぞ美しいのだろう

見てみたかった、な……―――









prev / next

[back] [top]