「導師イオンが何故ここに・・・・・・。」

 ローズの家を出てすぐ、ティアはぽつりと呟いた。

「導師イオン?」

『ローレライ教団の最高指導者ですよ。』

「ん、ちょっと待てよ。イオンって奴は行方不明だって聞いてるぞ。あいつを捜すからって、ヴァン師匠帰国しちまうって・・・・・・!」

『そうなんですか?』

「初耳だわ。どういう事なのかしら・・・・・・。誘拐されている風でもないし。」

「俺、あいつに聞いて来る。」

そう言うや否や、ルークは再びローズの家を訪ねようとするが、ティアに咎められる。

「やめなさい。大切なお話をしているみたいだから、明日以降にしましょう。」

「ちぇっ。なんかむかつくぞ・・・・・・。」

ルークが納得出来ないまま、三人は宿探しを再開した。

程なくして、 不意にセリーヌが立ち止まって呼び止めた。

『ルーク様、ティアさん、お二人共先に宿を見つけていて下さいませんか?』

「ん? 何でだよ?」

『この格好では、戦闘に不向きですから・・・・・・。武具や防具の調達に時間が掛かりそうですので、お願い出来ませんか?』

言われてみれば、屋敷からそのままの格好で飛ばされてしまった為、彼女の服はあまりにも動きづらそうな格好だった。

「そう言う事なら、しゃーねーか。」

ルークも、それならと納得するしかなかった。

「じゃあ、また後で落ち合いましょう。」

『はい。』



『さて、どうしましょうか。予算内に収まれば良いんですが・・・・・・。』

武器や防具まで、豊富な品揃えの雑貨屋に着いたセリーヌは、少ない所持金片手に悩んでいた。

「あ、アンタ、さっきの坊主の連れじゃないか?」

そこに、雑貨屋の店主が話し掛けてきた。

『あ、先程はどうもご迷惑をお掛けしました。』

「いや、こっちこそ悪かったな。お詫びに今回は安くしとくよ。」

『本当ですか?ありがとうございます!』



『お優しい店主さんで、良かったです。お陰で良い物を買うことが出来ましたし、早く宿に向かいましょうか。あ・・・・・・・。』

 少し足早に宿へと向かっていると、思いがけない人物に遭遇した。

こちらの視線に気付いたのか、その人がこちらに向かってくる。

セリーヌの心臓は、うるさい程に鼓動していた

「こんにちは。お買い物ですか?」

その人の第一声は、他愛のない挨拶だった

それでも緊張感は治まらなかったが、冷静を装い返事を返した。

『はい、早く帰らなければいけないので、装備を整えていたのです。』

「そうでしたか。」

どこに、とは言わなかった。
とにかく早くこの人から離れなければ。それしか考えられなかった。

『それでは、失礼します。』

軽くお辞儀をして踵を返し、去ろうとした間際、その人に呼び止められた。

「最後に一つだけ聞いても良いですか?」

『・・・・・・何でしょう。』

「僕達、一度お会いした事はありませんか?」

『・・・・・・!!』

セリーヌは目を見開き、動揺していた。
幸いな事に、その顔を見られる事はなかったが、聡明な彼には、恐らく悟られただろう。

『・・・・・・いいえ。私は見ての通り屋敷に仕える侍女ですから。お会いした事は、ありません。』

「・・・・・・そう、ですか。」

それでも、肯定する訳にいかず、彼の言葉を否定した。

彼は勘づいている様子だったが、何も聞いては来なかった。

再びお辞儀をして別れると、最初こそゆっくりと宿へと向かっていたが、いつの間にか足早になり、宿が見えた頃には全力で走っていた。



 もう少しで宿屋の扉へと手が届きそうになった時、その中から急に、少女が飛び出してきた。

慌てて止まろうとするも、勢いを殺す事が出来ないまま、お互い派手にぶつかってしまった。

その反動で、手に持っていた荷物が辺りに散らばった。

『ご、ごめんなさい!慌ててたものですから・・・・・・!』

「ううん、こっちこそごめんね。・・・・・・これで全部?」

少女は拾うのを手伝ってくれたらしく、拾った物を渡してくれた。

『ありがとうございます!・・・・・・あなたも急いでいたのですか?』

「うん、人を探してるんだけど・・・・・・。イオン様ったらどこ行っちゃったのかな〜?」

『導師様ですか?導師様なら、先程雑貨屋の辺りで会いましたよ。』

「マジですか!?早く合流しないと!」

『お会い出来ると良いですね。』

「うん! 教えてくれてありがとう!」

『こちらこそ、ありがとうございました。気を付けて下さいね。』

ツインテールを揺らしながら、再び元気に走り出す少女の背中を見送ると、無意識に安堵の溜め息が出た。

正直、あの少女のお陰で、先程の緊張はいくらか治まっていた。

もし息が上がったまま、宿屋に駆け込んでいたら、ルーク達に怪しまれていただろう。

それほどまでに、先程会った彼───
導師イオンは緊張する相手だった。

 息が整った所で、ゆっくりと宿屋の扉を開けた。

『すみません、先に二人来てると思うのですが・・・・・・。』

「ああ、さっきの兄ちゃん達の連れか?兄ちゃん達なら中に居るぜ。兄ちゃんにも伝えたんだが、今日の所はお詫びって事で宿代は無しにしておくよ。」

『すみません、ありがとうございます。』

「こちらこそ悪かったな。今日一日、ゆっくりしてってくれ。」







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