じゅわっ、と熱された油のはぜる音。
炊飯器は蒸気を噴いてまもなく炊き上がるところ。
お味噌汁は味噌を溶けば完成で、ブロッコリーは硬めに茹でてドレッシング待ち。
切れ目を入れたウインナーがフライパンの中で徐々にカニの形を成していくのを見届けつつ、オレンジを剥く。
ピーっと炊飯器が合図をすると同時にリビングに姿を現したのはまだ寝ぼけ眼の悟空と、きちんと身なりの整った三蔵。


「おはよー光織」
「あ、おはようございます」
「コーヒー」
「はいただいま」


俯きがちにぱたぱたと動き回る姿は不審だろう。三蔵の視線が痛い、とても痛い。
昨日の悟浄の言葉が頭の中でリフレインする。
八戒の計らいであのまま二人のお部屋に泊めていただいたから、あれ以来顔を合わせるのは初めてだ。


『いいか?三蔵になんか言われたら……』


「おい、なにうろちょろしてやがる」
「え?、あー、その」


『若干下から見上げつつ、目ぇ見てにっこり微笑んでみ』


眉下で切り揃えられた前髪も、広がった視界もまだ落ち着かない。
八戒も悟浄もかわいいとか似合っているとか慰めてはくれるけれど、まだ他の人を直視できる自信はない。
家事もまだまだ段取りも手際も悪い。
点数なんてないんだと言ってくれたし、まだまだこれからだとも思うけれど、やっぱり満点が欲しい。
この目でも嫌われない為の付加要素が欲しい。
でも少しだけ今の自分に自信が持てたかもしれない。


「残さず食べてくださいね?三蔵」


向かい合ったこの―――珍しく、僅かに驚いたような―――美しい紫の瞳と、同じだと思えば。



end.


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