李厘は学園内でも相当顔が広く、彼女といるだけで相当の人数と光織は知り合うことになる。
「はい、これあたしのID」
「ありがとう、じゃ、今登録するね」
買ってもらったばかりの不慣れな携帯を片手にそんなやりとりで昼休みは殆んど潰れ、五限目が終わる直前に、マナーモードの携帯が受信を知らせて振動した。
(?、誰だろう)
直ぐにチェックすると、それは今朝校門で別れて以来会っていない、悟空からのもの。
部活のミーティングに顔だけ出すから帰りが少し遅れる、という内容と共に添えられた謝罪の言葉に、こっちが申し訳無くなり、光織はそっと画面越しに両手を合わせた。
放課後―――
もっと話がしたかったのだが、李厘は『家の人』が迎えに来て帰ってしまった。
窓から見える校門に黒い高級車が横付けにされ、帰宅する生徒の視線を一身に浴びながら、黄金色の髪が乗り込むのを見届けると、クラスの何人かの女子が
『李厘ちゃんのお兄さんは有名な会社の偉い人』
なのだと教えてくれた。
序でに、とてもかっこよくて、そして李厘とは『ハラチガイ』であることも。
なんとなく教室に残りづらくて、光織はお喋りに花を咲かせるクラスメイト達に挨拶をして、教室を出た。
悟空との待ち合わせ時間にはまだ一時間以上あったし、特に行く当てはなかったのだが、早く校舎に慣れなければという最もらしい理由をつけて階段を上る。
屋上で時間を潰そうか、と考えながら。
前の学校には屋上がなかった。
『でも、お兄さんと李厘ちゃんは血が繋がってないんだって。ハラチガイ、ってやつ。この話、李厘ちゃんにはあたしが言ったって言わないでね―――……』
一方的なシンパシー、とでもいうのか。
初めて目があった瞬間に、どこか李厘と自分とは似たところがあるように感じていた。
それは外見の話ではなく、声の高さだとか美的感覚だとか、そんなものでもなく。
李厘も心の奥底で気付いていたのかもしれない。
自分と彼女の共通点に。
物思いに耽りながら階段をひたすらに上っていた光織は、いきなりがつん、という衝撃を前頭部に受け、その場に尻餅をついた。
「いった……!」
「ん?あぁ、ぶつかったのかな」
鉄製の扉の隙間から、光の粒子が金色に踊っていた。
何時の間に屋上の踊り場まで来ていたのだろう。
加減なく打ち付けた額を押さえながら呻くと、扉を開けた張本人が光織の脇に手を差し込んで、半ば無理矢理立たせる。
と思ったら、そのまま軽々と光織を持ち上げて近くの壁へ押し付けた。
「ああ、君が」
「なっ……ん、ですか……?」
軽い脳震盪状態で揺れる頭を叱咤しながらも、目の前の人物を睨みつける。
同時に生徒ではないことを知った。
奇妙に明滅する視界の中で、
黒い髪に眼鏡の奥の細い目、持ち上がった口角。白衣。
差し詰め理科教師か保健医―――いや、保健医はないな、と、光織は内心頭を振った。
「大丈夫かな?うさぎちゃん」
「(うさぎ……?) 大丈夫です、から、離して……下さい」
「お姫様のお望みのままに」
「どう、も」
おどけた、しかしどこか様になっている仕草で光織に一礼すると、彼は白衣の裾を翻して去っていった。
「………?」
何だったんだ今の。
何か大切なことを考えていたのに、すっかり頭から抜け落ちてしまった。
「……っあ!悟空と待ち合わせ……!!」
「転校初日はどうでした?」
悟空と落ち合い、校門から少し離れたところに止まっていた八戒の車に乗り込むと同時に、運転手にそう訊かれた。
「大丈夫だったか?なんか変なヤツとかに目ぇつけられなかったか?」
「えー……と…」
屋上のマッドサイエンティスト風な男のことは、別に言うほどのことでもないだろう。
そう思い、光織はふるふると首を振った。
「楽しかったです。友達も出来たし」
「そうですか」
バックミラー越しに、八戒の優しい笑顔と目があって。
「明日からが楽しみですね」
「、はい」
本当に、そうだと思った。
end.
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