「貴様……妹をどこへやった」


何の話ですか。






  Nice to meet you.






私は今、とても綺麗な赤髪のお兄さんに詰め寄られています。

肌の色が黒めで、長くてさらさらの赤い髪と切れ長の赤い目の、大変麗しいお兄様なのですが。
どうして私は胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられているんでしょう?




―――数時間前。


「やったぁ!お昼だぁ!」


いつもの如く四時限終了の合図と共に跳ね起きた李厘に苦笑して、いつもの如く何人かのクラスメイトと共に昼食を食べて。

いつもの如く午後の授業も爆睡中の李厘の隣で睡魔と戦いつつもノートをとり、いつもの如く放課後の掃除前にトイレに行って、帰ってきたら李厘の姿がなかった。


(―――あれ?)


勿論不意に何処かへ行くこともあるだろうが、何時もならば李厘は机を教室の前方へと押し出すクラスメイトに散々揺すられないと絶対に起きないのに。


(どこ、行ったんだろ)


その後、李厘は掃除中も姿を見せることがなく、放課後になり光織が帰る支度をしていた、その時であった。
バンっ、と、凄まじい勢いで教室のドアが開けられたのは。
室内に残っていた大半の生徒が一斉に静まり返る。

扉を開けた人物は黒いスーツを身に纏った、三蔵や八戒達と同じくらいの年齢に思われる痩身の男性で。
驚いている生徒を一度見回すと、迷うことなく光織の方に近付いてきた。


―――ガタン!!


椅子に座っていた状態から胸ぐらを掴まれて無理矢理立たされ、ついでに背後の掃除用具が入ったロッカーに半ば叩き付けるように押し付けられ、


「貴様……妹をどこへやった」


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「っあ、の、待って、意味が分からないですけど…!」
「惚けるな。このまま首の骨を折られたいのか」
「ちょ、っ……!」


ギッ、と手に力が込められて、息が詰まる。
一体何だというのだ。

遠巻きに見つめるクラスメイトの心配そうな騒めきと視線。

妹。妹を知らないかって、そんなの知るわけがない。
―――あれ、でも待って、なんとなくこの面影……
どこかで。

思わず苦しさも忘れて目を見開くと、更に強く押し付けられた。
足が床に届いていない。


「……かっ……は!」
「早く言え」
「……だ、から……誰の…こ、と……?」
「まだ白を切るか。まぁいい。―――来い!」


とても、軽い動作で。
まるで人形をそうするように易々と。

投げられた。


さぞかし驚いたのであろうクラスメイトの悲鳴が上がって、
一気に視界が暗転した。









「紅孩児様、今度からは女の子を投げるなんてやめてくださいね」
「そうだぞ紅。頭打って死んじまったらどうする」
「…………すまん」


どこか、遠いところから響くように人の話し声が聞こえてくる。
目を閉じていても、教室と空気が違うのを感じる。
やわらかな布の匂い。


「幸い、怪我は大したものではありませんでしたが……」
「目が、醒めねぇな」
「…………………すまん」


4人―――いや、3人か。


「大体コイツが桃源郷の人間だからって疑うのは偏見ってモンだろ」
「いや、しかし」
「とにかく、こちらのお嬢様がお目覚めになられたらきちんとご自宅まで送って差し上げないと」
「……あぁ……」


私、起きてます。と言おうとしたが、身体全体が石のように重く、指一本動かせないほど怠かった。


(……なんか……最近こんなのばっかり……)



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