三蔵は行き詰まっていた。
今までにも二度ほどあった、海外の企業との貿易上のトラブルなのだが、なかなか解決策が見い出せずにかれこれ3時間も物思いに耽っていた。
ふと、デスク上の携帯に目が行く。
電話帳に一番最近登録された番号を呼び出し、通話をタップするのを一瞬躊躇った。
光織に電話をしてどうにかなるわけではない。
解決策を提示してくれるわけでもないし、そもそも仕事の話は彼女にしたことはない。
時間の無駄、とも言えるのに。
何故だか無性に、光織の声が聞きたかった。
「ここ……です。」
光織と縮小版三蔵は、三蔵と悟空と光織の住む部屋の前へ来ていた。
「サンキュ。面識無いとか言って、部屋まで知ってるなんてな」
「えぇ、まぁ」
密かに光織は溜め息をつく。
恐らくこの少年が三蔵の親戚だというのは真実なのだろうけれど(見た感じ)、自称家出中の少年を三蔵の許可もなく勝手に連れてきてよかったのだろうか。
恐らく良くはない。
しかし、目の前でインターフォンを押し続けている少年のパーカーはぐっしょりと雨で濡れていて、あのまま捨て置くわけにはいかなかったのだ。
(……よし、言い訳はできた)
「あれ?まだ仕事か」
怒られたらそう言おうと決意し、光織はバッグからキーを取り出す。
「ちょっと退いてください」
「何、って、な……!」
光織がキーを持っていることに驚いたのか、縮小版三蔵はとっさに、という感じに言葉を発していた。
「お前の部屋の鍵じゃ開かねーぞ」
「……」
何処まで変なヤツだと思われているのだろう、と、軽く落ち込みながら差し込んだキーはカチャリと音を立てていとも簡単に回り、ドアノブを捻ればドアが開いた。
「え……」
「私の名前は海瀬光織。ここに住んでいる一人です」
「居候!?」
「というかなんというか」
部屋に入った瞬間から質問攻めにしてくる少年を風呂場に直行させ、代えの服にとりあえず悟空のジャージを着せて温かい飲み物を飲ませ、その間に事のあらましを説明して今に至る。
「よくあのカタブツが許したな」
「私は感謝してます。そういえば……お名前は?」
「俺?俺は―――」
ふと、少年が言葉を切る。
指差した方を見やると、ソファーの上に投げ出された光織の携帯が微かな音と主に振動していた。
「電話?」
ぱくりとカバーを開くと、そこには『三蔵』の文字。
慌てて画面に指を這わせる。
「もちっ、もしもし!」
『噛んだな』
クックッと、喉の奥で笑う声がして。
「えっあっ、ど、どうかしましたか?」
『いや―――もしかしたら今夜は帰れんかもしれん』
少年は、嬉しそうに話をする光織を眺めていた。
正座して、電話の向こうの相手に見えるわけでもないのに絶え間なくリアクションをとっている。
『悟空は?』
「あ、今日は用事があって帰らないそうです」
『―――そうか。一人で平気か?』
ひとり。その単語に縮小版三蔵の存在を思い出し、彼を見た。
「?なに」
「あ、あのですね!今、親戚という方がいらっしゃってて」
『親戚?―――お前のか』
「もしかして三蔵?」
「えぇと、あの……代わりますね」
『おい、光織?』
「代わらなくていいよ、三蔵帰ってこないんだろ?」
「らしいですが、一応言っておいた方が……」
『おい、どうした!』
電話から聞こえる声が厳しくなる。
光織は困り果てて少年に電話を渡した。
「めんどくせ……もしもし?三蔵?俺だけど……あぁ、そう……家出てきたから、今晩泊めてもらうけど。……しょうがねぇだろ。は?……やだね、帰りたくない」
案の定、三蔵の猛反対を食らっているらしい少年の眉間には皺が寄り、ますます三蔵を彷彿とさせる。
顔立ちから雰囲気からちょっとした癖まで、この小さな三蔵はオリジナルに似すぎていた。
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