薄暗い部屋、李厘はベッドの中、布団を頭から被って、ただ目を開けていた。
暗い考えばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡っている。

起きたくない。気持ちが悪い。怖い。怖い。怖い。
逆光の中、光を跳ね返すあの眼鏡のフレームがフラッシュバックして、思わず強く頭を抱える。
あのにやにやとした絡みつくような薄ら笑いが、追ってくる。

この間の【検査】は辛かった。二日経ってもまだ身体と心が不自由だ。
まるで風邪を引いたように熱が出て、体が痛い。

ずっと、こうしていたい。
でも、一人は怖い。


「お兄ちゃん……光織……」


ふと呟いた、瞬間


「なんだ」
「お邪魔します、李厘」


ぱちん、と部屋の照明が一斉についた。
天蓋の内側が薄ぼんやりとした灯りに満たされる。

枕を抱き、羽毛布団のなかで丸くなっていた李厘は慌てて身を起こした。
ずきりと、頭が痛むのも構わずに。


「具合いは……どう?」


天蓋から薄く降り注ぐ、刺繍の入ったカーテンのせいではっきりとは見えない。
それでもそこにいる、大好きな兄と親友の気を感じとれた。


「……光織っ!!」
「わ、っと」


高そうなベッドから脱兎のごとく飛び出して、一目散に飛び付いてきた李厘を抱き留める。
その際に衝撃でややよろけたのは、そっと紅孩児が背中に回してくれた手で抑えることができた。


「ど、どうしたの李厘……」


問掛けるも返事はなく。


「……寝てる?」


まさかこれほど早く。

悟空顔負けの早業に、光織が唖然として呟くと、紅孩児は妹の顔を覗きながらふと口にした。


「暫く寝ていなかったようだからな……お前が来て安心できたか」
「え、もしかして……李厘はずっとひとりでここに?」
「どうだかな。俺は会社に行き通し、独角児と八百鼡も似たようなもので……」
「……ご両親、は」


その問いに、紅孩児は答えなかった。
少しだけ苦い表情で李厘を掬い上げ、ベッドに運ぶ。


(――――あれ?)



その表情に、何か引っ掛かるものを感じた。



「紅孩児さん」
「何だ?」
「あ、の―――」

「紅孩児様、海瀬様、お茶の支度が―――あら?」


ノックと共に突然扉を開けた八百鼡は、妙な所で言葉を区切った。

ほの暗い密室。男女。そこはかとなく流れる、“親密”な雰囲気。


「お邪魔…でした…?」


八百鼡としては悪気もなく、そうとしか見えなかっただけのことなのだが、それでもそう勘違いされた一人は冷静に、一人は激しく否定して。


「な、八百鼡!何を寝惚けたことを!」
「誤解です、八百鼡さん。あと、できれば“海瀬様”はやめてほしいのですが……」
「あら?そうですか?では光織さん、と?」
「私は八百鼡さん、と呼ばせていただいてますが」
「ええ、さ、こちらへどうぞ」


うまく流して八百鼡の誘導で部屋を出ようとする光織の背後で、紅孩児は誰にも見咎められぬように息をつく。

光織が相手だとどうにも調子が出ない。

“あの”四人がそれと同じ経験をし、尚且つ現在もそれによって苦しんでいる事など知りもせずに、ただただ紅孩児は肩を落とすのだった。


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