もしかしたら神様というのは本当に存在するのかもしれない。
私が知らないだけで、いつも私を見ているのかもしれない。
遥か高くから私を見下ろして、そして私が泣いて狼狽するのを見て、こう思うのだろう。

まだ足りないよ。お前にはもっと罰が必要だからね―――と。


そうでなければこんなこと、
起こるわけがない。






    Cry.





中々来ないエレベーターに焦れた光織は、向きを変えて階段へと走った。

紺色の靴下が大理石で滑ったが、幸い足音は消してくれる。
あの部屋は何階だったのだろうか。長い階段をいくつも駆け降り、無駄に広いエントランスを突っ切る。

回転扉を押し退けて雨が降る外へ飛び出すと 、大きな何かにぶつかった。


「いって……!」


べしゃ、と濡れた路面に倒れるような音と、男性の声。
一瞬躊躇ったが、結局光織は立ち止まることは愚か、振り返ることもせずに走り去った。









「―――それじゃ、折角ですし光織さんも一緒に何処かご飯でも食べに行きますか」
「やった!俺焼き肉!」


三蔵・悟空の住居のワンフロア下の部屋で、悟空が機嫌よく叫んだ。


「あれ?そういえば悟浄は?」
「ああ、いま煙草を買いに行ったみたいですよ」
「へー。車で?」
「健康の為に歩かせました」

「悟空、あいつを起こしてこい」


それまで会話に参加もせず、どこか遠くを見ながら煙草をふかしていた三蔵の言葉に、八戒が眉を寄せる。


「光織さん、まだ目が覚めませんか」
「いや―――俺が部屋に行った途端に寝たらしい」
「余程恐かったんでしょうねぇ、三蔵が」
「え!何何!?三蔵あの子に何したんだ!?」
「それがですね……」


眉間の皺を徐々に深まらせていく三蔵を尻目に、八戒は昼間の出来事を悟空に話す。
なんだかんだと言い合いの末に、でもとだってを繰り返す少女にしびれを切らした三蔵が不意に立ち上がり、そして思い切り振りかぶった一連の流れを。


「マジで!?三蔵のハリセン喰らって気絶したの!?」
「情け容赦ない叩きっぷりでしたからね。初対面のお嬢さん相手に」
「お前らいい加減に―――」


ピンポーン、と間延びしたインターフォンが室内に鳴り響く。


「あ、悟浄帰ってきたみたいですよ」
「ちょーうける!悟浄にも教えてやろっと」


ばたばたと悟空が八戒の後を追いかけていった、その数秒後。
ぎゃはははは、と盛大に悟空の笑い声が聞こえた。


「何悟浄そのカッコ!」
「うるっせぇ猿!だいたい何でてめぇがウチにいんだよ!!」
「まぁまぁ悟浄、風邪ひきますからお風呂入っちゃってください。部屋を汚さない様に」
「へいへい」


がちゃりと廊下からリビングに通じる扉が開いて。
現れたのは、頭から泥水に汚れた悟浄だった。


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