「河童の川流れとは聞くが……まさか水路でも流れるとはな」
「うるせぇよ」
シャワーを浴びて、少し落ち着いたのか缶ビール片手に悟浄が毒づく。
「外、雨降ってるんですね」
「車に水でも飛ばされたわけ?」
「どうせ転んだんだろ」
ふん、と三蔵に鼻で笑われ、悟浄はこめかみを引きつらせたが反論はない。
無言即ち肯定である。
「転んだ!?だっせー!!」
目尻に涙を滲ませてソファーの上で笑いこける悟空に、早くも空になった缶を投げつけると、悟浄は気まずそうにリビングの椅子に座りなおす。
「マンション入る寸前でガキに突き飛ばされたんだよ」
「ガキ?」
「猿より小せぇオンナノコ。」
ぴくり、と三蔵が反応した。
「なんだか知らねーけどよ、すげぇ勢いで飛び出してったぜ?この雨の中靴も履かねぇで。猿のダチか?」
「誰だよそれ。んな奴知らねーもん」
「……悟浄、どんな子でしたか?」
八戒もまさか、と手を止めて悟浄を見る。
三蔵が深く紫煙を吐き出した。
「あぁ?どんなったって……黒いこんくらいの髪で、顔はよく見てねぇけど」
“制服着てたな”
がたん、と音を立てて八戒と三蔵が同時に立ち上がる。
「悟浄!その子は何処へ?」
「はぁ?何だよ急に!」
「逃げやがったな」
「あっ、おい!三蔵!」
悟空の声も聞かずに三蔵は部屋を飛び出した。
あの馬鹿娘が、と苛立ちも顕わに駐車場への通路を駆け下りる。
光織が出て行った。
この雨の中、傘もささずに、靴も履かずに。
そうまでして彼女の行きたい場所など今はひとつしか思い浮かばない。
観世音菩薩に渡された書類に記された住所を頭の中で思い返しながら、三蔵は愛車のドアに手をかけた。
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