あの花はどこに咲いていたっけ
アロエ(下)
杏寿郎が任務で数日町を離れることを耳にした。今のうちに杏寿郎を充電しておこうと二人きりのお出かけに誘う。デートというやつだ。任務の前日なら空いているということで約束を取り付けた。
「待たせたな!」
「全然待ってない!隊服じゃない杏寿郎も素敵」
「名前もその鮮やかな紅い着物綺麗じゃないか」
「杏寿郎の色にしたの」
杏寿郎にぴったりくっつき町を歩く。散歩してご飯してお話しすることがこんなに幸せなのはきっと杏寿郎だから。でも楽しい時間が経つのは早い、あっと夕間に夕方になってしまった。
「もうそろそろ夜になる、夜は危険だから送ろう」
「やだ!杏寿郎と一緒にまだいたい!今日こそは杏寿郎に床入りする!」
「馬鹿を言うな!」
「意地悪…」
任務だから仕方ないのはわかっているが会えない日が続くと思うと気持ちが落ち込んでいつものようにうまく返せない。俯いていると杏寿郎がいきなり肩を掴んだ。
「そういえば名前に土産があったんだ!」
「え、え、何それ!?!?」
その一言で一気に気分が上がる。自分でも単純なやつだとはわかっているが慕っている人からの貰い物なら何だって嬉しいはず。
「今日は屋敷に置いてきてしまったから任務が終わったら渡す」
「やったー!じゃあ千寿郎くんと屋敷で待ってる!」
「うむ!そうしてくれ!」
「じゃあ任務気をつけてね」
「俺は死なん!!!」
次に会う約束を取り付けて家まで送って貰った。帰り際にギュッと抱きつくと破廉恥だ!と剥がされた。声が大きいよ杏寿郎。それから毎日杏寿郎の無事を祈りながら過ごした。そろそろ任務が終わるはずだと煉獄家の屋敷に向かった。
「お邪魔しま〜す!千寿郎く〜ん!」
いつもなら千寿郎くんを呼べば迎えに来てくれるのに返事がない。それから少しばかり待つが誰も迎え入れてくれなかった。おかしいな〜と思いながら屋敷の裏に回る。ここならいつもは槇寿郎さんが居るはずだ。
「あれ?槇寿郎さんもいない」
どうしたものかと部屋を覗くと炭治郎と千寿郎君がいた。確か次の任務は炭治郎たちと一緒って言ってたから杏寿郎帰ってきてるはずと気分も上がる。
「炭治郎?千寿郎くんもどうしたの??」
草履を脱いで屋敷に上がると二人は泣いていた。
「え、、どうしたの?二人とも誰かに虐められたの?」
「名前さん…」
「名前さん、煉獄さんは…」
二人は泣きながら何かを見つめていた。
「それ杏寿郎の鍔だよね?なんで?」
炭治郎の手の中にあったのは杏寿郎の鍔だった。この時点で何となく察した。理解した。けれど理解したくない。わかりたくない。
「………ねえ、なんで炭治郎が杏寿郎の鍔を持っているの?………………杏寿郎は?杏寿郎はどこ?」
「……………………」
「煉獄さんは俺を庇って…「嘘!そんなの嘘!杏寿郎は柱で誰よりも強くて、鬼を倒すって言ってた!帰ってくるって言ってた!!!!!」
炭治郎の言葉を遮り叫んだ。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない!!!!帰ってくると言っていた。お土産を渡してくれると言っていた。
「嘘だよ、絶対嘘…杏寿郎は杏寿郎は………死んでないよ………嘘だと言ってよ、いつもみたいに馬鹿でかい声で笑いながらすまん嘘だ!って言ってよ…………」
口に出したら涙が止まらなくなった。炭治郎も千寿郎くんも泣いている。炭治郎が謝っているけど炭治郎のせいじゃない。全て全て鬼が悪いのだ。声を出して泣いた。生まれて初めてこんなに大きな声を出して泣いた。私の身体中の水分が全てなくなってしまうぐらい泣いた。落ち着いた頃には声は掠れていて、外は真っ暗だった。
「明日炭治郎に謝らなきゃ…」
炭治郎のせいではないが炭治郎はこんな私を見て自分を責めたはず。頭の片隅で私もいっそ死んでしまえたらなど考えてしまった。杏寿郎に救われた命を無碍にできるはずがない。虫の声だけが聞こえる静かな夜に私は最愛の人を失った。
「名前さん、いいですか?」
窓際に移動して静かに空を見上げていると後ろから千寿郎くんの声がした。
「どうしたの?」
「兄の部屋を整理していたら出てきました、名前さん宛だと思います」
「………」
「僕は部屋に戻るので何かあったら声をかけて下さい」
千寿郎くんから渡されたのは両手程の茶色い木箱だった。箱を開けてみるとそこには杏寿郎の燃えるような瞳と同じ色をした簪だった。簪の下には
名前へ
俺と同じ色だ
とだけ書かれている手紙があった。
「…………っ、杏、杏寿郎……」
涙は枯れることなく溢れ出す。こんなに辛くて悲しくて愛おしかった恋はもう二度とないだろうけどこれからも一生懸命明日を生きてみるよ、杏寿郎。
…………
「おはようございます、名前さん!今日も綺麗ですね!その紅い簪も似合ってます」
「善くんおはよ〜!ありがとう、お気に入りなの!ところで今日は伊之くんと一緒じゃないの?」
「あれ?さっきまで一緒にいたんだけど……伊之助ェェエエエエエ!」
「今日も元気で何より」
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