決定的に違うのだ






 ヒーロー科とは言っても、必須の座学教科は普通科と大して変わりはない。午前は英語などの科目をプロヒーローが教え、そして午後から、ヒーロー科の醍醐味とも言えるヒーロー基礎学の授業が始まる。


「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」


 ヒーロー基礎学担当のオールマイトが教室に入ってきただけで、教室が歓声に沸く。流石は平和の象徴と謳われた存在である。ヒーローを志す者としては、彼に憧れた者も多いのだろう。

 窓際の最後の席である私がざっとクラスを見渡すだけで、オールマイトの生の決まり文句に感激する生徒、衣装のチェックをする生徒など、大半の生徒が彼の登場に浮き足立っているようだ。中には、間近のオールマイトにも動じず、ただじっと彼を眺めているだけの生徒も何人か見受けられたが。


「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」


 バッとオールマイトが出したカードには、「BATTLE」の文字が書かれていた。ヒーロー基礎学ではあるが、流石に初回授業はオリエンテーションか座学であると思っていたため、これは少し意外だ。

 どうやら、入学前に申請した専用のヒーローコスチュームも出来上がっているようであり、一人一着配られる。各々更衣室で着替え、グラウンドに集合が言い渡された。




***




 私のコスチュームは、一言で言えばライダースーツだ。雄英ではサイコキネシスの個性を使う以上、ひらひらとした細かい装飾などが着いては邪魔になる。よって「装飾の少なく、動きやすいスーツ」を要望書に書いて送ったらこうなった訳だ。

 ……しかし、こうも脚部を露出させる必要はあったのだろうかと疑問は残るが、まあそこは考えても仕方ない。普段おろしている髪をひとつに括り、完成だ。

 着替え終わり私がグラウンドに行くと、既に何名かの生徒がコスチュームを来て集合していた。私が入ってくるなり数名がこちら──正確には私の脚を見てぎょっとした反応をとり、それが何だか気恥ずかしくてふっと目を逸らす。

 しかし低身長の彼、峰田君と言っただろうか。彼がゆったりと近づき脚をジロジロと見た後、「ヒーロー科最高!」とサムズアップしたのは流石にムカついたので、個性で彼を浮かして逆さにした。


「失礼よエロガキ」

「わー! 両刃落ち着け!」


 男子陣が止めに入り、女性陣からはひっそりと「ナイス!」と小声で言われた。仕方ないので個性を解除すると、ボトッと峰田君が地面に叩きつけられる。タフなのでダメージは限りなくゼロに近いとは思うが、なんでヒーロー科にいるんだろう、彼……。


「君らにはこれから、"敵組"と"ヒーロー組"に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」


 オールマイトの声で、私と峰田君のことなんて忘れてしまったかのように皆がオールマイトに注目する。流石のカリスマ性だ。

 今回の戦闘訓練は、2ペアずつの屋内戦。"敵組"が核兵器に見立てたハリボテを屋内の何処かに隠し立てこもり、"ヒーロー組"が中に潜入し核兵器を回収するという想定だ。やたらとアメリカンな設定なのは彼の趣味だろうか。

 ともかく、チーム分けはくじ引きで行うため、全員速やかにくじを引くよう促される。


「……Bチーム」


 Bと書かれたボールを片手に周囲を見渡すと、同じくチームメンバーを探していたであろう少年と目が合った。顔の半分を氷のような装飾で覆っている彼は、表情をまるで変えずこちらへ向かってくる。名前は確か、轟君だ。


「もしかして、お前もBか?」

「そうよ。ここでチームは確定かしら」


 2人ペア、と聞いていたものだからてっきり轟君と2人なのかと思っていたが、近くにいた障子君もBだと言う。どういう事かとオールマイトに尋ねれば、このクラスは計21名であるため、1チームは3人ペアになるそうだ。なるほど、このBチームが3人ペアの当たり枠だったか。

 それにしても、空気の重いチームだ。私も轟君も障子君も何一つ口を開こうとしないものであるから、先程からオールマイトが心配してこちらの様子をチラチラと伺っている。恐らく轟君も障子君もそこまで饒舌なタイプではないのだろう。人の性格は人それぞれなのだから、私からは何もコメントはない。かく言う私も、あまり人と話すのは得意なタイプではないからだ。


「……作戦、何か立てる?」

「別にいい。そんなもんなくたって直ぐに終わる」

「へえ。その根拠があるのね?」

「……すぐに分かる」


 しかし終始無言では駄目だろうと何か話題を探して轟君に降ってみたが、驚くほど返答という返答は帰ってこなかった。

 ああそう。そうですか。別に腹なんて立ってませんけど?

 轟君から目を逸らせば、オールマイトはもっと慌てたようにこちらを見る頻度が増した。いや、別に心配しなくても大丈夫ですオールマイト。ただちょっと、この氷男が協調性皆無なだけなので。

 1組目のAチーム対Dチームが始まると、皆モニターに夢中になった。開始早々Aチームの緑谷君とDチームの爆豪君が、こちらが心配になる程派手な攻防を繰り広げていたが、彼らには何か因縁のようなものがあるのだろうか。特に、爆豪君から緑谷君への執念が尋常ではない。オールマイトも、爆豪君が建物が一部崩壊する程の爆撃を繰り出した辺りで止めるべきではないだろうか。

 結果、緑谷君の作戦勝ちでAチームの勝利で終わった。敗北が決定した時の爆豪君の顔を見て、何となくだが予想はついた。

 彼はあれだ。昔からお山の大将だったのだ。彼と緑谷君の間にどんな関係があるのかは知らないが、きっと長年にわたって高く積み上げられたプライドを一気に崩されてショックを受けているのだ。

 そうこうしている間に、私達の出番だ。私達Bチームがヒーロー組、尾白君と葉隠さんのIチームが敵組で、早速障子君が個性の耳で屋内の様子を探った。


「四階北側の広間に一人。もう一人は同階の……どこか……素足だな。透明の奴が伏兵として捕える係か」

「どうするの? 核兵器さえ視認できれば、私の個性で確保できるけど」

「必要ねえ、危ねえから外出てろ。向こうは防衛戦のつもりだろうが……」


 「俺には関係ない」と、轟君は私と障子君が足を動かす前に個性で建物全体を凍らせた。ここから屋内の様子は確認できないが、あれだけの氷に包まれて屋内が無事なはずはない。轟君は1人で悠々と屋内に侵入し、数分後に耳元のインカムから「ヒーローチームWIN!」とのオールマイトの声が聞こえてきたことから、きっと核兵器の回収に成功したのだろう。

 もしも私が敵組だったとして、彼の氷結に対抗できる手段があるだろうか。私のサイコキネシスは、どこまで彼に通用するのだろうか。もしかしたら、Iチームの2人と同じように彼に瞬殺されたいたのかも──と思い込み、すぐに考えを振り払う。


「悪かったな。レベルが違いすぎた」


 轟君の声がインカムから流れて鼓膜を揺らす。

 ああ、私。彼のことが少し苦手かもしれない。

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