見えない鳥を撃ち殺す


 視察団による晩餐会が開かれている間、第U分校はその一つ下の階で待機を言い渡された。ルーファスの計らいにより分校生にも料理が振舞われ、晩餐会ほどではないにしろ辺りはちょっとした立食パーティーのようになっている。

 アスティはというと、生徒同士の弾む会話に混ざることもなく、ずっと物思いに耽った様子でモニターを見つめていた。原因は言うまでもない。

 ルーファスの言う通り、自身についての真相を握っているのがあの《鉄血宰相》のみだったとして。それをどうやって聞き出せばよいのだろうか。

 ギリアス・オズボーンの名を聞かない日はない。ラジオでも新聞でも宰相の進める施策について、専門家のああでもないこうでもないという意見が毎日のように取り沙汰されている。主に、帝国内において宰相率いる《革新派》と対立しているという、《貴族派》の間では特に。

 メディアで散々報じられてはいるが、あくまで政治家としての一面しか取り上げられることはないのでそれ以上は知らないというのが正直なところだ。時事ネタに弱いアスティのことなので、一般人が知っている情報よりもそれははるかに劣っていることだろう。一度だけ面会したことがあると言ってもそれはアスティが“アスティ・コールリッジ”として目覚めた最初の日であるがゆえに、まともに話した記憶もない。

 何にせよ、一国の宰相だ。たかが学生如きが会いたいからという理由で会える人物ではない。仮に会える機会があったとしても、アスティが《鉄血宰相》相手にまともに相談を持ち掛けられるかどうかは怪しかった。少なくとも、数分ルーファスを相手にしただけでこんなにも疲労感に襲われるようでは話にならない。


「メンタル鍛えたいなあ……」
「テメーがそれ以上心臓に毛生やしてどうすんだ」
「わっ、アッシュ!? いたの!?」


 ふと横を見れば、配られたドリンクをつまらなさそうに飲み干すアッシュがアスティを見下ろしていた。先ほどまでアスティの周囲には《Z組》の三名しかいなかったはずだが。


「なんかアスティ、あの人に会いに行ってからちょっと変よ? さっきから何回も呼んでたのに……」
「え、そうなの? うーん疲れてるのかなあ〜。やっぱり幻獣とでかい魔獣倒した直後に警備って、かよわい女子学生にはきつかったのかもねえ」


 アルティナがどうぞとジュースを勧めてきたので、一言礼を述べて受け取る。いつも飲む一本100ミラの缶ジュースと違うことはかろうじて分かったが、繊細な香りと味わいを比べられるだけの舌を持っていなかったことが悔やまれた。


「もし体調が悪いなら無理しないで休んだ方がいい。今からでも教官に言って……」
「クルトは心配性だなあもう。大丈夫だよ。それにさ」


 一、二歩移動し、クルトにだけ聞こえる声で囁く。


「私がここで帰っちゃったら、ユウナが余計気ぃ張っちゃうでしょ」
「…………」


 《Z組》はたった四人だけの小さなクラスだ。その四人のリーダーとも呼べるユウナは、クロスベルに来てから常に意気消沈としている。責任感の強い彼女の事だから、アスティが不調と知れば余計一人で背負い込もうとするだろう。そうなれば、きっとユウナは潰れてしまう。今だってギリギリの状態で保っているのに。


「……? 何よ、二人でこそこそしちゃって」
「内緒話! 私これ一回やってみたかったの!」
「果たして今やる必要はあったのでしょうか……」


 幸い、ユウナがアスティの思惑に気付く様子はなかった。普段のアスティの快活さが功を成したのか、物事をあまり深く考えない性格だと思われているらしかった。


「っていうか、アッシュはなんでここにいるの? 戦術科戻りなよ」
「それ私も言いたかったのよね。さっきからあちこち、ウロウロしてるみたいだけど」
「ああ、何とか上手いことタワーから出られないかと思ってな。酒も出ねぇ席なんざとっとと抜けて綺麗なねーちゃんの店でも探しに行った方が建設的ってモンだろ?」
「あ、アッシュがまた悪いこと考えてる」


 普通の士官学校ならば早々に退学を言い渡されていそうなものだ。どうして彼がトールズに来たのか疑問に感じる部分もあるが、元より第U分校は通常の学校で抱えきれない問題児や訳ありの生徒が集まってできた場所だ。訊くだけ野暮というものでもあるし、こちらだって言及されれば答えづらいものもある。


「クク、なんならお前らも一枚噛むかよ?」
「しないよ。私また怒られるのやだし」
「って、そもそもあたしが行ってどうするのよ!?」


 先ほどから後方にいるリィンの視線がしばしばこちらに向けられているので、アッシュのことはきっとマークされているだろう。彼がこのまますんなりとタワーを抜け出せるとはこれっぽっちも思っていなかったので、あちこちに目を向ける彼の様子を尻目にアスティがまた一口ジュースを飲んだ。


「あっアスティさん!」


 ティータがようやっと話せるといった様子でアスティの元へやってきたのは、晩餐会も終わりに差し掛かった頃だった。


「ティータ。どしたの、何か用?」
「はい。さっきは色々慌ただしくてお話しできなかったので。その、バイクの件なんですけど……」


 その単語を聞いて、アスティが小さく呻いた。バイクを指摘されて思い浮かぶのは、特務活動中に起きたパンク事件以外にない。演習地に帰ってきてそのまま急いで準備に取り掛かったから、ティータに事情を説明する暇もなかった。どうやらアスティが着替えている間にティータ自らバイクのチェックを行ってくれていたらしい。


「あの、ごめんティータ。わ、わざとじゃないんだよ? 隠してたわけでもないの。ただタイミングが合わなくて……」
「え!? いえいえ、別に全然そんなつもりじゃなくて……! 明日の朝、RF社の方が交換用のタイヤを持ってきてくれるそうなので、アスティさんにもお知らせしておこうかと思って……」
「あ、そうなの? てっきり怒られるのかと……」


 想定していたものとは方向性が全く違う会話に、自分の早とちりだったと安堵する。

 一応パンクの穴自体は塞がっていたものの、アスティが使用した修理キットはあくまで応急処置用だ。明日も特務活動で使用することを考えるとタイヤを丸ごと交換しなければ事故のリスクが高まるため、ティータから話を聞いたトワが手配してくれたらしい。

 幸いなことに責任者のアリサが特務活動に全面協力の姿勢だったので、交換費用は丸々RF社の負担だった。OG様様である。


「任せっきりにしちゃったお詫びに交換の時は私も手伝うよ。バイクのメンテとか私初めて見るし。……まー、起きれたらの話なんだけど」
「あはは……それじゃあ、明日の朝は私が起こしに行きますね」
「え、本当? ユウナとアルティナ以外の人に起こされるって新鮮だからちょっと楽しみかも」


 この場にユウナがいれば、自分が寝坊することを前提で話すアスティに鋭い突っ込みと苦言が飛ばされそうなものだ。もっとも、例えこの場にいたとしても今の彼女であればいちいち小言を言う気力もないのかもしれないが。

 今もクルトとアルティナに挟まれているユウナを視界の端に収めていると、そういえば、とティータが語り始めた。


「後輪じゃなくて前輪がパンクしてるのって、何気に珍しいですよね」
「……そうなの?」


 ティータの一言にきょとんと目を見開いたアスティが聞き返すと、彼女は技術者として頷いた。


「今回みたいに釘とかが刺さって起こるパンクって、前輪が突起物を起こしてそれを後輪が引いちゃうパターンが一番多いんです」
「あー、まあ釘って大抵寝た状態で転がってるもんね」
「はい。なのでアスティさんのバイクの場合、最初から釘が上を向いて立っていたと考えられるのでちょっと珍しいなって」


 ぽんと釘を地面に転がしたとして、その釘が真っ直ぐ立つ確率はどれほどのものだろうか。賽のように平等であるはずもなく、圧倒的に頭部と先端部を支えに横になりやすい。一方、寝た状態の釘の上をタイヤが通過すると、タイヤが釘を弾く、あるいは巻き上げて上を向く。その直後に後輪が通り、先端が後輪タイヤに突き刺さってパンクするのが多くみられるケースだった。

 しかしアスティのバイクは、前輪に釘が刺さったことによりパンクを起こしている。ティータの説明の通りだとすると、そう簡単に起きることではない。


「ええ〜〜? 私運なさすぎじゃない……?」


 バイクトラブルさえなければ、自分もユウナたちが会ったというルーグマン教授とやらと話せたのだが。過ぎたことを悔やんでも仕方なかったが、街道に釘を落としていった人物が行く先々で雨に降られますようにと願わずにはいられなかった。









 皇族が出席する場となれば警備体制も厳重なんてものではない。鼠一匹も通さない布陣にそう易々と手を出す輩もおらず、晩餐会は予定通りの時刻でつつがなく幕を下ろした。


「ユウナ、何してるの?」
「アスティ。教官見なかった? 視察団の人の見送りがあるのに、どこか行っちゃったみたいで……」


 視察団がオルキスタワーを出て、迎賓館に出立するのを見届けるまでが第U分校の役目だ。その刻限が近づいているというのに、我らが教官殿はふらりとどこかへ消えてしまったらしい。元々単独行動が多い人間であると理解しているため、そう驚くことはなかったが。

 アスティも《Z組》と合流し、リィンを探してホールを出る。

 意外にも彼の姿はすぐに見つかった。アッシュ、ミュゼが隣にいるという珍しい組み合わせの中で。


「あっ教官みーっけ!」
「あれ、ミュゼにアッシュも?」
「……? 何かあったんですか?」


 本人曰くリィン一筋なミュゼがぽかんと彼を見上げていたので、彼らの中に流れる雰囲気は少しだけ独特だった。惚けているのかと思えばそれも違う。何よりその光景にアッシュが探るような視線を送っていたのが気がかりで、アスティはからかってやろうと開いていた口を急いで閉じた。触らぬ神に祟りはないと、どこかで聞いたことがあるような気がするので。

 クルトの問いにたまたまだと答えると、リィンは場の空気を拭うように話題を変える。


「俺を呼びに来たのか?」
「はい、そろそろ時間です」
「視察団の人たちを見送りするんですよね?」
「ああ、それじゃあ二人とも各自のクラスに――」


 そこで言葉を区切って、リィンがハッと天井を睨みつけた。自分の名を呼ぶ声に耳も傾けず、強い警戒心を露わにしている。


「……? んー……?」


 彼の様子が起点となったのか、アスティも釣られて天井を見上げた。

 だが数秒後、彼女を襲ったのは視線の先に引き寄せられるような違和感だ。


(……上に、何かあるのかな)


 現在アスティの視界にはオルキスタワーの天上しか見えていないが、それそのものに引き寄せられているわけではない。それよりもさらに奥、アスティが現在立っているよりもはるか上の地点にはいる。何故かは知らないが胸騒ぎがしてならなかった。

 ――直後、強い揺れと同時に鋭い爆発音がタワー全体に反響した。


「今のは……!?」
「屋上で何かあったみたいです!」


 ホール内から聞こえたトワの声を聞いて、アスティたちは急いで引き返した。既にランドルフとミハイルが血相を変えて駆けつけており、生徒たちも突然のアクシデントに動揺を隠せずにいる。そんな中トワが一人導力端末を操作し、原因の究明に勤しんでいた。


「出ました! タワーの屋上の映像です!」


 端末のモニターにノイズ交じりの映像が映し出される。幸いにもカメラが爆発に巻き込まれた様子はないようで、多少のノイズはあれど映像自体は鮮明だった。

 爆発地点は屋上で間違いない。その証拠に、昼頃視察団が使用した揚陸艇が大きな火の手をあげて燃えている。


「まさか、視察団の人たちを狙ったテロ……!?」
「……いやあ、それはなくない?」


 ユウナの口をついて出た言葉を、アスティは至極冷静に否定した。


「テロなら普通追い込んで逃げ場をなくすでしょ。パンタグリュエルが上にあるからそこに行くための揚陸艇を潰すっていうのはまだ分かるけど、それなら同時に下も塞いで孤立させないと意味がないんじゃないかなあ」
「アスティ……?」
「でもタワーの入り口は何も起こってないし、上の騒ぎが下に降りてくる様子もない。……なら、目的は違うんじゃない?」


 第一、本当に視察団が目的なのだとしたら、彼らが一堂に会している晩餐会の最中を狙うだろう、と。台本でも読んでいるかのようにスラスラと語ったアスティに若干名の視線が向けられたが、それをいちいち拾うだけの余裕はない。トワが次々とカメラを切り替え、騒動の中心を映し出す。

 二、三回目の切り替えで、ようやく主犯の姿が明らかになった。深緑の髪に赤いコートの男と、若菜の髪にこちらもまた赤いスーツの少年。どちらもとにかく派手な風貌で、背後で踊る炎に一歩も引けていなかった。


「No.T――《劫炎》」


 赤いコートの男を見てリィンが重々しく呟き、周囲に戦慄が走った。

 前回の演習で現れた《紅の戦鬼》でさえNo.]Zだ。それがナンバーを一気に十二個も飛ばして、いきなりTのご登場とは。


「トワ先輩! ランディさん! 生徒たちと視察団の安全確保を! ミハイル少佐は警備部隊との連絡をお願いします!」


 ミハイルが言葉を返す暇もなく、リィンがそれだけ言い残してホールを飛び出した。彼が向かう先が何処なのか、この状況で分からない者はいない。

 アスティ、ユウナ、クルト、アルティナの顔を見合わせる。《Z組》として何をするべきなのか、言葉に出さずとも伝わっていた。

 ランドルフの集合を無視して、四人がリィンに続いてホールを抜け出す。背後からランドルフの静止が聞こえたが、聞こえなかったふりをして無視を貫いた。


「まーた命令違反しちゃったよ。今度の説教は短めだといいな……!」
「残念ですが、冗談を言っている暇はないかと……!」


 上階から戦闘音が絶え間なく聞こえている。おそらく先行したリィンのものだろう。確認した刺客は二人のみだが、彼らが下に降りてきているか、あるいは別の戦力を送り込んできているか。戦闘音が止まることなく上へ上へと突き進んでいるので、あの《劫炎》が相手立っているということはないだろう。なのでおそらくは後者だ。

 それを肯定するように、非常階段から三機の浮遊機体が姿を現した。


「知ってる! 人形兵器ってやつでしょこれ!」
「結社の哨戒機……!」


 サザーラントで交戦した人形兵器ほど大きなものではない。戦闘用を送り込んでこない分、おそらく先ほどのアスティの考察は的を得ているようだった。


「ハッ、加勢するぜ!」


 《Z組》四人が獲物を手にするのとほぼ同時に、男の猛々しい声が後方から耳に届く。先ほどもホールで何度も聞いていたため、間違えることはない。


「アッシュ!」
「ミュゼまで……!?」
「毎度毎度、てめぇらだけにオイシイ思いをさせてたまるかよ!」
「ふふっ、今回は私もお手伝いさせて頂きます」


 斧槍を手にしたアッシュの後方で、ミュゼが長銃を構える。二人が武器を構える場面は戦闘訓練で度々目にしているが、演習中に遭遇するのは前回の《結社》襲撃以来だ。肩を並べて戦った経験それほど多くはないため、連携の精度は完全に未知数だった。

 だが頭数が増えれば増えるほど、戦場はアスティにとっては有利に動く。

 剣を握り、神経を研ぎ澄ませる。

 自立型戦闘兵器ならば、当然カメラに映る情報を頼りに行動しているだろう。その辺りは人間も機械も大した差はない。ならば確実に、その死角となる角度があるはずだ。

 ユウナのガンブレイカーが電撃を流し、クルトの双剣が部品を切り落とし、アッシュの斧が装甲を割った。前衛組が激闘を繰り広げている間に、アスティが狭いフィールドを駆ける。

 人形兵器の進行方向、仲間の向きを確認し、右へ左へ、時には上へ。今その時点で最も注目の薄い地点を探し出し、点と点と結ぶように移動する。

 混戦状態であればあるほど、アスティの存在は希釈されていく。輪郭が溶けて消えていく。やがて人形兵器の警戒対象、仲間の意識からすらも外れたその瞬間――アスティが空気の中から現れた。

 ぶつり。剣先が装甲と装甲の隙間に入り、配線を断ち切った。

 人形兵器の構造は解明できていないが、基本的に機械類は繊細だ。いくら熱や衝撃に耐えられたとしても、配線がいかれてしまえば信号を伝えることもままならない。

 人形兵器がエラー音を吐いて地に落ちた。開けた視界の先でユウナが唖然とした表情を浮かべたので、満面の笑みでピースをして見せる。


「いえーいユウナ。驚いた?」
「……違う、後ろ!」
「ん?」


 ユウナが張り詰めた表情で叫ぶ。アスティが振り返ると同時に隠れていた一機が銃口をアスティに向け、弾丸が発射された。

 だがその弾がアスティの四肢に穴を開けることはなく。


「ハッ、もらったぜ!」


 そのさらに背後から現れたアッシュが人形兵器を真っ二つに叩き割った。損傷の激しい部分を的確に狙ったおかげで、彼の一撃で機体は完全に沈黙する。

 一方、宙を突き進む鉄の弾はアスティの剣にあっけなく弾かれ、カツンと床に落ちる。


「……ひょっとして私、囮にされた?」
「テメーがこそこそ隠れてんのは知ってたからな。お互い様ってモンだろ?」
「うわー! なんかちょっと悔しいなこれー!」


 アッシュが倒した機体が最後のようで、増援が来る様子もない。ひとまず危機は去ったことを確認すると、アスティは武器を下ろした。

 不意打ちの奇襲はアスティの専門分野であったはずなのに。その役目を取られてしまうと、それまで自信満々に振舞っていた自分が恥ずかしく思えてしまう。


「ふふ。それはそれで、チームワークということで」
「はいはい、私はすぐ油断する慢心女ですよー……」
「……とにかく教官を追いかけましょう」


 ミュゼの慰めも程々に再び足を動かす。現在アスティたちがいるのは34階で、オルキスタワーは地上40階の超高層ビルだ。上階の戦闘音もほとんど聞こえなくなったので、きっとリィンは先に屋上についてしまったのだろう。今の足止めでかなりの距離が開いてしまっていた。

 武器を構え警戒態勢を取りながら6階分の階段の駆け上がることにアスティの体力が不満を垂れ流したが、今足を止めるべきでないことはしっかり理解していた。時折出てくる人形兵器を同様に蹴散らしつつ、着実に上階へと昇っていく。

 やがて39階の出口に辿り着き、半ば蹴破るように扉を開ける。地上250アージュ地点を通る風が容赦なく襲い来るが、それに乗って鼓膜を叩く爆発音に手繰り寄せられるように、アスティは最後の階段を駆け上がった。


「いた……!」


 今もなお炎を上げる揚陸艇の前で対峙する人物が四人。太刀を構えるリィンの隣には、どこかで合流したであろうシャロンがナイフを光らせている。

 その向かい側――赤いコートを羽織った男の獣のような瞳が、アスティに向けられた。





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