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「ふーん、不登校生徒への通知ね。こんなことされてもまったく無意味だってのにさ。ま、わざわざご苦労だったね。一応礼だけは言っておくよ」
「人に運ばせておいて、何よあの態度……!」
「別に、僕は頼んだ覚えはないんだけど?卯月」
「くあぁぁ! 最低! イラつく!」
「ったく、先輩に対する口の利き方とは思えねぇな」
「"先輩は敬え"って? アハハ、たかだか1つや2つ、年が違う程度じゃねぇ。社会に出たらそんなもの何の意味もないことくらい、今時小学生でも知ってるよ?」
「ぐっ……」


封筒から出した通知に上から下まで目を通しながらも、ユウキはサクヤとコウに正論をぶつけて言いくるめる。
椅子に両手を置いて堂々と座るその姿に、敬意の二文字はない。

だが、ユウキの後ろにある数々のディスプレイ。それぞれのディスプレイには、まったくバラバラの数式のようなものが映し出されていた。時々記号も入っているし、何かのシステムだろうか。
これだけの量をユウキ一人で全てつくったのだとしたら、この人物は、とんでもない天才だ。認めたくはないが。


「――それより四宮くん。さっき、私たちの名前を言い当てたこと……学園のデータベースに"ハッキング"をしたのね?」
「へえ……」


アスカいわく、マンションの入り口で会話をしたときは、ユウキはサクヤたちの顔さえ知らなかった。だが、部屋に入った瞬間、サクヤたちの名前、クラスまでも言い当てた。これは、学園のデータベースに入り込み、調べたからだという。


「アッハハ! そっちのセンパイはなかなか頭が回るじゃない。お察しの通り――自分で言うのもなんだけど、これでも腕の立つ"ハッカー"でね。あちこちから情報を集めて、"色々"役立たせてもらってるのさ。この間も、《卯月》の――」
「あれはアンタの仕業か!」


ユウキが言い終わらないうちに、サクヤが言葉を遮る。
隣の部屋まで聞こえるのではと思うくらい大きな声だったが、さすがは高級マンション。防音もしっかりしている。


「アンタ、うちの御兄様になんてことしてくれたのよ!」
「御兄様、ねえ……"あんまり仲が良さそうには見えなかったけど"?」
「…………っ……!」


ユウキに言われたその一言で、目の前が真っ赤になる。
それだけは。それだけは、他人に言われたくなかった。ましてや、たった今会ったばかりの、赤の他人に。
爪が白くなるまでぎゅっと拳に力をいれる。爪が食い込んで少し痛い。
視界が少し霞んでいるから、涙が浮かんでいるのかも。視界の隅に、とても驚いた顔の四宮が写った。いま、アンタの顔を見たくない。


「…あ…………」
「――そこまでだ」
「コウ先輩……」
「誰にだって、言われたくない言葉くらいあるだろ。今のは四宮が悪い」
「…………フン……」


コウの一言で、ユウキはそっぽを向いた。少し、負い目を感じているのだろうか。
でも、その態度がなおさらイラつく。


「……ゆるさない」
「ゆるさないも何も、僕は事実を言っただけだね」
「はいはい、話を戻すわ」


パンパン、と手を叩いて、アスカ先輩は大幅にズレた軌道を修正してくれた。さすがアスカ先輩、大人です。


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