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「なるほどな。詳しいことは分からねえが……大方、あのアプリにも何か仕込んでやがるってとこか?」
「――そうそう、《神様アプリ》! よく僕が開発者だって分かったね? ま、その点に関しては素直に褒めてあげようかな」
「……偉そうに…………」
「まあいい――そろそろ本題に入らせてもらおうか」
ユウキによると、《神様アプリ》にはハッキング機能が利用されているらしい。
"悩み事"が入力されると、アプリのAIがバックグラウンドでサイフォン内にサーチをかける。ブログやSNSなどから個人情報を読み取り、アドバイスを一瞬で自動生成。これが、《神様アプリ》の仕組みだ。
だが、実際はこのように簡単にできるわけではない。ましてや、大手企業でもないのだ。複雑なアプリを開発するというのは、よほどの技能を持った人間でなければできない。
「――いずれにせよ、かなり優秀なシステムエンジニアみたいね?」
「おいおい、"途轍もなく優秀"の間違いなんじゃない? なにせ、"神様"を創ったんだ――"天才"でも足りないくらいだね」
「……自分で"天才"とか…………ほんっとバカみたい……」
「……あのさあ、さっきからそうやって被害者ぶるの、やめてくんない? すっごくめんどくさいんだよねえ」
相も変わらず、サクヤとユウキの間は険悪だ。
世の中には、何をどうしても絶対にそりが合わない人物が一人はいるというが、二人の場合はまさにそれだ。
サクヤも、"天才"という言葉を嫌っている様に見える。
「……話はそれで終わりじゃねえよな?」
コウが《神様アプリ》のバグについて尋ねるが、ユウキはただの"偶然"と言い張る。
ユウキ自身も調べてはみたが、バグについては何一つ見つからなかったらしい。
「なら――"普通"じゃないことが起きていたとしたらどう? 例えば、"別の世界"からの何らかの干渉とか」
「はああ? ……あのさ、オカルト話なら他所でやってくんない? 僕、そういうのは基本的に信じてないんだよね」
「……《異界》に関しては心当たりはなさそうですね」
「まったくの一般人ってことですね。ったく、何が"天才"だか……」
「ええ、何かを隠している様子もない……」
ソラ、サクヤ、アスカがユウキに聞こえない様に小声で話す。
ユウキ自身は、《異界》とは全く関係がなさそうだ。
「……あーあ、なんか白けちゃったな。ちょっと面白い相手が訪ねてきたと思ったら、とんだ期待外れだよ」
ちょっと、卯月の方を見て言わないで!
そう言い出しそうになったのを、直前で止める。さすがに、また小学生のような喧嘩はしたくない。
「はい。それじゃ話は終わり。とっとと帰った帰った」
「ちょっと待て、まだ話は――」
「ユウくん、いるよね? 入っちゃうよ?」
その時、インターホンの音と共に聞こえたのは、おだやかそうな女性の声。
「こ、この声は……」
ユウキの部屋に入ってきたのは、ユウキのよく似た大人の女性。ニコニコしながら、ユウキの部屋に堂々と足を踏み入れる。
偶然居合わせてしまったサクヤたちは、とりあえず挨拶をし、女性をみる。
「……ユ、ユウくん。もしかして……お友達が来ていたのっ!?」
「――はああっ!?」
この人、笑顔でとんでもないこと言った! 卯月とコイツが友達とか、ありえない!
「ちょっと! 何カンチガイして――」
「もう、そうならそうとなんで言ってくれないの!? お姉ちゃん、何の準備もせずに来ちゃったじゃない!」
一人で勝手に進む女性の話に、ユウキが押されまくる。
そう、あのユウキが。
「……って、これが普通の姉弟ですよね……」
「……サクヤちゃん?」
「いえ、何も」
「〜〜〜ああもうっ!! いきなり来るなって言っただろ!?」
ユウキはそう叫ぶと、自室のドアをバン、と開ける。
照れているのか、若干頬が赤い。
「とっとと帰れ! ほら、アンタらも!」
「あんっ……ちょっとユウくん――」
「いいから帰れ!! 頼むから帰ってくれええっ!!」