▼▽▼


「あはは……追い出されちゃいましたね」
「やれやれ……今日のところは出直しだな。クク、可愛いところもあるっつーか」
「可愛い? どこがですか? あんな生意気な奴」


タワーマンションの門の前まで追い出された五人は、これからどうするか考えていた。
インターホンを鳴らしても、もう出る気配はない。


「ご、ごめんなさい、あなたたち。せっかく来てもらったのに、あの子ったら、ほんとに照れ屋で……」
「ふふ、大丈夫です。話も終わるところでしたし。もしかして貴女は……」
「あっ、自己紹介がまだだったわ」


四宮葵。ユウキの姉で、ユウキの部屋には頻繁に訪れるらしい。


「その、お詫びと言ってはなんだけど、飲み物でもご馳走させてもらえないかしら?」




* * * * *





「――そう、じゃあみんな杜宮学園の生徒さんなのね。そんな通知を届けに……お手数をかけちゃったみたいね」


公園にあるカフェで飲み物をアオイに奢ってもらったサクヤたちは、パラソル付きのテーブルを五人で囲んでいた。
とりあえずの状況説明をするが、どうやらアオイは《神様アプリ》の存在を知らなかったようだ。姉にも秘密で開発を進めていたらしい、ユウキは。


「失礼ですが、お仕事は何を?」
「ふふ、実はこう見えても美術館の学芸員なのよ。アクロスタワー内にある市の美術館なんだけど」
「そうすると……どうして彼は一人暮らしを?」


アスカがさっそく情報収集に入った。
家庭内の事情も、《異界化》に繋がる可能性がある。思った通り、シンプルだが、あまり良いとは言えない家庭事情だった。
ユウキの父は、省庁勤めの厳格な人物。対するユウキは自由で人の話を聞かないあの性格。昔から、馬の合わないところはあったらしい。
そして今年。中学の卒業と同時に、ユウキは家を出た。

……卯月の場合とは、少し違いますが…………。
それでも、サクヤにほんの少し似ていた。
本当に、よくある話。


「ふう……やっぱり私の方がちょっと過保護すぎるのかしら」
「……そんなこと、ねえと思いますけど」
「少なくとも、品行方正な生活ではないようですし」
「ふふ、だからあなたたちがあの部屋にいたのを見たときは本当に嬉しかったのよね。昔から何でもできるせいか周りを寄せつけないでいつも一人でいたから……友達じゃなかったというのは少し残念だけど」
「ぐ…………」


"友達"というワードに、サクヤがピクリと反応する。
そこまでユウキと友達扱いされるのが嫌か。


「あなたも、ユウ君が何か失礼なことを言ってしまったんでしょう?ほんと、ごめんなさいね」
「い、いえ、その……」
「でも、すごく新鮮だったわ。ユウ君に、正面から堂々とものを言う同年代の女の子って、今までいなかったから。……もし良かったら、これからもユウ君と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「えっ! そ、それは、その…………ぜ、善処します」


縮こまるサクヤに、アオイがふふ、と笑う。
絶対にアイツと友達は嫌!


「でも、もう顔見知りですし。友達みたいなものですよ! ね、サクヤちゃん!」
「はあっ!? ちょっと、ソラさん!? なぜそこに卯月も入っているんですか!」
「何言ってるんですか! わたしとサクヤちゃんは、同学年なんですよ!?」
「それはそうですけど、ちょっと違う気がします!」
「……ま、これも縁だろうし、ちょいと気に掛けておきますよ」
「ふふっ、ありがとう。気難しい子だけどよろしくね」




* * * * *





「なんつーか、あのナマイキ小僧の姉ちゃんには全然見えなかったな」


市内で美術館の仕事が残っていると言って立ち去ったアオイを見送った後、四人はその場に残って話をしていた。
話題は、もっぱらユウキとアオイのことだ。


「でも、神様アプリの件……ますます放っておけませんね!」
「へ……」
「わたし、一人っ子ですからずっとお兄さんとお姉さんとか弟に憧れてたんです。――なのに四宮君はあんなに優しいお姉さんを邪険に扱ったりして……早くこの件を終わらせて、一言言わないと気が済みません!」
「それ、卯月も同意です。アイツは、自分が恵まれてることに気付くべきなんですよ。家族に相手にされない人の気も知らないで……ま、だからと言って仲良くする気はありませんけど」


力を込めて言い放つソラと、腕を組んでそっぽを向くサクヤ。どうやら、一年はユウキを含めて頑固者がそろったらしい。


「ー――とはいえ、まだ《異界》との関わりが確定したわけじゃない。それを見定めるのが今後の課題となりそうね」
「はい……引き続き頑張りましょう!」
「卯月桜夜。きっとお役に立ってみせます!」




* * * * *





「――何かしら、これ……?」


サイフォンに映し出された画面を見て、アオイが一人呟く。
不安そうな彼女を、黒い神様が液晶越しに見つめていた。


ALICE+