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翌日、昨日のカフェの隣で集合がかかった。
休日ということもあって、服装は皆私服だ。ソラとアスカは五月だからか夏っぽい涼しげな格好で、コウは秋でも着られそうなカジュアルな服装。サクヤも、どちらかといえば、秋に着るであろうコーディネートだ。
手がほぼ隠れるくらいの長さのマントコートにミニスカート。むしろ冬でも着られるのではないだろうか。


「ダメだ……やっぱり全然繋がらない。いつもはこっちからかけたら絶対3コール以内に出るくせに……」
「四宮君……」


だが、いつも集まる四人に加え、今日はユウキが来ていた。
昨日の部屋着に緑のパーカーを着ただけの、ラフな格好。
彼がここに来た理由――今日集まった理由でもあるが――は、彼の姉、アオイに関することだった。
今朝、アオイにいきなり連絡がつかなくなったらしい。職場に連絡してもアオイは今日来ていないらしく、完全に行方が分からなくなってしまった。
アスカいわく、昨日アオイのサイフォンに《神様アプリ》がダウンロードされていたことから、アオイはその被害に遭ったのではないか、ということらしい。


「昨日、別れ際にアオイさんは『市内で美術館の仕事が残っている』と言っていたけど……四宮君、何か心当たりはない?」
「そうだ……最近、仕事について何か話してたような気が。確か、市内のどこかで"イベント"をやっててそっちの準備があるとか何とか。ああでも、場所はどこだっけ!?なんで聞いてないんだよ、僕……!」
「お、落ち着いて」


焦りながら話すユウキに、ソラが声をかける。
これはもう、パニック状態になってしまっている。天才であるほど、予測のできない場面に遭遇したときに対処ができないと聞いたことはあったが、まさにそれだ。


「……焦ったところで、仕方ないじゃないですか。とんだシスコン野郎ですね」
「うるさいな! アンタに何がわかるって言うんだよ!?」


右手でサイフォンを操作しながら言うサクヤに、ユウキが言い放つ。
しまった、やってしまった。
ユウキは直後にそう思ったが、上手く謝罪の言葉が出てこない。


「……わからないはず、ないじゃないですか」


そうしている間に、サクヤの指の動きが止まった。
サイフォンの画面を見つめる瞳だけが、上下左右にキョロキョロと動く。
しばらくすると、「該当する美術館の特定ができました」と呟いた。


「アクロスタワー内にある美術館ですが、杜宮市内の数カ所に出店するようです。そのうちの一カ所だけ、提出された企画書の中に、アオイさんの名前がありました」
「…………はあ? なんで……普通のサイフォンで、そこまでわかるわけ……」
「場所は、レンガ小路の貸しスペース。そこに出入りするアオイさんの姿を、近隣住民の方が目撃しています」
「そうだ、たしか姉さんもそんなこと言ってたような……!」


これで裏がとれた。
ユウキにマンションで待っているように伝え、四人は早速レンガ小路に向かおうとする、が。


「じょ、冗談でしょ……僕も行くに決まってるじゃん!」


ユウキが反抗した。


「はっきり言って、まだ事態は全然飲み込めてないけど……このままアンタらだけに任せておけるわけないだろ?」
「……だろうな。構わねえか、柊?」
「あの……アスカ先輩、卯月からも、お願いできませんか?」


予想外の人物の発言に、全員が目を丸くする。まさか、サクヤの口からユウキを助ける言葉が出てくるとは。


「はあっ!? なんでだよ! アンタ、散々酷いこと言われて……」
「別に、アンタのためなんかじゃないですよばーか! ……でも、アンタのことの姉弟見てると、なんか、羨ましいなって……。だから、壊れてほしくないんです」
「……………………」
「……って、なんでもないです! こんな奴放って置いて、さっさと行きましょう!」


腕を組んだまま、サクヤはユウキに背を向ける。
さっきから言っていることが矛盾しているのだが、どうやら気付いていないようだ。


「……いいわ、いざという時は下がっていてもらうけれど」
「……ありがとう、ございます」


アスカの言葉に、サクヤはそっと微笑んだ。



さっきサクヤが微笑んだときに起こった、微かな胸の痛み。
締め付けられるようなその痛みを隠すかのように、少年はフードをかぶった。


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