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「やはり誰もいない……」
レンガ小路の貸しスペースについた五人だったが、やはりそこに人の影はなかった。準備期間だというのにだれもいないのは、あきらかにおかしい。
ダンボールにはいったままの美術品が散乱する床を進むと、ソラが床に何かを見つけた。
「――姉さんのサイフォンだ!」
落ちていたのは、ユウキの姉、アオイのサイフォン。
起動したままになっていたのが、不幸中の幸いだった。
「……『今日の運勢はウルトラ絶不調♪アンラッキースポットは仕事先。醒めない眠りにについちゃうカモ☆』……《神様アプリ》の、バグ画面ですよね、これ……」
「な、なんだよ、この画面は!? こんなプログラム、僕は組んでないって……!」
サクヤが読み上げたのは、アオイのサイフォンの画面に写っていた文章。
サクヤ自身、これを直で見たのは初めてだったが、入り交じるカタカナやローマ字、極めつけは中央の黒い神様。にっこりと笑ったその表情が、恐怖心を煽る。
「ってことは、この近くに……」
アスカが立ち上がってサイフォンを取り出し、とあるアプリのアイコンをタップ。
すると、目の前に禍々しい赤い扉が出現した。紛れもなく、《異界》に繋がる《門》だ。
「やっぱり《異界化》に巻き込まれちまったのか……!}
「へ……なに言ってんの、アンタたち?」
「アンタは黙ってて!」
「なっ……」
ユウキが口を挟もうとするが、サクヤに制止され、口を閉じる。先程の借りもあるせいか、あまり強くは言えないようだ。
「恐らく"予言"が表示されて間もないくらいでしょう。時間が経ちすぎている……早く助けないと命すら危ないわ」
「そこに何があるんだよ!? ちゃんと説明してくれって!!」
「ウダウダ言ってる暇はねえ――四宮、お前はここで待ってろ! 乗り込むぞ、柊、ソラ、サクヤ!」
「了解です!」
そう言うと、コウ、アスカ、ソラ、サクヤは《門》の中へと入っていった。
「き、消えた……?」
《門》は通常の人間には見えない。《適格者》ではないユウキから見ると、そうなるのだろう。
「――消えてねえよ、クソガキ」
へたりこんだユウキに背後からかかったのは、男性の声。聞いたことはない。
「よう、お前だな。オレの会社の情報ハッキングした奴ってのは」
自分を見下ろす、冷たい瞳。その顔立ちは、どことなく誰かに似ていた。
誰……と言いかけて、待てよと考える。
今、この人物は"オレの会社"と言った。ユウキは何度か会社の情報を盗んでは他の会社に売るという行為をしていたが、最近やったのは、一つの会社だけ。
と、いうことは――。
「……ま、ご想像通りってとこだな。――卯月零夜。《卯月グループ》現会長だ」
卯月零夜。二十四歳という若さで《卯月グループ》の頂点に立つ男。
そして、卯月桜夜の実の兄でもある。