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「ユウキ君、いけそう?」
「ああ、このマシンスペックなら充分ハッキングをかけられるはずだ! 見てろよ、今度はもっと慎重に別ルートから入り込んで――」
端末に向かって"ハッキング"など、ややグレーゾーンの単語を話すユウキと、それを真剣な表情で見つめるコウ、アスカ、ソラに、自分のサイフォンを熱心にタップするサクヤ。
いつもと違う様子の教え子たちに、トワは完全に困惑していた。はたして、端末室の鍵はそう簡単に開けて良いものだったのか。
「――あれっ!?」
ふいに、ユウキが声をあげる。
トワと話していたコウやアスカもそちらを向き、サクヤもサイフォンを動かす手を止めた。
「――無いんだ。《神様アプリ》が、アクロスタワーのサーバーから影も形も無くなってる……!」
「あー……やっぱりですか」
少し離れた場所にいたサクヤが、ため息をつきながら歩いてきた。
右手に握られたサイフォンはすでにスリープ状態になっていて、何も映っていない。
「やっぱりって、どういうこと?」
「先程、《卯月グループ》の管理するサーバーに、《神様アプリ》がアップされたんです。すぐに移動してしまったので、調べることはできなかったんですけど……」
「《卯月グループ》か……。確か、ここ数年で急成長した、菓子を中心に扱う会社だよな?」
「そうね。最近はお菓子関連だけでなく、導力関係にも力を入れていると聞いたけれど……」
「でも、なんでそんな会社がサーバーなんか……?」
「……ま、どんなにいろんな分野を取り扱ったところで、《北都グループ》とは天と地の差ですけどね」
サクヤはそう言うと、これ以上話すことはないとでも言うように、サイフォンを再び起動する。
そんな彼女をコウが見つめていることに、彼女は気付いていなかった。
「……もしかすると、"逃げた"のかもしれないわね。さっきみたいなアクセスを警戒して防衛本能のようなものが働いて」
「そ、そんなシステム組んでないっての……! ああもう、なんでもアリってことかよ!?」
愚痴をこぼしながらも、逃げた《神様アプリ》の追跡を続けてはいた。
だが、海外や個人のサーバーも多く移動していて、一つ一つを追っていたらキリがない。本体が杜宮市のどこかにあるのは確実なのだが、その手がかりとなるものが全くないのだ。
このままじゃ、姉さんが。
ユウキの焦りがコウたちにも伝わる。その焦りが、皆の思考を鈍くしていた。
何か、何か手はないか。
「――あの、ちょっといいかな?」
そんなとき声を掛けたのはトワだった。
メガネを掛け直して端末の前に立つと、なんとユウキのハッキングを引き継いだ。
速度は確かにユウキの方が上だが、トワには迷いがない。数十手先まで完全に読んでいる。
「よしっ、これでどうかな?」
「ウ、ウソだろ……!? もう分かったっての!?」
「うん。杜宮市にあるレンタルサーバー会社の端末みたいだよ。場所は《七星モール》――柊さんの言うとおり、市内だね」
「さすが九重先生。卯月の知ってるなかで、一番の技術でしたよ? 今の」
《七星モール》は、杜宮市の北口にある大型施設。
衣類やアクセサリーはもちろん、アニメイトなどの店も入っているため、サクヤも行くことが多かった。
「は〜っ、情報処理の授業も担当されてるとは聞いていましたけど……」
「そ、そんなレベルじゃない――僕でもここまでは出来ないっての! どんな手品を使ったっていうのさ!?」
「あはは、基本を応用しただけだよ。サーバー毎には調べてられないからまずは杜宮市の情報総合サイト経由で痕跡を探してみたんだ。昨日から今日にかけてアクセス数が急増したサーバーを割り出して、そこからは早かったかな?」
ユウキがアクロスタワーにハッキングをしたのは昨日。そこから《神様アプリ》が別の場所へ移動した。
そして《神様アプリ》はランキング一位になるほどの人気アプリ。とうぜんアクセス数も桁違いになるわけで、あとはアクセス数がのびたサーバーを探すだけ。
実にシンプルな方法だ。
「ふふ、天才君も、これには完全敗北ってかんじですね」
「う、うるさいな、卯月!」
サクヤが茶化すように笑い、ユウキがキッと反抗する。
そんな二人を見て、トワが困ったように笑いながら尋ねた。
「えっと……二人は、お付き合いしているのかな?」
「違います」
「違うって」
見事にハモった瞬間だった。