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「七星モール――今まで入ったことはありませんでしたけど……」
「結構マニアックな店が幾つも入ってるんだよな。俺もリョウタやジュンとたまに遊びに来るくらいだが……」


リョウタをジュンというのは、コウの友人で、リョウタが今回《神様アプリ》の被害に遭った。
コウにこの二人、それに加えてシオリというコウの幼馴染み。コウのクラスではある意味この四人が一つのチームのようになっている。


「え、面白いのに。卯月は結構来ますよ?」


他愛もない話をするソラ、コウ、サクヤと、押し黙るユウキとアスカ。前者と後者では、雰囲気にかなりの差があった。
ユウキに至っては、杜宮学園から七星モールに着くまでに一言も発していない。姉の命がかかっているのだが、当然と言えば当然なのだが。


「――《異界》の反応があるわ。間違いない、建物内のどこかに《異界化》が発生しているはずよ」


アスカがサイフォンを見ながら言う。
アスカやコウのサイフォンには、《異界化》をサーチするアプリが備わっており、アプリを起動すると使用者の近辺で《異界化》が発生していないか知らせてくれる。
ちなみに、《適格者》の《ソウルデヴァイス》もサイフォン内にデータが保存されていて、《異界》の力が近くにある場合のみ、顕現させることが可能らしい。


「さて、と。探索開始、ですかね」




* * * * *





夕方だからか、想像以上に人は少なかった。だが、かえって好都合だ。人が少ないぶん、探索が少しだけ楽になる。
だが、夜になってもここにいることは、"高校生"という身分が許してくれない。迅速に、かつ慎重に物事を進めなければ。


「ここか、例のサーバーが管理されている部屋ってのは」


結局、例のサーバー室は二階にあった。
鍵は、アスカが術でなんとかできるらしい。《ネメシス》の技術だろうか。
なかに入ると、大型の端末が十数個近く並んでいた。このなかのどれかに、《神様アプリ》が入っていることになる。
アスカがサイフォンを操作すると、青い光が発せられ、、直後、《門》が顕現された。この《異界》が、"元凶"である"エルダーグリード"の存在する《異界》だろう。


「――だったら僕はここまでだな」


ふと、ユウキが呟いた言葉。


「ユウキ君……?」
「ま、引きこもりの不登校児なんてさすがに足手まといだろうしね」
「あれ、よくわかってるじゃないですか」
「卯月は黙って。……そんな真似をするほど僕は無鉄砲でも無謀でもない。身の程を弁えるのも能力のうちってね」
「……だそうよ?」
「……そこでなんで俺を見んだよ」


確かに、コウは自分の危険も顧みず、自ら危険に飛び込んでいた。少なくとも、《適格者》として目覚める前に二回ほど《異界》に足を踏み入れている。
まさに、無鉄砲の塊だ。


「――僕は、自分ひとりだけで生きて行けるとずっと思ってた。小さい頃から"天才"持て囃されて、自分以外の人間はみんな見下して……それこそ、自分のことを"神様"だと本気で思ってたイタい奴さ」
「………………………………」


――素晴らしい! この子は……正真正銘の"天才"だ!
周囲に期待され、周りに"天才"だと言われて育った年の離れた兄の姿がフラッシュバックする。
卯月がいくら追いかけても、御兄様はその倍の速さで進んでいかれる。
でも、それは仕方のないことなんです。
卯月は"凡人"で、御兄様は"天才"なんですから。


「でも……けっきょく今回、僕は何もすることができなかった。僕のせいで姉さんが危険な目に遭って……それを見ていることしかできなくて」


予想外の出来事――マンションの一室じゃ想像も出来ないようなことが起こったとき、コウたちに頼っていてばかりだった。
そのうえ学園にはトワのような"本物の天才"がいて、完全なる敗北を思い知った。
全ては、自分が未熟だから。


「ついて行けないのは、はっきり言って悔しいけど……どうか、姉さんのことをよろしく頼むー――!!」


それは、はっきりとしたユウキの決意。その決意に反応してか、突如、ユウキからまばゆい光が放たれた。
サクヤの時と同じーーー《適格者》が覚醒する時にのみ、放たれる光だ。


「ブートーーーカルバリー・メイス!」


現れたのは、ユウキの身長よりも少し小さめの《槌》と、ふわふわとユウキの隣で浮く球、《霊子殻》。
割りと小柄なユウキでも扱いやすく、スマートな形になっている。
……これが、ユウキの《ソウルデヴァイス》。


「な、にこれ!」
「うわっ!?」


サクヤが思わず前に飛び出て、《霊子殻》を両手で包み込む。
その目はキラキラと輝いており、困惑した様子のユウキをさらに困惑させた。


「《霊子殻》……この球で、周囲の霊子を圧縮させて、弾の形状にして撃つんですね! それに、この浮遊は……すごい、重力関係はどうなっているんですか!? 四宮!」
「知らないって、そんなこと聞かれても! だから……ああもう、いい加減放れろって!」


グイッと顔を近づけたサクヤに、ユウキが思わずドキッとする。
……ドキッとする?
いや、ない。断じてそんなことはない、と頭を横に振る。
顔に集まった熱をどこに逃がそうかと目を泳がせた先にあったのは、《異界》の入り口である《門》だった。
先程は見えなかったはずだが、いつの間にか見えるようになっている。


「で――どうする? お前がその気なら、全力でフォローしてやるぜ」
「うん……! わたしも力を貸すよ!」
「卯月も、特別に力を貸して差し上げます。出血大サービスですよ? 感謝してください!」


ユウキはうつむき、目を閉じた。
ずっと、一人だと思っていた。仲間なんか、いないって。
でも、今は、こいつらは。


「ああ――よろしく頼む!」

待ってろよ、姉さん。


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