▼▽▼


第弐霊子結界。それがこの《異界》の名称。
《異界》がサーバーを通して繋がっているからか、《異界》内も電脳的な雰囲気を漂わせている。
コウ、ユウキ、サクヤが先行し、アスカとソラの二人がバックアップに回っていた、が。


「四宮、邪魔!」
「そっちこそ邪魔だよ!」


サクヤとユウキ、二人とも、戦い方は悪くない。
ユウキという強力なシューターがいるからかサクヤは近距離での戦闘をメインにしているし、ユウキもあまり前に出すぎないようにしている。
それでも二人は、根本的に息が合わないのだ。


「……ちょっと、四宮! 普通あそこで撃つ!? 卯月に直撃するところだったじゃないですか!」
「避けると思ったから撃ったんだよ。そっちだって、一つの敵ばかりに集中して、その他の敵全部僕に流れてきてるんだけど? 前衛の意味わかってる?」
「つまり、自分の方がたくさん敵を倒してるって言いたいんですか?」
「言いたいも何も、実際その通りでしょ」


今にも掴みかかりそうな二人を、コウが制す。
だが、今の二人には何を言っても無駄だ。


「でしたら、卯月と勝負しましょうか」




* * * * *





「九、十、十一……」


サクヤの出した勝負とは、先に《怪異》を二十体倒した方が勝ちという、極めてシンプルなもの。
ただし、自分以外の誰かが一回でも攻撃してしまった《怪異》は、カウントされない。
そのため、前衛も後衛もほぼ関係なく、二人はひたすらに走っていた。
先行メンバーであったコウも、今では完全にバックアップメンバーの仲間入りをしている。
サクヤもユウキも移動手段では空中攻撃などで使う飛翔スキルを多発するので、見失わないようにするだけで精一杯だった。


「十七、十八、十九……よし、卯月、あと一体です!」
「おあいにく、僕もあと一体だよ」


二人は顔を見合わせると、我先にと飛翔スキルを使った。
行き着いたのは、広間のようになったエリア。見たところ、何もないようだ。


「…………っ!? 待って、サクヤちゃん、四宮君!」
「え」


アスカの声が背後から聞こえたときには、もう飛翔スキルによって突き進む自身を止める術などなかった。そのまま二人は、あっけなく広間へ足を踏み入れてしまう。
足が床につく感覚があった直後、いきなり今来たばかりの道が魔方陣のようなものによって閉ざされた。先へ続く道も同じく、だ。
魔方陣の外側で、コウとアスカ、ソラが立っている。コウが魔方陣を叩きながら、口をパクパクさせていた。


「えっと……コウ先輩は、いったい何をして……?」
「大方、この魔方陣が邪魔で、声が届かないんじゃないの?」
「へー……って、卯月たち、閉じ込められちゃったじゃないですか!」


先へ進む道も、この魔方陣で閉ざされてしまっている。つまりこの魔方陣を解除しないかぎり、サクヤとユウキは広間から出られない上に、コウやアスカ、ソラもどうすることもできない。そうなると、五人だけではなく、奥で囚われているアオイも無事では済まないのだ。

サクヤがムッとしてダン、と大きく床を踏む。
卯月が、卯月が勝負なんて言い出さなければ。
そう思いかけた瞬間、広間の中央に《怪異》が現れた。
ここに来るまでに何度か見かけた《怪異》と同じだ。行動パターンはもう読めている。


「……二十体目は、卯月がいただきます!」


最初に飛び出たのは、サクヤの方だった。
《怪異》目掛けて、《ソウルデヴァイス》を構え直す。
機械のような構造の《怪異》で、その仕組み故レーザーも出せるらしい。
周囲の霊子が《怪異》の集中するのを確認すると、サクヤは高く跳んだ。
真下は、霊子を集めて行動不能になっている《怪異》。


「潰れて」


二本の《ソウルデヴァイス》を構えると、サクヤは《怪異》の真上で急降下した。
サクヤの剛撃スキル、レジスタシア。敵の頭上から全体重と霊子をかけて急降下し、《怪異》を粉砕する。
やった!
あと数十センチメートルで《ソウルデヴァイス》の先端が届く瞬間。


「卯月!」


サクヤの視界は突然真っ白になり、全身に衝撃が走った。


「きゃああ!?」
「…………っ!」


《怪異》に吹き飛ばされたサクヤの背後に迫るのは、頑丈そうな壁。直撃すれば、大怪我は確実だろう。
立て直そうにも《怪異》の攻撃を正面から受けて、手足は空中で動くだけの力が無い。
ぎゅっと目を瞑ったその時、


「………………あれ…………」


壁に当たったであろう衝撃が、いつまで経ってもこない。
思い切って、パッと目を開けてみた。


「……四宮……っ!」


サクヤの周りでは、数個の《霊子殻》がぐるぐると回りながら浮遊していた。それは間違いなく、ユウキの《ソウルデヴァイス》だ。
《霊子殻》はそれぞれにバリアを張っており、それが回転することによってサクヤを衝撃から守ったのだろう。
サクヤの数メートル先では、ユウキが一人で《怪異》と対峙していた。


「これで、貸し一つだからね!」
「……まさか、霊子を充填してる最中で方向転換するとは…………不覚でした」


サクヤはすぐに立ち上がると、ユウキの隣に行って《ソウルデヴァイス》を構え直した。
さて、どうしたものかと考える。
この《怪異》は、明らかに他のものとは少し違う。
正面から戦うだけでは、《ソウルデヴァイス》に扱い慣れていないサクヤたちに勝ち目はない。
しかし、応援が呼べない今、サクヤとユウキの二人でなんとかするしかないのだ。
仕方ない、ここは。


「……ねえ、四宮」
「……何?」

「……共同戦線と、いきませんか?」


ALICE+