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「おーにさーんこーちら、てーのなーるほーうへ!」
機械仕掛けの《怪異》を、サクヤが翻弄していた。
右へ、左へ、あるいは上へと、次々と移動して《怪異》を惑わす。
「あは、遅いですよ!」
へらへらと笑いながらアクロバティックな動きを見せる彼女だったが、なぜか攻撃だけはしなかった。いや、できなかった。
他の《怪異》とは違って知能が高い《怪異》であるせいか、サクヤが射撃などで反撃しても最小限の動きでそれを避けるのだ。
《怪異》の攻撃をかわしながら、サクヤはちらりと魔方陣の外を見てみる。
コウは少し焦ったように、ソラは心配そうな顔で、そしてアスカはいつもと変わらず、冷静に結界内を見ていた。
これは、頑張らなければ!
フッとサクヤは笑うと、《怪異》の周りを縦横無尽に駆け回った。
姿は普通にとらえることのできる速さだが、その駆け回っている時間が長い。ずっと見ていると、だんだんと疲れてくるくらいだ。
と、その時。
「…………っ! やばっ」
サクヤの行動パターンが読めたのか、《怪異》がサクヤの足下を狙ってレーザーを放った。
なんとか当たらずにすんだものの、それでバランスを崩したサクヤはその場で転んでしまう。その隙を狙って、《怪異》が再びレーザーを放とうと霊子を集める。
サクヤは一歩も動くことが出来ず、自らに向けられたレーザー口に目を見開いた。
あと数秒でレーザーが放たれる。
その時、サクヤの口が開いた。
「四宮っ!」
彼女が叫んだ瞬間、《怪異》の後ろに影が差した。
それは間違いなく、《ソウルデヴァイス》を構えたユウキの姿。
「くらいなよ!」
振り下ろされた《ソウルデヴァイス》が《怪異》に当たると、瞬時に粉砕された。床に散らばった機械のパーツも、霊子のような細かい粒になって消える。
直後、広間を閉ざしていた魔方陣が消えた。
「サクヤ! ユウキ!」
三人がサクヤとユウキのもとへ駆け寄ってくる。
コウが二人の前で立ち止まったかと思うと、右手をサクヤ、左手をユウキの頭の上に乗せ、ぐりぐりと押した。
「ちょっ、センパイッ……!」
「いたたっ! ひ、酷いですよっ、コウ先輩……っ!」
わあわあと騒ぐユウキとサクヤに、コウは頭を抱えた。
とんだ問題児が揃ってしまった。
「……でも、本当に良かったです。サクヤちゃん、転んでましたけどたいした怪我がなくて」
「ああ、あれ、演技です」
「え、演技だったんですか?」
ソラの驚いたような声に、サクヤはうん、と首を縦に振った。
「あの《怪異》、本当に隙ってものがなかったんですよ。ですから、咄嗟にあのような作戦を立てました」
人間というのは、動くものに目を奪われる。そしてその動くものが急に止まったとき、さらに注目してしまう。
それをあの《怪異》に応用したというわけだ。
「《怪異》が"知能"ってものを持ってて助かりました。まあ、後はすごく単純で、背後から四宮にドカンと一発くらわせてもらったってとこですかね」
「いきなり一歩も動くなとか、剛撃スキル一撃で決めろとか言われたときはどうしようかと思ったよ」
コウの手から解放されたユウキが頭の後ろで手を組む。
サクヤとユウキ。普段は水と油のような二人だが、いざという時のコンビネーションは目を見張るものがある。
「ああ、でもさ。あんたの射撃の命中力の低さ、どうにかんない? 僕にまで当たりそうになってたんだけど」
「そっ、それを言ったら四宮だって、剛撃で壊れた床の破片が卯月に当たりそうになってたんですけど!」
……あくまで、"いざという時"のコンビネーションということであって、普段から仲が良いというわけではないのだが。
「ちなみに二人とも、ちゃんと反省はしているのかしら?」
「ゴメンナサーイ」
「スミマセンデシター」
アスカがため息をつくのと同時に、コウのデコピンが二人の額に炸裂した。