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その時のサクヤはすこぶる上機嫌だった。
理由は言うまでもなく、ゲームセンターにあるアーケードゲームにある。
「まさか、あそこで一番のレアものが釣れるとは……最後まで粘ったかいがありました」
サクヤが遊んだのは、"爆釣遊戯with魔界皇子リィン"という釣りをテーマにしたアーケードゲーム。TVアニメ「魔法少女☆まじかるアリサ」のキャラクターである魔界皇子リィンを操作して、各地の釣りを楽しむという、若干の博打的要素も練り込んだ新作ゲームだ。
ランダムで釣れるものによって、報酬のメダルの量が変わるため、最後まで粘ったの者が勝ちなのである。
見事レア度最高の「アークタイラント」と釣ったサクヤの気分は、まさに有頂天だった。
が、ふふ、と笑いながら店を出るサクヤの前に広がっていたのは、地面に叩きつける豪雨。とりあえず、傘なしでは五分と立たずにずぶ濡れになってしまうのではないかというほどの。
事前に傘を持ってきていたサクヤにとっては、たいした問題ではなかったが。
「もう! 急いでるのに〜!」
隣で喚いている少女にとっては、重大な問題だったのだろう。
傘を持っていないことから、ここで立ち往生していることが想像つく。
「……あの、これ、いりますか?」
その喚く姿があまりに可哀想だったため、ついそう申し出てしまった。
サクヤは雨がやむまでゲームセンターにいれば良いことだし、何のデメリットもない。ただ、この後《七星モール》にあるアニメイトにいけないのが少し残念だったが。
「! ありがとう! あたし、玖我山璃音。キミは?」
「卯月は、卯月桜夜といいます。リオンさんというと、あの《SPiKA》の……?」
最近になって人気が急上昇したアイドルグループ《SPiKA》。天堂陽菜、如月怜香、柚木若葉、七瀬晶、そして玖我山璃音の五人で活動しており、大人気アニメやゲームの主題歌を務めたこともある。
中でもリオンは、歌唱力の高さで有名だったはずだ。
「そう、そのリオン。今はお忍び中ってカンジだから、このことは黙っておいてくれると嬉しいんだけど……」
黙っておくも何も、サクヤには最初から話す気などない。
彼女はアイドルなのだ。このことがインターネット上にでも流れたりしたら、それはもう誰にも止められない。
インターネットの情報の拡散するスピードは、ある意味驚異的なものだ。彼女たちへの誹謗中傷、あるいは根も葉もない噂を立てられ、彼女たちの知らないところで非難の目を浴びせられるかもしれない。
「安心してください。卯月は、そのようなことはいたしません」
サクヤが首を振って言うと、リオンは安心したように「ありがと」とふわりと笑った。
さすがはアイドル。笑うとやはりかわいい。
「ああ、そうだ。お礼をしたいから、一緒に来てくれるかな? 奢ってあげる」
* * * * *
「さあ、好きなもの頼んじゃってー!」
蓬莱町にあるカラオケボックスの一室にて、リオンがマイクを通して言った。ノリノリである。
「いや、ここ、カラオケですよね。まさか奢るって、カラオケの料理……?」
「ふふ、最近のカラオケも日々進化してきているのよ。カラオケに料理だけ食べに来る人もいるんだから」
と、からかうように笑う彼女だったが、端末で曲を入れる速度は速く、手つきが慣れている。よほど常連なのだろう。
一方、サクヤはずっとメニューと一人でにらめっこをしていた。メニューが多すぎて、どれを頼めば良いか分からない。
一応サクヤは一人でカラオケに来たことはあったが、そのときはソフトドリンクしか頼まず、余計に何を頼めば良いか分からなくなっていた。
「なーに悩んじゃってるのよ。しょうがないから、ここはあたしがオススメを選んであげる」
「なるほど、そのほうが間違いなさそうですね。では、ソフトドリンクはいちごオレでお願いします」
「りょーかい」と言ってリオンはメニューを持って席を立つと、個室の電話から注文を始めた。
一体何を頼んだのか。少し気にならないこともない。
「それじゃ、料理がくるまで歌いまくろう! 卯月ちゃんも好きな曲入れて良いよ!」
それから曲のイントロが始まり、スカートをひるがえして踊るリオンの姿が目に映る。
数分後、注文したいちごオレとリオンのウーロン茶、特製ソースつきのフライドポテトが運ばれてきた。リオンお言うとおり、最近のカラオケの料理も進化してきているのかもしれない。
「よーしじゃあ次! 卯月ちゃんによる"恋のシューティングスター"!」
「う、歌いませんからね!?」