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「歌った歌った−! やっぱり思いっきり歌うとスッキリするよね!」
「よくあそこまで長時間歌えますね。喉とか疲れないんですか?」
「全然。歌にはね、ちゃんとした発声の仕方っていうものがあるんだよ。上手く使えば、何時間歌っても疲れたりなんてしないんだから。今度、卯月ちゃんにも教えてあげる」
「ありがとうございます、玖我山さん」
カラオケボックスを出てサクヤがにこりと微笑むと、リオンは少しの間考え込んだ。
辺りはもう真っ暗で、女子二人で帰るには少し不安が残るが、まあ大丈夫だろう。いざという時は、卯月が玖我山さんをお守りすれば良いんです。
「……ねえ。その、玖我山さんって、やめない?」
「え?」
どうしたんですか、と言おうとして、それはリオンが続けたことによって阻まれた。
少し口調が強いかも。
「えっと、あたしって職業柄、名字よりも"リオン"って名前で呼ばれる方が多いじゃない? だから、その……あたしも、キミのこと"サクヤ"って呼ぶからさ、キミもあたしのこと、"リオン"って呼んでほしいな、なんて……」
困ったように目を泳がすリオンを、サクヤは呆然を見つめた。
リオンとサクヤは、まだ出会ってから数時間しか経っていないのだ。たったの数時間で、まさかこの言葉を言われるとは。
もちろん、友人が増えるということはとても嬉しいことだ。生まれてから片手で数えられる程度しかいなかった人物が、また一人と増えるのだから。
ちなみに、ユウキはカウントされない。
「あ……えっと、卯月でよければ、喜んで、リオンさん」
「もう……リオンでいいのに」
「一応、リオンさんは卯月の先輩にあたりますから」
「え、嘘。どこでわかったの?」
「先程、リオンさんの鞄から杜宮学園の生徒手帳が見えたもので。雑誌に載っていた年齢から、リオンさんは二年でしょう? 卯月は一年なので、リオンさんは立派な先輩です」
「………………」
まさか、自分が杜宮学園の生徒だとバレていたとは。今は変装をしていて、杜宮学園の制服を着ていないから大丈夫だと思っていたのに。
個人情報に繋がるものはトラブルを招きかねないから、取り扱いには充分気をつけていたつもりだったが。
「っ、あははっ!」
「え、な、何故笑うのですか! 卯月は、何も変なことは言っていないはずなのですが!?」
「いや、ね。ごめん、あたし、キミみたいな子、初めてだったから。っていうかサクヤって、たまに変な子って言われたりしない?」
「へ、変な子!?」
オドオドと狼狽えるサクヤを見て、リオンはさらに笑う。
そういえばリオンも、《SPiKA》以外でよく話す友人は、意外と少なかった気がする。常に《SPiKA》を中心として生きてきた彼女にとって、友人というものにはどこか縁遠いものを感じていた。
「ねえサクヤ。帰りに、駅前広場に寄っていかない? あたし、ちょっと欲しいものがあるんだよね」
「あ、奇遇ですね。卯月も、帰りに駅前広場に行こうと思ってました」
二人の少女が、笑い合いながら歩み進める。
その影を見ている者がいたということは、後から気付いたことだ。