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「――ついてこないでよ!」
「リ、リオンさん!」


レンガ小路にて、リオンが叫んだ。
その原因は、リオンとサクヤの前に立ちふさがる不良二人。以前サクヤに絡んだ不良二人でもある。彼らは、サクヤたちをずっとつけていたのだ。
駅前広場で一度声をかけられたが、恐らくその前、蓬莱町辺りから。
「大声出すんじゃねえよ」「ほら、こっち来いって」とリオンの手を引っ張る不良二人に、サクヤがその手を払う。


「いって……おいおい、何の冗談だ?」
「よく見ると、あんたも良い顔してんじゃん」
「なっ、何するんですか、離してください!」
「サクヤ!」


リオンの前に出て庇ったつもりだったが、男と女の力の差は埋まらない。
手を掴んでも無理だと考えたのか、今度はサクヤの腰に手を回して担ぎ上げた。かなり気持ち悪い。
じたばたと暴れてみても、何も無い。深夜だから人もいないし、助けも呼べない。

どうしよう、困った。
リオンはもう一人の男に手を掴まれていて、サクヤもリオンもレンガ小路の路地裏に連れて行かれた。これは、本格的にヤバイのでは。


「ーーーいい加減にしてよ! こんな所までついてきて……警察呼ぶわよ!? それに、サクヤまで巻き込んで……」
「リオンさん、卯月は大丈夫ですから、お逃げください!」


少し離れた場所でおろされたサクヤとリオンは、不良二人に囲まれる形になってしまった。
前には不良。後ろには壁。リオンと不良の間に、サクヤが立ちふさがっている。
ここで昼間のように相手をしても良いのだが、不良一人を相手にしている間に、もう一人がリオンの方に行くかもしれない。
明らかにこちらが不利だ。


「な、なんなのよアンタたち……」


"警察"というワードにも不良は反応しない。
仕方ない、ここは卯月が不良を引きつけて……。


「――そこまでだ」
「え……」


ふとかかった、聴き覚えのある声。
杜宮学園の制服に、グレーのパーカー。
時坂洸。彼がやってきた。


「ったく、女二人相手に恥ずかしくねぇのかよ? 二人がかりの強引なナンパなんてダサすぎやしねえか?」


不良二人は、明らかにコウよりも身体が大きい。しかもコウは一人に対して、不良は二人。
にもかかわらず、コウは凛として立っていた。これは、ちょっとかっこいいかも。


「それじゃあ正しいナンパな仕方ってのを教えてくれよ――なあっ!」


不良の一人が、コウに掴みかかる。が、コウはそれを顔色一つ変えずに避けた。
支えをなくした不良は、そのまま地面へ派手に転ぶ。


「どうした? 急につまづいちまって」
「てめえ……!」


負けじともう一人がコウに掴みかかるが、それもコウは難なく避ける。
不良の背後に回り込み、腕を押さえ込んだ。
コウは武術を習っていてその腕前は確かだし、幾度となく《怪異》を相手にして戦っているのだから、当然の結果だ。


「お見事です、コウ先輩。卯月の出る幕ありませんでしたよ」
「サクヤか。ったく、こんな時間に何やってんだよ……」


ため息をつきながらコウが不良二人に帰るよう促すが、二人は笑うだけだった。
そのうちコウが押さえ込んでた不良の手がバキバキと嫌な音を鳴らし、ついにはコウの手を振り払ってしまう。


「クク、いい気になるなよ……?」


不良がそう言った瞬間現れたのは、凄まじい闘気。
瞳が赤く染まり、余裕の笑みを浮かべている。


「この闘気……!」


昼間に引ったくりをした、あの男と同じ!


「そんじゃ、第二ラウンド開始と行こうか――!」


あのコウの力を簡単に払ったのだ。いまの状態で相手にするとなると、厄介なことになる。
《ソウルデヴァイス》でもあれば良いが、《ソウルデヴァイス》は《異界》の力が強い場所以外では顕現できない。

不良が一歩前へ出てコウへと向かったが、その動きは止まった。
不良の背後で、腕を押さえている人物によって。


「……よう、邪魔するぜ」
「シ、シオさん!?」


そう、昼間商店街にてサクヤに加勢した高幡志緒本人。
シオの腕力ですら振り払われてしまったが、大したダメージではないらしい。


「……お前らも久しぶりだな。色々、聞きたいことはあるが……その力、どうやって手に入れた?」


シオに一睨みされると不良の闘気も消え、「何も話すことはない」とすんなり立ち去った。
不良二人のパーカーには《BLAZE》の文字が描かれていたが、シオと何か関係があるのだろうか。どうやら、両者ともに面識はあるらしい。


「大丈夫ですか、リオンさん」


緊張も解けたリオンに、サクヤが声をかける。
外傷こそないが、精神的ダメージは大きそうだ。


「ありがとうございました、シオさん。今日は二度も助けられてしまいましたね」


コウとリオンが言うのに合わせてサクヤも礼を言うと、「とっとと帰れ」と言われてしまった。相変わらず愛想がないというか、厳しい。
そのままシオは立ち去ろうとして……止まった。サクヤの姿を見て。


「またお前か」
「……とんだ巻き込まれ体質だということは、重々承知しています……」


ため息をつくサクヤにシオはまた前を向くと、その場をあとにした。


「こんなところで何やってるんだよ、玖我山」
「うっ……あはは……コンバンハ、時坂君」


驚いた。
コウとリオン。まさか面識があったとは。
すぐにコウがリオンに説教を始め、サクヤもゆっくりその場を離れようとした。が、がっしりとコウに腕を捕まれて逃げられない。
なんとか逃げ出したリオンは、コウとサクヤに別れを告げてからその場を走り去った。
家がこの近辺だと言っていたが、それは本当なのだろう。


「……怒ったり礼を言ったり、相変わらず忙しい奴だぜ」
「あ、コウ先輩。もしかして、リオンさんに惚れてるんですか?」
「年上をからかってんじゃねえ」


怒られてしまった。


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