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五月二十二日、昼休み。
毎度のことながら、コウ、アスカ、ソラ、ユウキ、そしてサクヤの五人は杜宮学園屋上に集まっていた。
話はもちろん、最近活発化してきた《BLAZE》というチーム、そしてそのチームが持つとある力について。
そこで昨日様子を見ていたアスカはこう考えたのだ。
《BLAZE》が、《異界》に関わっている、と。


「少なくとも"兆候"はあると思う。昨日、私が行った情報収集ーーーそして時坂君とサクヤちゃんが遭遇した昨夜の事件。さらに、昼間商店街で起こった事件を照らし合わせればね」
「え……し、知ってたんですか」
「ええ。昨夜はサクヤちゃんが帰ったあとに時坂君と少し話していたし、昼間はあの場に私もいたしね」
「た、助けてくれたっていいじゃないですか……」


アスカ先輩が見ていたなんて……卯月、一生の不覚です!


「ああ、今朝の新聞でやってた、引ったくり犯を捕まえた勇敢な少女って卯月だったんだ。たかだか引ったくりで不良なんかに突っ込んでいくなんて、バカじゃないの?」
「卯月はバカじゃないです! それに、四宮なんかには関係ありません!」


ソラを間に挟んでいがみ合う二人に、コウとアスカがやれやれと頭を押さえる。
また始まった。


「大丈夫だよサクヤちゃん! ユウキ君は、サクヤちゃんのことを心配してるだけだから!」
「はあああ!? どこをどう聞いたらそんな考えになるんだっての!」
「え、違うの?」
「違う!」
「心配すらしないなんて、やっぱり四宮は最低ですね!」
「え、いや、それは……じゃなくて! 《怪異》相手に一人フルボッコする女の子なんて、心配する必要ないでしょ?」


珍しくユウキが落ち着きがなく、頬がほんのり赤い。
全くもって、思春期の男子というものはめんどくさいものだ。


「……あれは確かに"人間離れした力"だった。それとあの"紅い瞳"ーーー《異界》絡みかどうかはともかく、普通とは思えない光り方だったぜ」
「それ、《卯月》も見ました。カラーコンタクトを使用したとしても、あそこまで紅くはならないと思います」


昨夜の不良たちもそうだが、昼間の引ったくり犯も同じだ。
あの尋常ならざる力が溢れ出すと同時に、両目が紅く染まる。


「……そういえば、その場に高幡先輩も現れたんですよね?」
「ああ、いいタイミングでな。どうも《BLAZE》とは因縁がありそうな感じだったぜ」
「小日向君が恐喝された現場にも彼は姿を現していたーーー彼も《BLAZE》を追っていると考えるのが自然かもしれないわね」
「昼間の引ったくり事件のときも、シオさんに助けていただきました。不良に向かって、"変わったな"とか言っていましたが……」


杜宮市のあちこちで《BLAZE》が事件を起こすたびに、シオは姿を現している。彼自身も、単独で《BLAZE》を追っているということだ。
だが、それはいったい何のために?
彼がもしも《BLAZE》の一員なのだとしたら、コウやサクヤに加勢したりはしないはずだ。


「ヤンキー同士の因縁なんてあんまり知りたくもないけど」
「も、もう、ユウキ君」
「てか郁島……名前で呼ばないでくんない? なんかいつの間にか呼ばれててつい流したけどさ」
「ええ〜〜っ!? 今さら変えられないよ。それじゃあユウ君、とか?」
「もっと悪いだろ!」


面白がってからかうソラと、頑なに拒否するユウキ。
《BLAZE》や《異界》などそっちのけで、二人の間には会話が弾んでいた。


「え〜……結構いいと思ったのに。サクヤちゃんも、ユウ君とか、ユウキ君の方がいいと思うよね?」
「いえ、卯月は気持ち悪いとしか思いません」
「僕も卯月に名前で呼ばれるとかお断り」


祖ソラの爆弾発言によって再び始まりそうな攻防戦を、コウが止める。
だいたい、卯月に名前で呼ばれたことなんて……。

"頼みますよ、ユウキ"

あった。
一回だけ。
確か、姉さんを助けに行ったときに。
最奥の装置へ向かうサクヤに迫るエルダーグリード。そのエルダーグリードをユウキが足止めしたときに、サクヤが発した言葉だ。
恐らく、完全に無自覚。

ユウキ。
僕の、名前。
それを呼ばれた瞬間、体温が一気に上がり、心臓がバクバクうるさくなって……って、ああああ!
バカか、僕は!
「ああぁ……!」と情けない声を出すユウキに、サクヤは冷ややかな目を向けた。何をやっているんだ、こいつは。


「――ま、ともかく、今回も協力させてもらうぞ? 何かあるってわかった以上、見過ごすわけにはいかねえからな」
「卯月も、頑張ります! 前回は、足を引っ張ってしまったので……」
「……いいでしょう。力を貸してもらうわ。ソラちゃんや四宮君も協力をお願いしてもいいのね?」
「ふふ、もちろんです! 郁島空――微力ながら、力にならせていただきます!」
「ま、何か起きたら手伝うって約束だからね。退屈な授業に比べたらダンゼン面白そうだし」


ここにいる五人の意見が一致した。
活動は、放課後。


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