▼▽▼
「どうやらこの先みたいですね、《BLAZE》お気に入りのダンスクラブっていうのは」
サクヤのサイフォンによるサーチと聞き込みの結果、《BLAZE》のいるダンスクラブは《ジェミニ》という店らしい。
ゲームセンターの横道を少し進んだ場所にあり、意外と身近にあったことを感じさせる。
「――おい、坊主ども」
その時背後からかかったのは、耳に馴染みのない声。始めて聞く声だ。
その声を発したのはとある成人男性で、上下白のスーツに胸ポケットにはサングラスと、いかにも"ヤクザ"を表現したような格好をしている。言うまでもなく、正真正銘のヤクザだろう。
とりあえず、今この場にいるサクヤ、コウ、ユウキの知り合いに、ヤクザなどはいない。
「さっきからそっちの路地を覗き込んでいるようだが……何か、用でもあるのか?」
「いやぁ……用事っつうほどのモンでもないッスけど」
「なら、やめておけ。跳ねっ返りどもが最近出入りしているからな、巻き込まれたくなきゃあ、他所で遊ぶといい」
たったの一言だったが、その一言は三人の心に重くのし掛かった。
成人男性の威圧に、あのコウやユウキですら狼狽える。
恐らくこの人物は、ヤクザのなかでも相当――。
すると、「アニキ!」という声と共に成人男性の仲間であろう男が走ってきた。成人男性を呼びに来たらしい。
成人男性はコウの顔を見て少し思うところがあったらしいが、すぐに「忠告はしたぞ」と言って立ち去ってしまった。
いったい何だったんだ。
「……も、もう行きましたよね?」
「あの人が来てすぐセンパイの後ろに隠れるって、どんだけビビりなの」
「四宮うっさい!」
* * * * *
《ジェミニ》内は、とても賑わっていた。
《BLAZE》メンバーは奥の個室に集まっていて、昨夜の二人はいない様子だったからひとまず安心だろう。なるべく奥には近づかないようにし、情報収集を始めた。
ちなみにユウキは仕事―といってもハッキングだが―の関係で取引をすることがあるので、顔バレしないようにフードをかぶっている。
ちなみに今日入手した情報はこれだ。
・《BLAZE》の初代リーダーの一人は「カズマ」といい、彼がリーダーだった頃の《BLAZE》は割と評判が良かったということ。
・だが、「カズマ」の名前は《BLAZE》ではタブーとされていること。
・現在のリーダーは「アキヒロ」とだが、その人物は《BLAZE》や《BLAZE》を知っている他の人物にも恐れられていること。彼がリーダーになってから、《BLAZE》絡みの事件が多発するようになった。
・そして、《BLAZE》は秘密裏に何かを作っているということ。
《異界》絡みかどうかは少し決め手に欠けるが、これだけ情報が聞き出せれば充分だろう。
少し早めに切り上げようとした、が。
「昨日、邪魔してくれた小僧がこんな所にいるとはなぁ……!?」
店を出ようとしてコウの肩が当たってしまった人物が、昨日リオンとサクヤに絡んだ不良二人だったのだ。
逃げようと思ってもすでに三人は《BLAZE》に囲まれてしまい、動けない。
店主や一般の客も巻き込まれたくないのか、遠巻きに見ているだけ。
「ケッ、そっちのはツレか? 生意気そうなガキどもだぜ」
「それに……おっ、昨日の女もいるじゃねえか」
「! 放してください!」
不良がサクヤの腕をつかみ、奥へ連れていく。
すぐにコウとユウキが追いかけようとするが、別の不良に阻まれて動けない。
「おら、昨日の続きといこうぜ。もてなしてやるからよォ……?」
「やだっ、放して!」
今のサクヤにあるのは、怒りと、ほんの少しの恐怖。
仕方ない、ここは――。
《BLAZE》が《異界》に関わっていることを願って、サクヤはサイフォンを取り出した。
もしも本当に《BLAZE》が《異界》に関わっていて、尚且つ、《異界》と密接な関係にあるとしたら、《ソウルデヴァイス》を起動し、逆転を狙うことができる。現場を見てしまった無関係な人々には少々やり方は荒いが、あとでアスカに記憶を消してもらえばよいのだ。
だが、もし《異界》と関係がなかったら。
そんな不安を胸に残しながら、サクヤはサイフォンのアイコンをタップしようとする。あと一、二センチメートルで画面に指が触れるその時。
「――そこ、退いてくれる?」
ユウキの一言で、動きが止まった。
すぐにユウキは自らのサイフォンを取りだし、周囲の不良たちの様子をカメラで撮る。立ちふさがる不良から、サクヤの腕をつかむ不良まで、全て。
「二十四時間のセキュリティーサービスと契約しててね。僕らに指一本でも触れたら警備会社が踏み込んでくるよ? アンタらの顔もサーバーにアップ済み――今なら削除してあげてもいいけど?」
"警備会社"。
どうやらここには人に見られてはいけないようなものが隠してあるらしく、不良たちがわかりやすく動揺する。
それはサクヤの腕をつかんでいる不良も同じで、一瞬動きが止まった。そしてその一瞬を、サクヤは見逃さない。サクヤは体をくるりと回転させ、不良の頭目掛けて右足を思いきり蹴り上げた。
蹴られた衝撃で不良はサクヤから手を放す。その隙に《怪異》と対峙したときのようなアクロバティックな動きで不良たちの頭上を跳び、コウたちの隣へ着地した。
「これ、ひとつ貸しだから」
「ううっ……わかりましたー」
本当に生意気でムカつくが、助けてもらった恩もあるし、今回ばかりは許してあげよう。
「……ユウキ、挑発すんな。サクヤも帰ってきたし、いいからここは俺が――」
するとその時、店内がいきなり騒がしくなった。
不良たちは店の出入り口を見て、「ア、アンタは……」と呆然とする。
「……よう。邪魔するぜ」
「シオさん!」
立ったままの不良に見向きもせずに声をかけると、「面倒な現場に出くわしちまったらしい」と苦笑した。
さすがシオさん、苦笑する姿もかっこいい。
四宮なんかとは大違い。
「ねえ、聞こえてるんだけど」
黙ってて。
「やれやれ……アキのヤツもいないらしいな。当てが外れた。――お前らもとっとと帰るぞ」
「横からしゃしゃり出てきて、勝手なこと抜かしてんじゃ――」
「なんだ――文句、あんのかよ?」
拳を鳴らした不良を、シオはたった一言で黙らせてしまった。
やはりシオは《BLAZE》となにか因縁があるらしいが、いったい何なのだろう。
「オラ、行くぞ」
「あ、ああ……」
「そんじゃ、バイバイ」
「さよーなら」
店を出るシオの後ろに、三人はついて歩く。
結局、シオさんには二日で三回も助けられてしまいました。