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「相変わらずとんでもない速さだな」
「あー駄目駄目。駄目ですよ、コウ先輩。御兄様の方が、この倍くらい上です」
「ちょっと卯月、気が散るから黙るか消滅してくんない?」


翌日。ユウキの部屋にて、《BLAZE》についての情報収集が行われた。
主に動いているのは、二人。ユウキは最新機器でサイトなどからハッキングを行い、サクヤはインターネット上での交友関係の広さを利用してチャットやSNSで《BLAZE》の動向について探っている。
二人とも言い争ってはいるが、液晶画面やキーボードを扱う手は常人のそれではない。


「それで――《BLAZE》の追加情報は?」
「ああ、目ぼしいのはこれくらいかな?」


カタン、とユウキがエンターキーを押すと、一枚の画像がモニター上に映し出された。

三人の男性が仲睦まじそうに笑いあっている写真。
右側でやんわりと微笑んでいるのは、サクヤたちの先輩であるシオ。この画像は一年ほど前に元《BLAZE》メンバーがブログにアップしたらしいが、あまりシオの風貌は変わっていない。
反対に、左側の男性――アキヒロは、今とはかなり変わっていた。頭は丸刈りにし、生き生きとした瞳。気分が良さそうに、カメラに向かってガッツポーズをしている。今からは想像もつかない。


「当時は"特攻隊長"としてチームで活躍していたみたいだね。当時いた"二人のリーダー"にずいぶん心酔していたみたいだ」
「二人のリーダー……一人は高幡先輩として」
「もう一人が真ん中の――"カズマ"って人みたいだな」


恐らくシオの言う"アイツ"とは、そのカズマという人物だろう。
彼について調べることが事件解決に繋がりそうだが、現時点での情報はない。居場所さえも不明だ。


「それで、サクヤちゃん。そちらの様子はどうかしら?」
「うーん……特にこれといって情報はありませんね。卯月はSNSを中心に調べてますから、状況が分かりやすいぶん、不確かな情報も多いんですよ」
「そう……さて、今後の方針だけど」


まず、《BLAZE》が《異界ドラッグ》の材料を入手している《異界》を探すのが先決だ、とアスカは言う。
一般や警察、最悪なのはヤクザだ。それらの手に渡る前に、ドラッグの流通を止め、最終的にはその《異界》を消さなければならない。


するとその時、ユウキの機器に着信が入った。テレビ電話らしく、キーボードを少し操作するとモニターにある人物の顔が映し出される。


「よ、元気か?」
「お、御兄様!?」


それに一番速く反応したのは、サクヤだった。
真ん中に座っていたユウキを無理矢理押しやり、まじまじとモニターを見つめる。


「いや、お前の顔アップで映されても何もないし。どうせなら水着姿のダイナマイトボディお姉さまがいいよな? な、クソガキ」
「ぼ、僕に話を振らないでくんない!?」
「話をそらさないでください! 一体どうやってこの番号を……」
「あー……逆探知。前にそこのクソガキがハッキングした形跡が残ってたから、そこからさらに探知したわけ。はい、答えたからオレの視界に入ってくんな。目障りだ」


笑顔で、そしてはっきりと言われたサクヤは、しぶしぶ引き下がる。
サクヤが引き下がったことにより椅子に座っていたユウキの姿がモニターに映った。


「よ〜クソガキ。ハッキングは順調か?」
「まあね。僕にかかれば、これくらい当然でしょ」
「そうかそうか。んじゃ、そんなクソガキにオレからのプレゼントってことで」


レイヤは手早くキーボードを操作すると、とある動画をユウキのコンピューターに送り込んだ。どうやら、丁度少し前にやっていたニュースの一部のようだ。
内容は、《BLAZE》が昨夜、またしても暴力事件を起こしたということ。それだけでも充分問題だが、今回はそれだけではない。


「大変だろ? それ。けど、それには続きがあってな……その暴力事件の相手側が、ヤクザだったんだよ。しかも、病院送りにされちまったらしい。……《BLAZE》とそのヤクザ《鷹羽組》の全面戦争も、時間の問題かもな」


恐らく《BLAZE》は、あのドラッグを使って戦ったのだろう。《異界ドラッグ》に、アキヒロが使った人を《異界》に落とす力。その二つがあれば、《BLAZE》にとってヤクザなど敵ではない。
だがしかしこれで、ヤクザに《異界ドラッグ》の存在が知られてしまった。今後は《鷹羽組》も、この事件に深く関わってくるだろう。


「オレ、結構お前のこと気に入ってるからな。感謝しろよ、クソガキ?」
「はあ……どうせなら、その情を妹に向けた方が良いんじゃないの?」
「あー無理無理。オレあいつのことマジで無理だわ」
「………………」


生まれてからずっと言われ続けてきた言葉だ。もう慣れてる。
なのに、少しだけ泣きそうな気持ちになってしまうのは、まだ卯月に御兄様への期待がほんのちょっぴり残っているからかもしれません。


「――悪いが俺は蓬莱町の方に行ってみる。バイト先もあるし、一応様子を見ておきたいんだ」


そんなサクヤの様子を見てか、コウがいきなり話題を転換した。


「だったら私も付き合うわ。《BLAZE》の溜まり場――一度、中を確認しておきたいし」


溜まり場というのは、あの《BLAZE》お気に入りのダンスクラブ、《ジェミニ》のことだ。
そこに訪れたのはコウ、ユウキ、サクヤの三人だけで、そのときアスカとソラは別の場所を調査していた。一応、見ておく必要があるのだろう。もしかしたら、《BLAZE》がたくさんいた奥のボックス席に何かあるかもしれない。


「んじゃ、僕はその間にネットで《BLAZE》の動向を探っておくよ。卯月、そっちのSNS引き継ぐからサイフォン貸して」
「は、はい」
「わ、わたしも足を使って市内の様子を確かめてみます!」
「でしたら、卯月はソラさんについていきますね。四宮は普通に一人でも大丈夫そうですし」
「だったら、オレはもう仕事に戻るぜ。ま、せいぜい頑張るんだな」


コウが礼を告げると、レイヤは通信を切った。モニターには何も映っていない。
役割分担を終えたコウたちは、早速休日の杜宮へと出掛けた。

部屋を出る直前、サクヤが少しだけ寂しそうに顔を歪ませたことが、ユウキにとって唯一の気がかりだったのだが。


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